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交渉の成果 益ある『提案』


 一拍置いて、サーバント族は、私の問い掛けに応えた。 それも、予想していない方向に。 彼等は論理的な思考と、状況を良く読む目、及び 主人を護り抜くと云う第一義を絶対に死守する目的を見失わない者達だった。 よって、私の疑問に関し、即座に対処を始めるのだ。



「…………問われる内容は、理解しました。 中央演算室に於いて、統一合議機関(カウンセル)へ緊急動議を発議しました。 三位一体(トリニティ)にて、審議が開始されました。しばし…… お待ちを」



 サーバントの初老の外見を持つ個体は動かなくなった。 目を閉じ、腕を組み、静かに座っているばかり。 きっと、意識は中央演算室とやらに接続して、そちらの方にかかりきりになっているのだろう。 カップを持ち上げ、マスクをずらして、呈せられた茶を喫する。 豊潤で清冽な香りを持つ爽やかな茶であった。

 鬼人の彼は、そんな私にテーブルに肘を付きながら言葉を紡ぐ。 色々な考えが、脳裏を走っているのだろう。 思考の波は、相当に深く散文的な様相を呈する。 言葉の端々に、暫しの休息を得たと、そう云うモノ言いだった。 やがて考えを纏めたのだろうか、鬼人殿は反応の無いサーバントの事は、頭から無視するかのように、言葉を発する。



「……なぁ、貴様は、こっちの事も考えての疑問…… と云うよりも、提案だったのか?」


「私達も当事者と云えます。 『魔の森』の間隙に国を構える我等ですので、『魔の森』の拡大は看過し得ませんから」


「そっちに影響が出るまで、まだ長い年月が掛かるんだが?」


「影響が無い訳では有りませんよ。 確実に浅層の森の安寧は崩れる。 魔物魔獣は強大と成り、被害も多くなり、やがて人が棲めなくなる。我が故郷である北部辺境域が丸ごと『魔の森』に沈むのです。 避けられる未来が有るのならば努力するのは、私達に課せられた義務でも有るのですよ。 相手がだれであれ、言葉で問題を共有する事が出来るならば、そうするべきなのです」


「怖れ知らず…… って誰かに言われなかったか?」


「貴族としては、異端とも言えましょう。 ですが、私は騎士爵家が三男です。 庶民とさして変わり無いのです」


「あれだけの求心力を見せつけられて、『はい、そうですか』って、言えねぇよ。 お前さんは、相当に慕われている。 お前さんのパートナーの言動からしても…… まぁ、愛されていると、言えるのだが?」


「私も愛しておりますよ。 我が佳き人は二人と居ない、私の帰るべき場所。 故郷を護りたいのは、我が佳き人と我が子が安寧に暮らしていく為に必要だからです。 私は…… 貴族である前に、あの者達の家族であり、護り育てねば成らない存在なのです。 利己的なのですよ、私は」


「利己と愛がそこに有っても、驕慢と成らず、傲慢と成らず、以て郷土への愛を心に刻む…… か。 理想的な漢の気概だな。 だが、なんで、そこまでストイックに出来る? お貴族様と云えば、下々の者達に驕慢に振舞うのは、デフォじゃねぇのか? いや、意識的にしていなくても、無意識的にそうなる筈なのだが?」


「無為に生きた罰として、何かを成す事を義務付けられているのです。 魂に刻まれた故に、反故に出来ぬ誓約として」


「なんだ、そりゃ? ……訳アリか?」


「多分……」


「此処じゃ、話せんか?」


「この話を知って良いのは、『我が佳き人』だけです」


「知って居ると理解しているは別だと思うんだが?」


「それでも、私の心は軽くなりました」


「ほう…… 固い上に、頑固。 疲れねぇか?」


「疲れている…… のかも、知れませんね」


「……なんだ、そりゃ?」



 サーバントの目覚めは唐突だった。 それまで、一切の動きを示していない彼が、急に動き出す。 中央演算室と云う場所で、三位一体(トリニティ)という最高意思決定機関が、統一合議機関(カウンセル)からの問題提起を受け、様々な過去の記録を漁り、そして、適切な決定を下したと云う事。王国では…… いや、この世界に生きている人族には、その統治構造を理解する事も出来ないだろう。民主主義の果てに辿り着いた、人の感情を極限まで排した人工知能による公的公平性。人が統治する政体には、コレを実現する事は不可能なのだ。


 ……だからこそ。


 其処には、およそ人間的な情緒などと言うモノは無く、最悪鬼人たちの排除に踏み切る可能性すらあった。 彼等にとって、主人からの命令は神の声に等しく、それを阻害する者は、誰も許しはしない。 その様な『命令至上主義的(オーダープリミティブ)』な感覚を彼等は持っていると思うのだ。 人工生命体であり、個にして全、全にして個と自称するならば判断も又、自身の内側で行われる、『思考』の過程に他ら成らない。


 ——— 故に、独善。


 君主制と似て非なる政体と言わざるを得ないサーバントたち。 さながら、『三位一体(トリニティ)』と呼ばれる意思決定機関は、我等の国王陛下の役割と似通っている。 我等人の世でも、国王陛下は多くの陪臣から意見を聞かれ、その状況と幾つも有る決断を経てから、勅を発せられる。

 其処には王国の利となるべく最善を模索した選択が提示される。 多くの陪臣が居たとしても、その助言を多く集めたとしても、国王陛下の最後の決断は、誰も『否』を唱えられない。 個人が負うには、重すぎる決断なのだ。

 しかし、我等が国王陛下は、その責任の重さを自覚しても尚、王国の行く末をかじ取りする為に決断される。 故に、陪臣、藩屏たる者達は、国王陛下の冷徹なる判断を臣下の総意と云う曖昧な表現で、実行に移すのだ。 其処に曖昧さを持ち込まぬ様に。 挙国して、未来を掴み取る為に。


 ——— 絶望的な相違として挙げられるのが、意思決定までの時間。


 サーバントの間では、我等が王国で数か月…… いや、数年を掛けて導き出す『決断』を、あれだけの時間で決したのだ。 そして、その決断には、多くの事柄が関係し、複雑に絡み合っていると見てまず間違いない。 それは、サーバントの初老の外見を持つ個体の表情が苦悩に歪んでいる事からも理解出来た。 ……その表情を見た鬼人は、殊更、何でもない様に装い、言葉を掛ける。



「俺達の排除が決定したのか? この場で、抹殺するって」


「いいえ」



 鬼人殿の問いに、サーバント族の初老の外見を持つ漢は明確に否定をした。つまりは、たとえ敵対していた鬼人族をも『客人』として迎える意思が有ると云う事に他ならない。 決定したのは、上意の存在だろうが、何を理由にその決定が下されたかは伺い知れない。だが、確実にそう悪い方向には向いていないと思われた。

 もしかしたら、私の疑問に彼等は感化され、現状を打破する思索を持ったのかも知れない。 つまるところ、分らない事ばかりだ。 が、質問を禁じられたわけでも無く、現時点では意思の疎通が何よりも大切な事柄である。 故に私も言葉を紡ぐ。



「ならば、貴殿たちの主に、問い合わせを掛けると?」


「それも…… 否です。 我等は『全にして個、個にして全』な存在ですが、情報の開示は職位の階梯毎に異なります。 そして、今回の状況により、前提条件の開示が全ての分体に対し必要であると、最高意思決定機関である『三位一体(トリニティ)』は判断を下しました。 全ての機関、部局により状況の再評価と詳細情報の検証が行われ、意思決定プロセスに重大な問題が有りと認識されました。 これにより『三位一体(トリニティ)』一部判断権限が、集合意識体へと移譲され、議論を尽くし問題に対して『いかなる処置(・・・・・・)』がとれるかを吟味し、状況を勘案した結果…… 一つの可能性に辿り着きました。 この決断は、未知の結果を呼び寄せる事になるかも知れません。 しかし、平易な前動主義で因循姑息となっていた『三位一体(トリニティ)』の判断に一石を投じるモノでした。 状況は把握しきれていないので、推論も踏まえお伝えします。


 『提案(・・)』します。


 我等が結論は、貴方たち二人に対する『依頼』で御座います。 成功すれば、鬼人族の族滅を防ぎ、人族の安寧に大きく寄与する。 ……かも知れない。 我等にもまた、大きな恩恵が齎される ……かもしれない。 そういった類の、希望的観測の上に立脚した『提案』なのです」


「……その『提案』とは?」


「……なんだか、話が大きくないか?」



 三者に益がある『提案』と口にした。

 彼等の最高意思決定機関が何かを隠していて、私の提案にそれが動揺したと……



    ——— そうとも、受け取れた。


            揺さぶりは成功したのだ。




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グランドクエスト発令きちゃあ!
現状維持のループ状態である状況で外部からの影響を受けて、 推論を持って依頼をかけてくるのか… 今のAIもそんななるのかな… こわ…
エヴァのコンピューター思い出すなw
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