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其々の理(ことわり)、其々の正義


 ” ……では、少々話をしたいのですが、後程、執務室オーバルルームへ御足労願いたい そちらの準備が整い次第、お越しください ”


 『サーバント』の初老の外見を持つ個体の言葉は、私の脳裏に刻まれていた。 行かねば成らない。 いよいよ、折衝の始まりなのだ。 この事象に至った原因を特定せねば成らない。 我等の暮らす場所にどの様な影響が出るのかすら、分って居ないのだ。 故に、詳細な情報を得る必要が有る。 何らかの解決策も模索せねば成らない。


 何故に彼等が戦い、何が問題の焦点となっているのかを見極め、戦いを止める手立てが有るのか…… をだ。


 『探索隊』の…… いや、私達(・・)の今後の行動指針を決定した後、私は侍従に促されるまま、執務室(オーバルルーム)に足を向ける。 空間魔力濃度は、鬼人族の生存圏と同等とした。 この大空洞と、我等の生存圏の魔力濃度の中間に当たる為だ。

 鬼人殿等の状況が一番悪いのだ。それに合わせる事は必須と思われた。 故に、少々きついが、この魔力濃度の設定を工兵隊へ指示していた。 私はマスクは着用してはいたが、兜と面体は外している。 顔の表情を…… 目の周辺だけだが、見せる事で友好の証とした。


 この会合の出席者は三人。


『人族』の私、『鬼人族』の彼、『サーバント族』の初老の外見を持つ個体。 部屋の名の通り、楕円形のテーブルが一つ、大きさの違う椅子が三脚、過剰な装飾を排した重厚な姿で、私達を出迎えた。 沈黙が支配する執務室(オーバルルーム)。 誰も口火は切らず、当たり前の様に、自身の身に合う椅子に腰を下ろした。

 上席には、当然の如く『サーバント族』の初老の外見を持つ個体。 相対する様に座る鬼人の彼と私。 気配なく侍女が呈茶の用意をテーブルの上に現出させ、気配なく消える。 そして、口火を切るのはこの場所の主たる者…… 『サーバント族』の初老の外見を持つ個体の漢であった。



「さて…… お尋ねしたき義が有ります。 鬼人殿、何故、我等が行政区に攻め入られた? 多くの作業用の個体を潰したのは何故ですか?」


「お前らの所業で、森に『イド』が溢れかえっている。 お前達のヤラカシタ事で、俺達の住む場所では、其処此処で変容した魔物が闊歩しているんだ。 魔物大行進とも云える。 俺達はその行動ゆえに、『イド』を汲み上げ撒き散らす貴様等が世界を魔物の巣に変え、この世界を欲し征服する『魔王』と定義した。 我等が信奉する神より、時が満ちたとの託宣を受け、魔王討伐に来たんだ。『賢き者』、『折れぬ心を持つ者』、『勇気ある者』…… 俺からいわせりゃ、『女魔導士様』、『聖戦士様』『勇者様』だ。 手向かう奴等は、魔王の手下だ。 討伐するのに、なにも不思議ではない」


「成程…… 『我が主』からの指令により、大地の奥底から『イド』の汲み上げをし、『我等が主』が退避している(コクーン)への動力供給に充てている事が、其方ではその様に観測されていると?」


「その避難所とやらがどれ程の規模かは判らんが、それを維持するだけで、空間濃度が跳ね上がる程の『イド』を汲み上げる必要が有るのか? 只でさえ生き物が生息する環境としては最悪の森なんだ。 其処にこれだけの『イド』が流れ込んだら、森の生態系が崩壊するぞ? 現に、お前等の文明とやらが築き上げた幾つかの施設が、イド濃度の高まりにより変容し、強大な魔物や変異体(メタリカ)合一体(キメラ)を生み出している事は知って居るのか?」


「その事実は、私達も観測し把握はしております。 特に動物自然()保護施()設園周辺()の環境はもはや、我等が作業用個体でも対処が難しい。 戦闘用個体を投入すべきか、中央演算室に於いて、統一合議機関(カウンセル)で『議題』にも上がっております。 結論は出ず…… 未だ、対処しておりませんな。 ただ一点…… 我等サーバントは、主人の命令には背く事は出来ないのです」


「そこだ…… な。 孕む問題の大きさに、恐れおののくよ。 均衡を取れず崩れるのは時間の問題だ。 貴様等は、外部からの攻撃と云うが、その実 その根本原因を作り出しているのもまた貴様等なのだ。 貴様達も貴様たちの理で動いている。 俺達は、俺達の生存を賭けて動いている。 まして、神よりの託宣を受けたんだ。 相容れないんだよ、全くもって遺憾なんだよ。 儘ならんな」



 協議と云う場所。 執務室(オーバルルーム)という場所。 その場に於いて、己の立場を明確にする。 力による状況の変更を模索するのではなく、言葉による状況の改善を模索する場。 これは、『我等が祖国』が他国との折衝に於いて、外務尚書を筆頭に外務に携わる者達が日々頭を悩ませている会話と変わりない。 激烈な武力を背景にした、正に衝突とも云える話し合い。 では、私の立場は何なのだろうか?


 ——— 私は、当事者では無い。


 しかし、無関係という訳では無い。 濃密な魔力濃度の範囲は、大地溝で阻まれているとはいえ、徐々に外縁部へと流れ出しているのだ。 現に浅層域と中層域の境にある拠点(ポンティス)の周辺の魔力濃度は高まり続けている。 冬場の雨季に、かなりの降雨、降雪があり、中層域浅域に膨大な降水量が望めるのだが、その天水をしても尚、空間魔力濃度が高まりつつあるのだ。朋の作り上げた空間魔力濃度を測る計器で、実際に計測を実施している現在……

 いずれ纏められる“数字”として、現実に落とし込まれるだろうが、肌感覚として、我等はその事実を『知って居る』のだ。『魔の森』浅層域での強大な魔物魔獣の観測が、世代を超える度に頻度が増しているのは…… たった今、彼等が語った事が原因なのだろう。 だとすれば…… このまま行けば……


 ——— 北部辺境域はいずれ『魔の森』に沈む。


 北部辺境域だけでは無い。 人族の生存域もまた、徐々に浸食されて行くのだろう。 空間魔力濃度が高まり続け、浅層域は中層域と同じような魔力濃度と成り、突然引き起こされる、身体大変容(メタモルフォーゼ)が頻発し、やがて、人族は魔の森への侵入が出来なくなる。


 森の端の邑々は、棲む事も出来なくなる。 この現象は拡大の一途を辿り、やがて人が統べる土地は失われて行く。 人族の生存域拡大を望む中央からすれば、これは由々しき問題でもあり、不可避であり、絶望からの呼び声とも云える。その間、幾許の時間が掛かるのだろう…… 千年? 数百年? それとも数十年? 未来への光が闇に飲み込まれたような気がした……


 いや、それよりも、この事実をどう報告すべきか。 問題の拡散速度は非常に遅い。 様々な反応が…… 激烈な王都、王侯貴族達の反応が、いやがうえにも脳裏に描き出されてしまう。 人とは罪深いモノなのだ。 対象が理解の範疇の外ならば、自身が理解できる問題へと矮小化させる。 希望に縋るかも知れない。 期間が分からないのだから、享楽に現を抜かす輩が問題を引き起こすやもしれない。 自暴自棄になり、後代に残すべき知恵と知識を放棄するやもしれない。 悪方向に想像は傾いていく…… 


 僅少の希望に掛ける者は、“ 先に『イド』が枯渇するかもしれない “ と楽観視し、絶望の闇を知った者達は、今有る物を失う事を怖れ、生き残った人族が、互いの喉笛を喰らい、挙句の果てに滅亡するかもしれない。混沌が人族を飲み込み、原初へと戻ってしまう可能性すらあるのだ。


 それ程に、彼等の言葉に含まれる『絶望』は深い。


  こんな世に我が子を送り出す事など、出来はしない……


 ——— それが、世界の理なのだと言われても、とても容認できる訳は無いのだ。







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― 新着の感想 ―
『イド』の濃度の測定はきちんとなされているのかな? 環境変化(変異)が及ぼすフィードバックからの推移となると風や雨などの偏差で影響受けやすいから「とにかく多めで」垂れ流しているだけなんじゃ・・・ それ…
『魔の森』が常に拡大しようとしているのはサーバント族が魔力を汲み上げて主人に捧げてる余りが拡散してるって事になるのかな? とはいえここはまだ森の中層で深層ではないはずだしさて…
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