↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『聖剣リコール ~その聖剣、次に振れば折れます~』  作者: 心瑛タケハル


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
10/15

第10話 管理と選択

 一斉起動まで、あと二十四時間。


「三年前、ジーク・フェルトの盾を《使用可》へ変えたのは私だ」


 ゲイツは、軍司令官の前でそう言い切った。


 王都へ戻ってから、丸一日。


 アルドが封印した履歴板は、軍司令部付きの記録官によって再確認された。長机の鑑定書には、旧検査工房で読み出した記録に誤りはないと記されている。


「なぜ、判定を変えた」


 軍司令官が尋ねる。


「北方防衛線へ魔獣が迫り、代わりの聖盾がなかったからです」


 ゲイツの声に迷いはなかった。


「あの盾は、一度の戦闘なら耐えられると判断しました」


「その判断で、兄は死にました」


 ルノアの声が、審理室を切った。


 ゲイツの目が、わずかに動く。


「分かっている」


「いいえ。分かっていません」


 ルノアは長机へ両手をついた。


「本当に分かっているなら、同じことを繰り返そうとはしないはずです」


 ゲイツはルノアから目を逸らさなかった。


「今、同じ状況に戻ったとしても、私は同じ判断を下す」


 胸の奥で、何かが強く軋んだ。


「今日もですか」


「そうだ」


 ゲイツは長机の上へ、一枚の名簿を広げた。


 九十七人の名と、支給されたE-731の番号が並んでいる。


「大侵攻は明日に迫っている。九十七点すべての代わりなど用意できない」


 ゲイツの指が、名簿を叩いた。


「これを止めれば、九十七人分の戦力を失う。北門も、東壁も、守り切れなくなる」


「全部止めるとは言っていません」


「異常があると訴えながら、使わせるつもりか」


「使える条件を調べます」


 ルノアは、ゲイツの目をまっすぐに見返した。


「まず一括検査で、九十七点に同じ異常があるかを確かめます。異常が出れば一斉起動の中止を求め、工房の検査官全員で一点ずつ限界を調べます」


「大侵攻までに終わると思っているのか」


「九十七点すべてを、大侵攻までに調べ終えられるとは言いません。それでも、一括起動で九十七点を同時に失うより、一点でも多く、使える状態で前線へ返します」


 ゲイツは、九十七人の名を指でなぞった。


「では、危険を知った兵士が武具を置いたらどうする。九十七人が別々の判断を始めれば、部隊は動かない」


 その視線が、アレンへ向く。


「百勇部隊を率いるはずだったお前なら、分かるはずだ」


 アレンは答える代わりに、抱えていた細長い包みを長机へ置いた。


 布を開く。


 鍔元から折れた制式剣が現れた。


「この剣は、強い衝撃にあと三回耐えられた」


 アレンの指が、折れた鍔元へ触れる。


「ルノアがそう教えてくれた。だから俺は、残された最後の一撃を選べた」


「一人の戦いと、軍は違う」


「違わない」


 アレンは即座に返した。


「知らされなければ、最初の打ち合いで剣を失っていた。限界を知っていたから、必要な時まで残せた」


 アルドが一歩、長机へ近づく。


「その一撃がなければ、私はここにいません」


 ゲイツは、折れた剣とアルドを交互に見た。


「命令をするなとは言っていません」


 ルノアは名簿の端を握った。


「でも、危険を隠して従わせるのは違います。通常武具へ持ち替えるのか、聖武具をいつ使うのか。彼らにも、自分の命の預け方を選ぶ権利があります」


「安全だと保証できるのか」


「できません」


 審理室が静まり返った。


「ならば、私の判断と何が違う」


「私は、分からないものを《安全》とは言いません」


 ルノアは、はっきりと答えた。


「完璧な武具はありません。使えば傷み、状態も変わります。だから、今どこまで使えるのかを伝えるんです」


「その結果、聖武具を止めて外壁が破られたら、お前が責任を負うのか」


「私一人で負える責任ではありません」


 ゲイツの目が鋭くなる。


「だから、誰か一人が情報を隠し、九十七人の命を決めてはいけないんです」


 ルノアは目を逸らさなかった。


「私は、使えるものまで止めません。壊れるものを《使用可》にもしません」


 ゲイツの前へ、名簿を押し返す。


「欠陥を隠して使わせるか、九十七点すべてを捨てるか。選択肢は、その二つだけではありません」


 ルノアは検査鞄へ手を添えた。


「私が調べます」


 誰も、すぐには口を開かなかった。


 軍司令官は鑑定書を読み返し、続いて九十七人の名簿へ目を落とした。


「一括検査の準備に、どれほどかかる」


「九十七点を揃え、同期台へつなぐまでに二十三時間」


 アルドが答えた。


「検査は?」


「一打です」


 軍司令官は命令書を引き寄せた。


 赤い印肉へ軍印を押しつける。


「明朝九時、E-731全点を一括検査する」


 軍印が、紙へ打ち下ろされた。


 ドン、と重い音がした。


「ただし、共通する異常を証明できなければ、午前十時に予定どおり一斉起動を行う」


「司令官!」


 ゲイツが声を上げる。


「原判定と正式記録に食い違いがある以上、再検査なしの起動は認められない」


 軍司令官はゲイツを見据えた。


「E-731に関する貴官の単独決定権は、検査が終わるまで停止する」


 続いて、ルノアへ視線を移す。


「ルノア・フェルト。復職を認めるわけではない。アルド立ち会いのもと、一度だけ検査操作を許可する」


「はい」


「証明できなければ、終わりだ」


 ゲイツの低い声が届く。


 ルノアは、かつての師を見返した。


「証明します。兄が聞いた音を、今度は全員に聞いてもらいます」


 *


「八十四番、接続完了!」


「次、八十五番!」


 王都大広場では、一晩中、怒号と足音が途切れなかった。


 各地から届いたE-731が、次々と《聖核同期台》へつながれていく。


 ルノアは認証された手順書を握り、技術員が入力する数値を何度も確かめた。


 正規起動用の操作部には、軍司令官の封が施されている。


 今、流せるのは検査用の弱い魔力だけだ。


「九十六番、接続完了!」


 東の空は、すでに明るい。


 あと一台。


 遠くで、王都の鐘が鳴り始めた。


 一つ。


 二つ。


 鐘が九つ鳴り終わるのと同時に、泥に汚れた軍用馬車が大広場へ飛び込んできた。


「最後の聖盾です!」


 兵士たちが聖盾を運び下ろし、空いていた伝導線へ接続する。


 技術員が端子を確かめ、大きく手を上げた。


「九十七番、接続完了!」


 一斉起動まで、あと一時間。


 大広場には、九十七人の騎士が並んでいた。


 全員が、自分に支給された聖武具を握っている。


 ルノアは同期台の中央へ立った。


 正面にはゲイツと軍司令官。


 すぐ横にはアルド。


 振り返ると、アレンがいた。


「ルノア」


 アレンが、静かに頷く。


「いつもどおり、音を聞けばいい」


「……はい」


 検査槌の共鳴核を、同期台へ接続する。


 ルノアは九十七人の顔を見渡した。


 若い騎士。


 白髪の混じった兵士。


 家族から渡されたのか、腕へ小さなお守りを結んでいる者もいた。


 九十七点ではない。


 九十七人だ。


「一括検査を始めます」


 ルノアは検査槌を振り上げた。


 そして、同期台の打診板へ振り下ろす。


 チィン――。


 九十七点の聖武具から、澄み切った音が一斉に返った。


 それは、誰もが《合格》だと思うほど、美しい音だった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


少しでも「面白かった」「続きが気になる」と思っていただけたら、いいねとブックマークで応援していただけると嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。