第七章 二つの夏
翌朝。
アルベルトへ手紙を書こうとした。
書けなかった。
直接会って謝った方がよい。
顔を見て。
違ったのだと伝えなければならない。
そう考えているうちに。
夏季休暇へ入った。
レイヴァン子爵家へ訪ねようとも思った。
しかし父から、
「今はやめておけ」
と言われた。
「なぜです?」
「昨夜、倒れたそうだ」
クラリスの胸が強く痛んだ。
「倒れた?」
「高熱を出している」
「なら、お見舞いに」
「体調が戻ってからにしなさい」
父も。
それが数日で済むと思っていた。
クラリスも。
王家からは、予定通り避暑離宮への招待が来た。
行くべきではない。
そう思った。
けれど。
北東部計画に関する非公式な協議も予定されている。
公務だ。
クラリスは離宮へ向かった。
最初の数日。
何度もアルベルトを思い出した。
エドワードが食卓で尋ねる。
「様子は」
「熱は下がったそうです」
公爵家へ届いた報告の内容を答える。
「そうか」
王太子はそれ以上言わなかった。
その頃。
クラリスの知らないところで。
アルベルトは食事を取れなくなっていた。
後で知ることになる。
四日目。
本を開けなくなった。
六日目。
庭へ出なくなった。
九日目。
父親から学園復帰について話されただけで、呼吸を乱した。
クラリスは湖畔を歩いていた。
ユリウスとエドワードが仕事の話をしている。
「クラリス」
王太子に呼ばれた。
「アルベルト君へ手紙は出したか」
「まだです」
「なぜ」
「直接、お話ししたいのです」
「それは君がそうしたいのだろう」
クラリスは黙る。
エドワードは湖を見ながら言った。
「謝罪というものは、自分が気持ちよく謝れる時まで相手が待っていてくれるとは限らない」
「……」
「私は男女の問題に口を出すつもりはない」
そこで。
少し間を置いた。
「だが、君は先延ばしにする癖があるように見える」
クラリスは唇を噛んだ。
その夜。
手紙を書いた。
『先日のことを、お詫びしたく思います』
そこまで。
続かない。
『本心ではありませんでした』
それを書けばよい。
けれど。
なら本心は何なのか。
好きだった。
愛していた。
嫉妬した。
それを。
書けなかった。
結局。
破った。
次の日。
また書かなかった。
夏は過ぎていく。
アルベルトは。
日ごとに痩せていった。
その事実を。
クラリスだけが知らなかった。




