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閑話 王太子の両輪


「危険? 危険かぁ…… その評価は間違っちゃいねぇな。 忠誠の在処が陛下にも王太子殿下にもねぇのは知ってはいる」


「何故に? その様な危険分子を王太子殿下のお傍に?」


「アレを御する程に成長して頂きたいのだよ、軍務卿継嗣。 いや、未来の宰相にはな」


「それは……」


「アレの容貌と雰囲気に騙される奴等はいらねぇ。直ぐに危険視したのはお前ぇだけだ」


「名も無き家が出自にして、暗部棟梁侯爵家が鬼姫の配。そして、現当主より継嗣として定められたと有りますよ? 『危険』以外、認識するべきでは無い筈。為人は、あの茫洋な表情に隠されて表には出ませんが、その心根は『苛烈』にして『酷薄』。暗部棟梁侯爵家が継嗣と成ったと言われても不思議では御座いません。『北辺の武人』であり、更に北部国軍の『諜報担当官』であった経歴は、無視できるようなモノでは御座いませんよ。 ……侮るモノが居る方がおかしい」


「……いや、あの茫洋たる表情を侮るモノが多いんだぜ」


「暗部棟梁侯爵家が当主が、彼を継嗣と定めた時に、彼の家の『連枝、家門の反発した者達』が、一斉に表舞台から消えたのにですか?」


「暗部棟梁侯爵家が当主も認めたんだ。侯爵家が族滅するか、生き残るか……ってな。飼いならされた犬であれば、愛玩犬となる他無い。牙を持ち、爪を持つならば、独自性、独立性は保持しなければならない。そう、侯爵家としての矜持と云う奴だ。 アイツ…… 原初の成り立ちを思い出しやがったんだ、あの家のな」


「一層…… 危なく感じますが?」


「まぁ、敵対し嫌疑の目を向けて置け…… とかは言わんよ、貴様には。 良く表と裏で王太子殿下が大成するまで、支えてやってほしいと思うだけだ。 同胞となるんだ。 肚に一物抱えたままじゃ、仕事もやり難かろう? ……ただな教えて置く。 奴もお前ぇには一目置いているんだぜ?」


「ほう…… それは寡聞にして、知りませんでした ……北部辺境のアレの関係なのですか?」


貴様等(・・・)だけだ…… 魔法学院での研鑽の間、この王都に於いて『騎士爵家のアイツ』に接触した高位貴族は二人だけ。 現北部辺境伯と、現軍務卿継嗣の貴様だけだ。 貴様等だけがアイツの『才と矜持の高さ、その本懐の本質』を見出し、視ている。 なにより、アイツの行動に何の掣肘を加えていない。いや、むしろ背を押しているとも云っても過言ではない。アイツが北辺にて自由に動き回れるのは、貴様等の助力と意思があってのモノなのだからな」


「『世界の理』ですよ、相手は。 アレくらいしか対処出来ぬでしょう」


「その見識の一点に於いて、蒼狼は貴様に敬意を持っているんだ」


「爵位による侮蔑をしない。 ……侮らず、偏見を持たず、アイツの『誉れ』と『矜持』を尊重するからですか?」


「まぁ、心を許し忠誠を誓う唯一の主人…… 貴様等の『朋』がその対象なんだぜ。厳しい目が幾分緩むのは、間違っちゃ居ねぇ」


「高く評価されておりますな、私も北部辺境伯も……」


「『魔の森』に実際、足を踏み入れた高位貴族は貴様等だけだ。いや、俺もか…… 蒼狼は、アイツに『生きよ』と言われ、『国に合力せよ』と命じられたからには、その命を遂行せにゃならん。だが条件も有った。最低限『魔の森』の実体を肌身に感じた者しか信じられねぇんだ。だから、アイツの『養い親』になった。王妃陛下の肝煎とは言え、侯爵家に婿入りするには、相応の家格の者が保証せにゃならんしな。国法を捻じ曲げたとて、その辺りの配慮は必要だ」


「よく鬼姫が認めたものですね」


「喜んでおったよ。 『面目丸潰れ』に成ったとはいえ、家の矜持を思い起こさせてくれたとな」


「……ますます厄介ですな」


「でも、高く評価してるんだろ?」


「王国中央では手探りの『北辺の情報』に関して奴ほど詳細に知って居るモノは居らず、さらに、その耳と目は北部辺境域全域に留まらず、北方の王国や『帝国』の状況まで手に入れておるのですよ。動向の詳細やら、鍵となる人物の詳細までね。外交的空白地帯が一気に埋まりましたよ。今回の巡幸と合わせ、王国の安全保障関連の事柄に関しては、十分な情報だと云えましょうね。その事に付いては、報告書にも……」


「知って居る。 まぁ、そうだな、味方にすれば心強いし、敵にしては厄介極まりない。 故に友好的に接すると?」


「為人は、何となくつかめております。友の部下らしく一筋縄ではいきませんが、相当に能力はあり、『誇り』と『矜持』をふんだんに持ち合わせているのは伺えます。ならば、私も信を置くべきかと。危険ならば、危険人物らしく、その思考方法をよく理解し、力の振るい処を示唆するのが私の役割かと?」


「議論の余地を残しながらか?」


「当然の事でしょう。友がそうしてきたように、私もそうしましょう。『北の蒼狼』には国王陛下の御下命などは雑音にしか聞こえんでしょうな。 最も心に重く響くは、真摯で矜持高い辺境の漢の言葉でしょうし。その大切な忠心を捧げる漢の友なれば、私も言葉を尽くし友と同じように接すれば、耳も貸すかと。そう願います」



 ニヤリと嗤う宰相閣下。 手に持っていた『モノクル(片眼鏡)』を掛ける宰相。それが意味する事は一つ。見えぬモノを視る為の所作。 宰相閣下は、見渡すまでも無くそこにいる誰かを認知して、言葉を紡ぐ。



「だそうだ、蒼狼。 『主人』の友人が貴様を生かしてくれるそうだぜ?」



 ふわりと空虚から存在が出現する。 【隠形】【隠密】を解いたのか、ようやっと軍務卿継嗣が存在を認識できるレベルを保って、その小部屋に出現した。暗部の棟梁ならば必須とはいえ、あまりにも見事な【隠形】【隠密】。 ” これでは、王宮の警備など笊に等しいだろうな ” と、心内で苦く笑う軍務卿継嗣。 そして、それも当然だと納得も出来る。厳しい北部『魔の森』の中で生き残って来たのだ。友たる騎士爵家が漢に従事して『魔の森』を縦横に走破してきたのだ。


 ——— 王都の基準で図る事など烏滸がましいのだ。


 “まぁ、警備担当の貴種貴顕は頭を抱える事になるだろうがな“と、黒く嗤いが漏れ出した。今迄の全ての会話を聴いていたにもかかわらず、茫洋たる表情はそのままに、赤輪を浮かべた冷たい視線を軍務卿継嗣に向けながら、言葉を紡ぐ暗部棟梁宰相家が継嗣『蒼狼』。酷薄な視線とは裏腹に、敬意を込めた言葉だった。



「御意に義父殿。 ……軍務卿御継嗣、宮廷全般の事、ご指導ご鞭撻のほどよろしく頼みます」


「出来る限りな…… 出来る限り。 その力、あまり振るうなよ。 血の雨は王都には似合わんからな」


「可能な限り…… では御座いますが?」


「あぁ、可能な限りな。色々と話し合わねば成らんようだが…… 一つ。 聞いてよいか?」



 自身の身に起こった『慶事』を思うと、問わずにはいられない問い掛けだった。騎士爵家が三男と云う友人。その側に立つ女性が出来たと、北部辺境伯からの知らせがあった。 その為人はどうなのか。 あの孤高たる人物に寄添えるのか? 彼の心を癒す存在なのか? お節介なのは百も承知。最下位である騎士爵家の三男の妻となれば、家の事情に大きく左右されるモノだ。其処に心が無くては…… この先、友人だけでは無く、この国の未来に於いても支障が出るのは必至。 故に問う。



「何なりと」


「アイツの嫁は『善き人』か?」


「この上なく。 あの方の側に立つに、十分な心根と忠心と愛情を持っております」


「そうか…… それは、善き事だ」



 蒼狼の言葉に軍務卿継嗣は安堵する。 この漢の評価なれば、手放しで受け取れる。 まして、この漢は騎士爵家の三男に関して、嘘偽りを云う筈も無し。 更に言えば、悪しき者ならば、その手で排除すらしていただろう事は伺えるのだ。


 満面の笑みを浮かべ頷く軍務卿継嗣。心に有った最大の心配事が一つ綺麗に無くなったかのような、晴れ晴れとした笑みだった。


 その二人を交互に見詰めながら宰相は事も無げに告げる。 さも、当たり前の様に。 既定路線であるかのように。 事実を知る者は少ない筈。 だが、何事にも抜け目のない宰相閣下なら、それも有るだろうと、『王太子の両輪』は同時に心に浮かんだ。



「なぁ、貴様等も貴族の義務を知ってて良かったと思うぜ。 それでだ。 もう、一人勝手には死ねねぇよな。 国を護ると同時に、お前ぇさん達は父親にもなるんだ。 赤子と母親かぁ…… 俺にゃ勿体なさ過ぎて、手に入れられんかったもんだ。 気張れよ、小さな命の煌めきは、貴様等の働き一つに掛かっているんだぜ」


「御意に」

「心します」







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― 新着の感想 ―
彼らがあくまで架空の人物でしかなく、現実には望むべくも無いことがなんとも嘆かわしい
あのパーティの後、放置されてたの知ってたら 王を筆頭に色々嫌がらせしてそうよね
第二王子と、くっついた女。ほっといても、時間の問題だったのだろうなぁ。
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