↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
8/12

第八章 空いた机

休暇明け。


クラリスはアルベルトに会うつもりで学園へ行った。


席が空いていた。


初日は。


まだ体調が戻らないのだろうと思った。


三日目。


不安になった。


五日目。


教師に聞こうとしてやめた。


婚約者なのに何も知らないと思われたくなかった。


七日目。


とうとう手紙を書いた。


返事はアルベルトではなく、レイヴァン子爵から届いた。


『息子は現在療養しております』


それだけ。


その夜。


父の執務室へ行った。


「お父様」


ハインリヒは机から顔を上げた。


クラリスは。


そこで初めて気づいた。


父の机の横に置かれていた、小さな補助机が壁際へ移されている。


アルベルトが使っていた机だった。


「アルベルトは」


父の顔が硬くなる。


「どうして学園へ来ないのです」


「座れ」


「お父様」


「座りなさい」


クラリスは椅子へ腰を下ろした。


机の上には見慣れた資料が山積みになっている。


以前より多い。


父が言った。


「婚約解消の手続きを始めている」


言葉の意味を理解するまで。


時間がかかった。


「……誰と」


父は目を閉じた。


「お前とアルベルト君だ」


「嫌です」


即座に答えた。


「クラリス」


「嫌です。認めません」


「彼が望んでいる」


息が止まった。


「アルベルトが?」


「ああ」


「どうして」


父がクラリスを見る。


「本当に分からないのか」


声は静かだった。


その静けさが。


恐ろしかった。


父は一枚ずつ資料を机へ置いた。


「東部街道補修案」


アルベルトの字。


「北部水路の調整案」


同じ。


「穀物倉庫の運用改善」


また。


「すべて彼が中心になって作った」


クラリスは紙を見る。


「彼が倒れてから、担当を四人に戻した」


「……四人?」


「それでも処理が遅れている」


父は机の上の山を指した。


「王太子殿下から昨日催促が来た。アルベルト君がまとめていた輸送費試算が止まっているからだ」


クラリスは何も言えない。


「家令からも言われた」


父の口元が歪んだ。


「若様がおられないと、執務がこれほど滞るとは思わなかった、と」


「……」


「私は」


父がアルベルトの机があった場所を見る。


「本気で、いずれこの机を譲るつもりだった」


クラリスは顔を上げた。


「お父様」


「お前と結婚するから仕方なくではない」


夜会で。


自分が言った言葉。


『能力で選ばれたわけではありません』


「私は彼ならこの家を任せられると思ったから、実務を教えた」


一つずつ。


自分の言葉が否定されていく。


父が言った。


「この家でアルベルト君を不十分だと思っていた者は」


そこで。


言葉を切った。


「一人もいなかった」


クラリスの手が震えた。


「お前以外は」


声を上げることもできなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。