第九章 叱責
翌日。
王城へ呼ばれた。
ユリウスではない。
王太子エドワードからの正式な呼び出しだった。
執務室には。
エドワードとユリウス。
そしてハインリヒ公爵がいた。
机の上には北東部整備計画の資料が広げられている。
「座ってくれ」
エドワードが言った。
クラリスは椅子へ座った。
王太子が一枚の紙を持ち上げる。
「アルベルト君が作っていた輸送計画を、別の者に引き継がせた」
「……はい」
「完成は二か月遅れる見込みだ」
クラリスは顔を上げた。
「二か月?」
「彼一人が優秀だったから、というだけではない」
エドワードは淡々と続ける。
「彼は公爵領の事情と、王家側の計画の両方を理解していた。代替できる者がいない」
ユリウスが横で黙っている。
「計画全体にも影響が出る」
「申し訳」
言いかけた。
エドワードが遮った。
「君が私に謝る話ではない」
クラリスは口を閉じた。
「だが」
王太子の声が少し低くなる。
「私は君に怒っている」
正面から。
そう言われた。
「殿下」
「能力のある者を失ったからではない」
エドワードは彼女を見る。
「一人の青年が、自分の努力には価値がないと思い込むところまで追い詰められたことにだ」
クラリスの指が強く握られる。
「私は彼を評価した」
「……」
「公爵も評価した」
父は何も言わない。
「家臣も評価した」
エドワードは紙を置いた。
「しかし、彼が一番評価してほしかった人物だけが、それを否定し続けた」
胸に。
言葉が刺さる。
ユリウスが口を開いた。
「俺も怒ってる」
クラリスは幼馴染を見る。
「俺、何回言った?」
「……」
「アルベルトと話せって」
答えられない。
「俺や兄上の用事を理由に、何度茶会を潰した?」
「公務でした」
弱い声だった。
「全部か?」
ユリウスが聞く。
「明日でもいいって言った日もあったよな」
クラリスは目を伏せた。
「俺との噂も知ってた」
「……はい」
「それでも説明しなかった」
「はい」
「その上、夜会では俺と入って、アルベルトが仕事で他の女と話したら嫉妬して」
ユリウスは一度言葉を止めた。
「お前、自分が何したか分かってるか」
涙が落ちた。
「分かりませんでした」
それしか。
言えなかった。
「分かっていなかったのです」
エドワードが静かに言った。
「それが最も危険なのだろう」
クラリスは顔を上げる。
「悪意がなければ、人を傷つけないわけではない」
そして。
決定的な事実を告げられた。
「アルベルト君は今」
王太子ではなく。
父が続けた。
「お前の名を見るだけで具合を悪くする」
クラリスの身体が固まった。
「……名前?」
「先日、お前が子爵家へ送った書簡を、偶然目にしたそうだ」
父の表情が苦しげに歪む。
「差出人を見ただけで呼吸を乱し、その後吐いた」
「嘘」
誰に向かって言ったのか。
自分でも分からなかった。
「医師からは、お前に会わせるなと言われている」
「……会えない?」
「ああ」
「一度だけ」
「駄目だ」
「謝るだけです」
「駄目だ」
「何も求めません!」
父が声を上げた。
「クラリス!」
部屋が静まる。
「今の彼に、お前の謝罪を受け止める義務などない!」
その言葉で。
クラリスは。
ようやく黙った。




