第12話 一斉起動命令
「すべてが、即座に壊れるとは限りません」
ゲイツは、個別打診された聖盾を見つめたまま答えた。
そこへ、別の伝令が息を切らして駆け込んできた。
「北門前衛、後退! 魔獣群が北大通りへ流れ込んでいます!」
「個別検査を待てば、大広場まで到達します。今は起動させるべきです」
軍司令官は、北に立ち上る土煙を見た。
次に、濁音を返した聖盾を抱く若い騎士を見る。
「九十七番を同期台へ戻せ」
「待ってください。その盾は――」
「分かっている」
軍司令官は、ルノアを見なかった。
若い騎士が聖盾を見下ろす。
握りをつかむ指は震えていた。
「……了解」
若い騎士は元の位置へ戻り、盾を構えた。
技術員が九十七番の聖盾へ、再び伝導線をつなぐ。
軍司令官は同期台へ歩み寄り、正規起動用操作部の封印を自ら切った。
「検査回路を切り離せ。九十七点、緊急起動!」
技術員が重いレバーを倒す。
ブゥゥン――。
低い起動音が広場を這った。
九十七点の聖核へ魔力が流れ込み、青白い光が一斉に膨れ上がる。
その一拍後。
ギィィィン――!
先ほど聞いた濁音が、今度は金属の悲鳴となって大広場を貫いた。
「耳を塞げ!」
騎士たちが顔を歪める。
ビシッ!
前列の聖剣に亀裂が走った。
次の瞬間、刀身の中央が爆ぜ、鋭い破片が持ち主の腕を切り裂く。
「うあぁっ!」
「離れるんだ!」
アレンが飛び込み、負傷した騎士を抱えて、ひびの広がる聖剣から引きずり離した。
応答盤に並ぶ番号が、一つ、また一つと赤く明滅する。
ギギギ……。
九十七番の聖盾から、金属をねじるような音が響いた。
握りの近くから白煙が噴き出す。
「盾を離してください!」
ルノアが叫ぶ。
若い騎士が手を離し、後ろへ飛び退いた。
ベキンッ!
聖盾の接合部が裂け、片側が石畳へ落ちた。
ミシ、ミシッ……。
別の場所では聖弓の枠が大きく歪んでいく。
バツンッ!
弦が弾け、持ち主の頬をかすめた。
その奥では、聖槍の接合部から細い亀裂が穂先へ向かって伸びていた。
「魔獣群の先頭、進路を変更!」
広場脇の見張り塔から声が落ちてきた。
「散開していた魔獣が北大通りへ集結! 大広場へ向かっています!」
アレンが、青白く光る九十七点の聖武具を見た。
「式典の飛行魔獣も、聖核に引かれてきたのか……」
バロンの聖槍から、ギィン、ギィンと短い濁音が続けて鳴った。
バロンは流れ込む魔力を三割に抑えようとする。
だが、聖核の光はさらに膨れ上がり、接合部から青い火花が飛び散った。
「俺の槍は三割が限界だ!」
バロンは聖槍につながれた伝導線を、力任せに引き抜いた。
バチチッ!
「こんな起動のさせ方はできない!」
火花にあおられ、槍に巻かれた黄札が激しく揺れた。
負傷した騎士の腕から、石畳へ血が落ちている。
裂けた聖盾からは、まだ白煙が上がっていた。
応答盤は、赤い警告で埋め尽くされている。
ゲイツは唇を強く結んだ。
「……《使用可》判定を撤回します。個別検査なしでの継続起動は認められません」
軍司令官が即座に命じる。
「全聖核停止! 個別検査へ移行する!」
九十七点を包んでいた青白い光が、一斉に消えた。
だが、負傷者のうめき声と、近づいてくる魔獣の咆哮は消えない。
アルドが腰の制式剣を抜き、ルノアの前へ進み出た。
「最初の一隊を前線へ返すまで、何分だ」
ルノアは損傷した武具と、動ける騎士の数を見渡した。
「十五分ください。全点ではありません。まず戦える人たちを返します」
「分かった。十五分は俺たちが買う」
アルドは回収隊の兵士たちへ剣を掲げた。
「隊列を組め! 大広場への入口を守る!」
北大通りから、咆哮とともに最初の魔獣が飛び出してきた。
「回収隊、構え!」
ガアンッ!
魔獣の牙と、最前列の通常盾が真っ向から激突した。
盾を構えた兵士の足が、石畳を半歩滑る。
それでも、隊列は崩れない。
「押し返せ!」
十五分の戦いが始まった。
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