192:公式任命Ⅱ
リアルイベント発生中
ちょうど昼に差し掛かる時間帯に俺と唯はふたり揃って歩いていた。目的地はもう目と鼻の先、約束の時間にはまだ余裕が有るのでゆっくり歩いても十分間に合う。
唯は当然のように俺の腕を取り、そのまま俺に体重を預けてくる。腕に伝わるのは男にはない柔らかい感触。その上、手を恋人つなぎで絡ませてきている。
もう周囲からの『リア充爆発しろっ』オーラがすごい。ラブコメとかならここでチャラい男共がやってくる展開があったりするが、ここは現実。そんなことはない。というかあったとしても普通に唯が急所攻撃で全員沈めると思う。
俺も付き合った当時は恥ずかしくて死にそうな思いだったのだが、人間数をこなすせば慣れてしまうもので、今では恥ずかしくはない。ドキッとする事は多いけどな。ポーカーフェイスは出来ているつもりだ。
「久しぶりに照れてるね? 目が揺らいでるよ?」
「・・・周りにもすぐ見破られるの俺の視線って?」
「ううん? 多分周りからは慣れてる感じに見られてると思うよ? 読眼術使えるなら一発だとは思うけどね?」
もう驚かんぞ。読眼術だろうがなんだろうが驚かない。というかそれお前の技能かよ。ゲーム中のスキルとかじゃなかったのか。付き合い長いけど初めて知ったよ。
「言ってなかったもん。その代わりやんわり色々と汲み取ってたの。褒めて?」
「ありがとう」
「どういたしまして」
多分一生隠し事はできないだろうなぁって思った瞬間である。
そこから五分少々歩くと目的の食事処である店に着いた。営業時間は11:30~15:00までと19:00~05:00まで。昼時には、昼飯代としては少し高いが、誰でも手が届くちょっといい食事を提供してくれ、夜には一回の食事で結構な値段はする裕福感漂う店へと早変わりする。
最近増えてきた間借り店舗というやつだ。夜と昼で二つの顔を持つ店舗。昼に宣伝して、夜にも来てもらう。逆もまた然り。まさにWinWinという奴だ
そんな店の前に一組の男女が仲慎ましく会話をしていた。かなりカジュアルな格好でどこからどう見ても普通の男女だと思うだろう。近づくと女性の方が此方に気づいたようで会話を止めて此方に歩み寄ってきた。
既に唯は組んでいた腕から離れており、スイッチに切り替えはもう済んでいるようだ。俺も気持ちを切り替えてこれからに望む。気持ち的にはちょっとした面接を受けるのと同じだ。
「藤宮励久さんと高山唯さんね?」
「はい。綾地楓さん・・・でいいんですよね?」
「えぇ、こうして現実で直接会うのは初めてね。初めまして。エクスゼウスの『プラネットクロニクル』運営チーム主任を務めている綾地楓です」
唯のいる手前こう言うと怒られるかもしれないが、美人だ。サイドテールにまとめたセミロングの髪は綺麗だし、柔らかい表情と溢れ出る雰囲気が全部“美人”“美女”という言葉以外を受け付けてくれなさそうな、そんな感じだ。
隣にいる唯も溢れるように『綺麗・・・』と言葉を漏らしているんだからそれはもう美人さんだ。声は何度か聞いているがまさかこんなにも美人だとは思わなかった。ちょっと緊張する。
「そんなに強ばらなくて平気よ? 話といっても少し食事をして今後の話をしたいだけですから」
「楓さん? 僕の紹介もさせてもらえませんかね?」
「勿論。こっちの彼なんだけどね?」
「初めまして。エクスゼウスの助役を務めています保科透といいます。わかりやすく言うとエクスゼウスのナンバー3です」
「「 」」
開いた口が閉まらない。想像以上の大物が俺たちの目の前にいたのである。
――――◇――――
「アハハハ、まぁ驚きますよね?」
「「す・・・すみません」」
「ほらぁ、だから言ったじゃない? 自己紹介するなら身分偽ってやんわりさせなさいって」
「でしたね楓さん。でも驚く顔を見られて僕としては楽しかったので」
「それは同意よ」
驚く俺たちはそのままの流れで店内へと入り、店の奥へと案内された。案内されたのは個室で、通常なら夜の営業時間の時しか開放されない場所だった。
それ自体も驚くことだったんだけど、腰を下ろすとすぐに予め注文していたであろう料理がいくつか運ばれてきた。それも同じく夜時間帯の高級料理である。
何から何まで驚きっぱなしだ。そんな俺たちを見てエクスゼウスの御二人は楽しそうに笑顔を浮かべていた。
「ごめんなさいね藤宮さん、高山さん。ちょっとしたドッキリを仕掛けようって話になってね。昼には食べられない料理を用意してもらったの。このお店に夜に来たことはあるかしら?」
「はい、一度だけですけど・・・」
「そ、なら大丈夫ね。もし食べたいのがあったら遠慮なく注文していいわよ? ここの店長知り合いなのよ」
「だ・・・大丈夫ですよ?」
流石の唯も驚いているようで笑顔が少し強ばっている。かという俺はそれ以上に緊張している。理由は勿論・・・
「あ、すみません。唐揚げ追加でお願いします」
「ちょっと透? これでも結構あるじゃない」
「唐揚げは僕の魂なのでたくさん食べたいんですよ」
「朝にも私の手作り食べたじゃない。相変わらずよくそんなに食べられるわね」
「唐揚げは別腹なので」
目の前で吸い込むようにからあげをパクパクと食べている保科透さんだ。さっき自分でも言っていたがエクスゼウスのナンバー3が目の前にいるわけだ。しかも綾地さんも普通に考えれば『プラネットクロニクル』運営のトップ。つまり自由自在に出来てしまう権力者だったわけだ。
そりゃ驚くだろうよ。こちとら学生でただの一プレイヤー。相手は企業の権力者。生きている世界が違いすぎて緊張もするさ。現実なら尚更である。
「おろ? なぁに二人共緊張してるの?」
「「はい」」
「即答ですね。気持ちは分かりますけどかるーくやっちゃって構いません。僕らも厳正な勝負で今回君たちと会う権利を獲得しましたので楽しみたいんですよ」
「ち・・・ちなみに勝負とは?」
「「デュ〇ル〇スターズ」」
「「ぶふぉ!?」」
何カードゲームで決めてるこの人たち!? いやそれでいいのかエクスゼウス!?
いや、改めて考えればこれがエクスゼウスのノリなんだな。何か緊張しているのが変に思えてきた。
唯も同じ考えに至ったようで肩の力が抜けていた。そりゃいきなりTCGで合うメンツを決めたと言われたら気も抜けるよな。
「ちなみに私は連ドラよ。バ〇ガド〇イバーで蹂躙してやったわ」
「僕はチャージゼ〇スです。あと対戦相手が皆『ゼニ〇クラッチ』を踏んでからの『ライ〇ネル』登場が毎回だったので愉快でした」
なんつうデッキ組んでるんですか貴方たち。しかもそれで勝ったんですか。普通にすごいのでは?最近だと色々と新しい要素が増えていてなんでも3〜4ターンで勝負を決めていたとかいないとかするデッキが流行っていると、TCGにハマっている友人から聞いたことがあるけど。
「ちなみに二人はやったことある?デュ〇マ」
「おr・・・自分は高校生の時まではやっていました」
「私も同じくらいまでは」
「あら! ならいいんじゃない? また始めてみなさいよ。結構面白いわよ?」
「最近クロ〇クルデッキで普通に環境に行けるデッキが有るので予算も一万円あればいい感じのデッキが組めますよ?」
VRゲームの企業がTCG進めてきたんだけどどうしたらいいんだろう? 流石に混乱するんだけど?
「あ、大丈夫です。励久がまた始めてもいいようにカードプールは全部押さえてますから」
「唯っ!?なにそれ!?」
「なら安心ね。いい彼女さんじゃない藤宮くん。大事にしなさいよ? こんないい女性滅多にいないわよ?」
「大丈夫です。私は励久一筋なので。ところで綾地さんと保科さんすごくお似合いですけど、夫婦なんですか?」
「秒読みね。あとはこの唐揚げ魔人の胃袋を把握したら私の勝ちよ」
「既に胃袋は楓さんに渡しましたけどね。僕の愛は楓さんに全部渡したようなものです」
「うそ!? 私聞いてないわよ!?」
「言ってませんでしたから」
「何よもう!! 嬉しいじゃない!! 今夜は寝かせないぞ♪」
「あはは・・・お手柔らかに」
「いいなぁこの感じ。ねぇ励久? 私たちも負けてられないね?」
「・・・何が起きてるのか理解が追いつかねぇんだけど・・・」
何はともあれ、緊張とかそういうのはもう次元の彼方に飛んでいった。目の前の二人は今もイチャイチャしているし、唯は羨ましいという視線を隠さずにうっとりと見ているしカオスである。
それを見ながら俺は目の前に運ばれてきた料理を食していこう。あ、この焼き鮭美味い。
主任X=綾地楓
因みに私の最近のお気に入りはクロスファイアセカンド




