第13話 欠陥とともに戦う者たち
王立武具回収隊は、大広場へ通じる北大通りを三列の盾で塞いでいた。
その正面から、魔獣が頭を低くして突っ込んでくる。
ガアンッ!
最前列の通常盾が後ろへ押し込まれ、盾を支える兵士の靴底が石畳を滑った。
「前列、下がるな! 二列目、支えろ!」
アルドの怒号が響く。
二列目の隊員たちが前列の背へ手を当て、盾ごと押し返す。アルドは盾と盾の隙間から制式剣を突き出し、魔獣の鼻先を斬り払った。
盾列のすぐ後ろにある大広場では、十五分を計る砂時計がひっくり返された。
「十五分、計測開始!」
同期台の右側には、起動を止めたE-731。
左側には、武具庫から運ばれてくる通常武具。
北大通りへ続く広場の出口には、再編を待つ騎士たちが集まっていた。
「前線へ返す一隊を最優先にします!」
ルノアは検査官たちへ声を張り上げた。
「二班に分かれてください! 一班はE-731! 条件を出せないものは赤札、出せるものは黄札! 二班は通常武具! 異常のないものから合格印を!」
「製造記録を持ってこい!」
ゲイツが記録係へ命じる。
「過去の検査記録も全部だ! 検査基準はルノアに従え!」
「兵站部、武具庫を開け!」
軍司令官の声が重なる。
「通常剣、盾、槍! すべて大広場へ運び込め!」
広場へ荷車が飛び込んでくる。
兵士たちが木箱を引きずり下ろし、鉄梃で次々と蓋をこじ開けた。
「通常盾、二十枚!」
「長剣、三十本!」
「左の検査台へ回してください!」
ルノアの指示に従い、通常武具が検査台へ並べられる。
チィン!
カンッ!
チィン――!
大広場のあちこちで、検査槌の音が鳴り始めた。
「E-731、二十一番! 第二音が早すぎます!」
「安全に使える条件は?」
「出せません!」
「赤札! 後ろの隔離台へ!」
聖剣へ赤札が結ばれ、兵士が隔離台へ運んでいく。
「通常盾、六枚目! 異常なし!」
「合格印を!」
盾の握りへ結ばれた検査札に、合格印が押される。
「再編隊へ回してください!」
盾が広場の出口へ運ばれ、次の武具が検査台へ置かれた。
「次!」
ルノアが叫ぶ。
「検査台を空けないでください!」
北大通りから、再び激突音が響いた。
ガギィンッ!
「最前列の盾が曲がった! 交換する!」
二列目から新しい盾が差し込まれる。
曲がった盾を持つ兵士が横へ抜け、その場所を別の隊員が埋めた。
盾列を越えようとした魔獣へ、アルドが剣を振るう。刃の腹で牙の向きを横へそらし、魔獣の頭を盾列の外へ押し戻した。
「十五分だ! それまで、ここを一歩も通すな!」
*
「残り十分!」
計時役の声が大広場を走った。
同期台の脇には、接合部が裂けた九十七番の聖盾が残されていた。
検査官が厚い布をかぶせ、危険物用の隔離台へ運んでいく。
盾を失った若い騎士の前へ、二班の検査官が通常盾を差し出した。握りには、合格印の押された検査札が結ばれている。
若い騎士は鋼の盾を持ち上げ、その重さを確かめた。
「この盾は、前列でも使えますか」
呼びかけられたルノアは、検査札に記された打診結果へ目を走らせた。
「今の状態なら使えます」
「分かりました」
若い騎士は通常盾を抱え、広場の出口で再編を進めている部隊長のもとへ走った。
「前列へ戻らせてください!」
部隊長は盾の合格印を確かめる。
「許可する! 第一再編隊の盾列へ入れ!」
「了解!」
「黄札、三十四番! 残り一撃!」
別の検査台から声が上がる。
黄札を受け取った騎士は、合格印の押された通常剣も腰へ差した。
「通常剣を主に使います。聖剣は合図があるまで抜きません!」
「遊撃へ入れ! 黄札の条件は副官にも伝えておけ!」
「はい!」
「次、ギルバートさんの鉄剣!」
古い鉄剣が検査台へ置かれる。
検査官が鍔元、刀身の中央、切っ先を順に打診した。
チィン。
チィン。
チィン――。
「異常なし!」
検査札へ合格印が押される。
「ミラさん、弓を!」
革巻き弓の弓幹が数か所打診され、弦の張りが確かめられた。
「弓幹、弦ともに異常なし!」
「いただくぞ!」
ギルバートが古い鉄剣をつかむ。
ミラも革巻き弓を受け取り、矢筒を肩へかけた。
二人は並んで北大通りへ駆けていった。
「通常長剣、次の五本を!」
「E-731、七十二番の製造記録が見つかりません!」
「補給部の保管台帳を捜してください!」
「赤札が足りない!」
「私の検査鞄に予備があります!」
声と足音と打診音が、大広場を埋め尽くす。
そのすぐ先にある北大通りでは、魔獣の爪が回収隊員の肩当てを弾き飛ばしていた。
「ぐあっ!」
「負傷者を後ろへ!」
隊員が引き下げられ、盾列に一人分の隙間が開く。
そこへ別の魔獣が飛び込もうとした。
一本の矢が、振り上げられた前脚の付け根へ突き刺さる。
魔獣の身体が横へ傾いた。
「右側を詰めて!」
北大通りへ駆けつけたミラが、道端の荷車へ片膝をつき、次の矢をつがえる。
盾列の右端からは、ギルバートが魔獣の懐へ潜り込んでいた。
「硬いところへ付き合う必要はない!」
古い鉄剣が硬い鱗を避け、前脚の関節へ滑り込む。
魔獣の膝が折れた。
「今だ、押せ!」
アルドの号令に、盾列が一歩前へ出た。
*
「残り五分!」
「ルノア、十三番の条件が出ません!」
「赤札です! 隔離して、次を!」
「通常盾、さらに八枚合格!」
「第一再編隊へ回してください!」
武具を運ぶ兵士たちの間を縫い、バロンが聖槍を抱えてきた。
「俺の槍を頼む!」
「こちらへ!」
ルノアは聖槍を受け取り、検査台へ横たえた。
検査槌を振り下ろす。
チィン――。
澄んだ音が伸びる。
その直後。
ギィン……。
記録していた前回の打診よりも早く、濁った第二音が返った。
ルノアは槍に巻かれた黄札をつかむ。
「残り一回。出力三割。連続八秒までです」
「十秒じゃなかったか」
「状態が変わりました」
ルノアは黄札の《十秒》へ二本の線を引き、その下へ《八秒》と書き込んだ。
バロンは書き換えられた条件を見つめる。
「十分だ。八秒あれば足りる」
聖槍を肩へ担ぎ上げた。
「使いどころは、俺が選ぶ」
「第一再編隊の遊撃へ!」
ルノアが指さした先では、通常武具を受け取った騎士たちが隊列を組み始めている。
バロンはそちらへ駆けていった。
「二十八番、黄札の条件が出ました!」
「本人と部隊長へ伝えてください!」
「通常剣、合格!」
「再編隊へ!」
砂時計の砂が、残りわずかになっていた。
*
「残り一分!」
北大通りの盾列で、通常盾が大きくへこんだ。
「この盾は、次を受けたら持たない!」
「負傷者と一緒に下がれ!」
アルドは迫る魔獣の牙を斜めに弾く。
その横から、別の魔獣が肩から盾列へぶつかった。
ドンッ!
回収隊の盾列が、一歩分だけ大広場へ押し戻される。
その背後では、第一再編隊の最終確認が続いていた。
「第一盾列、全員装備完了!」
「九十七番、左から三番目へ!」
「了解!」
「遊撃の黄札条件は!?」
「本人、副官ともに確認済み!」
「救護を選んだ者は、負傷者の搬送へ回れ!」
「あと三十秒!」
騎士たちが駆け足で位置につく。
剣帯が締め直され、通常盾の留め具が固定される。
「第一再編隊、隊列を組め!」
「前衛、整列!」
「遊撃、続け!」
砂時計の最後の砂が落ちた。
「十五分です!」
「第一再編隊、前へ!」
再編を終えた騎士たちが、大広場から北大通りへ駆け込む。
「回収隊、交代だ! 負傷者から下がれ!」
第一再編隊は、疲弊した回収隊のすぐ後ろへ並んだ。
「交代します!」
通常盾を持った若い騎士が、前列の隊員へ声をかける。
回収隊員が盾を構えたまま横へ下がり、若い騎士が同じ場所へ踏み込んだ。
若い騎士の正面で、魔獣が爪を振り上げる。
盾を斜めに構えた。
ズドォンッ!
爪が通常盾を激しく叩く。
若い騎士は衝撃に合わせて半歩下がり、身体を横へひねった。
爪が盾の表面を滑り、そのまま石畳へ突き刺さる。
盾には大きなへこみが残った。
だが、裂けてはいない。
「今だ!」
隣に入った騎士が、通常剣を魔獣の脇腹へ突き入れた。
「黄札は温存! 通常武具で脚を狙え!」
部隊長の命令が飛ぶ。
新しい盾列が前へ出た。
一歩。
さらに一歩。
押し寄せていた魔獣群が、北大通りを後退し始める。
「押し返せ!」
騎士たちの声が重なった、その時。
ドォンッ!
中央通りの方角から、建物が崩れ落ちる轟音が届いた。
大広場の地面が揺れ、屋根の向こうへ黒い土煙が噴き上がる。
「報告!」
伝令が北大通りから戻る部隊を避け、転がるように大広場へ駆け込んできた。
「角冠獣が北大通りを外れ、中央通りへ侵入! 避難中の住民に迫っています!」
土煙の切れ間から、家々の屋根を越える黒い巨体と、二本の巨大な角が見えた。
「このままでは、避難列に追いつかれます!」
軍司令官が、近くに置かれた検査待ちの木箱を指した。
「アレン! 中央通りへ向かえ!」
兵士が木箱の蓋を跳ね上げる。
中から取り出されたのは、装飾のない通常長剣だった。
兵士がアレンへ差し出そうとする。
その前に、ルノアが両手で受け取った。
「待ってください。まだ検査が済んでいません」
アレンは剣へ伸ばしかけた手を止め、ルノアへ頷いた。
中央通りを見張っていた物見兵が、屋根の上から叫ぶ。
「角冠獣、避難列へ向けて突進を開始!」
石畳を踏み砕く轟音が、急速に近づいてくる。
「頼む」
「はい。一打で終わらせます」
ルノアは検査鞄から、小さな検査槌を引き抜いた。
角冠獣の咆哮が、再び王都を揺らす。
ルノアは長剣の棟へ向けて、検査槌を振り下ろした。
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