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暁の女帝〜狛犬と異世界革命〜  作者: 春と桜
第四章 革命編

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新たなる国 ジャスティス共和国

どうもはじめまして春と桜です。

初めての作品なのであたかかく見守って頂けたらなと思っています。よろしくお願いします。


 革命軍を先頭に、一行は玉座の間を後にした。


 崩れた回廊を抜け、王城のバルコニーへ近付くにつれ、王都を包む歓声は次第に大きくなっていく。革命軍の姿を見つけた民は次々と顔を上げ、王城へ視線を向けた。勝利を喜ぶ声が重なり、誰かがジャックの名を叫ぶ。その声は瞬く間に広がり、王都中を埋め尽くしていった。


 やがてジャックは最前へ立つ。


 眼下には数え切れないほどの民衆が集まっていた。老若男女を問わず、人々は息を呑み、その姿を見上げている。歓声は次第に静まり、夜風だけが王城を吹き抜けた。誰もが、この国の未来を決める言葉を待っていた。


「聞いてくれ。今日、俺たちはクリムゾンを討ち、この国へ自由を取り戻した。だが、革命は終わりじゃない。ここから先、この国をどう生きていくのか。それを決めるのは、俺たち自身だ」


 静まり返った王都へ、ジャックの声だけが真っ直ぐ響く。


 長い間、この国は恐怖によって支配されてきた。逆らえば奪われ、弱ければ踏みにじられ、力ある者だけが笑う時代だった。その光景を誰より近くで見てきた民だからこそ、一言一句を噛み締めるように耳を傾けている。


「だから俺たちは、もう二度と同じ過ちは繰り返さない。誰か一人のための国じゃない。力だけが正義になる国でもない。種族も、生まれも、身分も関係なく、誰もが同じように笑い、同じように生きる権利を持つ国を築く」


 ジャックはゆっくりと拳を握る。


「今日この日をもって、この国は新たな国として歩み始める」


 わずかな静寂が流れた。


「国の名は、ジャスティス共和国」


 民の瞳が大きく見開かれる。


「俺たちが目指すのは、誰かを裁くための正義じゃない。弱い者へ手を差し伸べ、理不尽から命を守り、努力した者が報われる国だ。泣いている子どもがいれば大人が支え、困っている者がいれば皆で手を貸す。それが、この国の正義だ」


 王都は静まり返ったまま動かない。

 初めて聞く国の在り方が、一人ひとりの胸へ静かに染み渡っていたからだった。


「俺は、このジャスティス共和国の代表として、この命が尽きるその日まで民を守ると誓う。だが、この国を築くのは俺一人じゃない。ここにいる全員だ。この国の未来は、お前たち一人ひとりの手の中にある。だから、一緒に歩いてほしい」


 その直後、王都を揺るがすほどの歓声が夜空へ響き渡った。


 涙を流しながら抱き合う者。空へ拳を掲げる兵士。子どもを抱き締める母親。誰もが笑っていた。革命が終わったからではない。これから生きていく希望を、その胸へ抱くことができたからだ。


 鳴り止まない歓声を受けながら、ジャックは静かに一歩後ろへ下がった。


 その背中を見届けるように、椿はゆっくりと前へ歩み出る。東の空は少しずつ藍色を溶かし、待ち続けた朝が静かに姿を現していた。柔らかな陽光は崩れた王城を黄金色へ染め、戦いの爪痕さえ優しく包み込んでいく。革命軍の肩を照らし、広場を埋め尽くした民を照らし、最後に椿の黒髪へ降り注いだ。その姿は、まるで夜を越えて未来を連れて来たようだった。誰一人として声を上げない。ただ、その一言を聞き逃すまいと、王都中の視線が椿へ集まっていた。


「皆さん、改めまして。私はヤタガラス帝国女帝、一宮椿です。本来なら、一国の王が他国の未来へ口を挟むことはありません。せやけど、今日ここへ立っているんはヤタガラス帝国を預かる女帝として、この場で皆さんへ一つの誓いを立てるためです」


 広場にどよめきが広がる。


 革命軍と肩を並べて戦った人が、一国を統べる女帝だった。その事実に驚く者は多かった。それでも椿は微笑みを崩さない。朝日は静かに昇り続け、その光は王都全体を新しい色へ染め上げていく。


「ジャックさんが掲げはった正義は、私が目指してきた国の姿そのものでした。力で人を支配するんやなく、力で人を守ること。命に違いを作らへんこと。人も、獣人も、亜種族も、皆が胸を張って笑えること。その願いが、この国の正義になるんやったら、ヤタガラス帝国は迷うことなく、その正義を信じます。今日この日より、ヤタガラス帝国はジャスティス共和国と共に歩みます。どちらかが苦しめば共に支え、どちらかへ災いが迫れば共に立ち向かう。それが国同士の利害やなく、人と人との絆から生まれた、本当の同盟です」


 椿は懐から一振りの短刀を取り出す。


 磨き上げられた刃が朝日を受け、白く神々しい光を宿した。躊躇なく指先へ刃を滑らせると、紅い雫が静かに滲み、そのままジャックへ右手を差し出す。ジャックは真っ直ぐ椿を見つめ、小さく頷くと同じように指先を傷つけた。重ねられた二人の手から赤い雫が一つとなり、王城の石畳へ静かに落ちる。その瞬間、王都を吹き抜けていた風が止み、まるで世界さえこの誓いを見届けようとしているかのような静寂が訪れた。


「ヤタガラス帝国女帝、一宮椿の名において誓います。この血盟が破られることはありません。ジャスティス共和国が正義を掲げ続ける限り、ヤタガラス帝国は永遠にその隣で歩み続けます。どれほど長い歳月が流れようとも、この誓いは決して揺らぎません」


 朝日が重ねられた二人の手を照らす。


 黄金色の光を受けた血は宝石のように輝き、その光景は王都へ集まった全ての人々の瞳へ焼き付いた。やがて誰からともなく拍手が鳴り響く。一人、また一人と音は重なり、やがて地鳴りのような歓声となって王都を包み込んだ。新たな国の誕生。そして二つの国が交わした血の誓い。その歴史的な瞬間を祝福するように、昇りきった朝日が世界を眩しく照らしていた。

 

 新しく掲げられた共和国の旗が風を受けて大きくはためく。その光景を見つめながら、革命軍の誰も口を開かない。ただ静かに、この瞬間を胸へ刻んでいた。命を懸けて戦い抜いた日々が、ようやく一つの形になったのだ。




「……俺は残る。元々この国の生まれだ。共和国の情報網は俺が預かる。国内だけじゃねぇ。他国の動きも全部追う。何かあれば夜のうちに報せる。戦は終わったが、情報戦は今日から始まる。俺にしかできねぇ仕事だ」


 ジャンクの声は穏やかだった。


 大袈裟な覚悟を口にすることもなければ、別れを惜しむような顔もしない。それがジャンクという男だった。ツバキ達に拾われ、革命軍へ加わった日から今日まで、誰にも知られない場所で仲間を支え続けてきた。その役目が少し変わるだけ。それ以上でも、それ以下でもなかった。


「……そうか」


 ジャックは短く頷く。


 引き止めようとはしない。理由を尋ねることもしない。互いが何を考え、何を背負おうとしているのか、今さら言葉にする必要などなかった。


 朝風が静かに吹き抜ける。


 革命軍の視線は自然と王都へ向いた。瓦礫の向こうでは、人々が互いに助け合いながら街を片付け始めている。その景色を見たジャックは、小さく息を吐いた。


「みんな、それぞれ役目がある。俺はこの国を守る。ジャンクはこの国の目になってくれ。モーリス、お前は治安維持を頼む。ルイは復興計画をまとめてくれ。ジョゼフは民の声を聞いて回ってほしい。ジグー、デルベ、お前たちも力を貸してくれ。今日から俺たちは革命軍じゃない。この国を支える柱だ」


 モーリスは力強く拳を握り締める。ルイは静かに頷き、ジョゼフは穏やかに笑う。ジグーは照れ臭そうに鼻を擦り、デルベは腕を組んだまま小さく息を吐く。返事の代わりに、それぞれが自分のやるべきことを胸へ刻んでいた。


 椿はゆっくりとルシフェルへ視線を向けた。


 その意図を汲み取ったルシフェルは静かに一歩前へ出ると、懐から淡い月光を閉じ込めたような宝珠を取り出した。掌へ収まるほどの小さな宝珠は、朝日を浴びてもなお月明かりを宿し、静かに揺らめいている。その不思議な光へ、ジャックは自然と視線を奪われた。


「ジャック」


 ルシフェルは宝珠を差し出す。


「これは月の魔力を封じた宝珠だ。夜になれば、一度だけ互いに声を交わすことができる。国の様子を伝え合い、必要な情報を共有するために使え。」


 ジャックは宝珠を受け取る。


 掌へ伝わる冷たさは不思議と心地良く、まるで静かな月夜へ触れたような感覚だった。小さな宝珠に込められているのは魔力だけではない。遠く離れても繋がり続けるという、二つの国の約束そのものだった。


「ただし」


 ルシフェルは静かに続ける。


「どうしようもなくなった時だけは、その宝珠を迷わず砕け」


 その場の空気がガラリと変わる。

 革命軍の仲間たちも、椿も、静かにルシフェルへ視線を向けた。


「砕かれた瞬間、この宝珠に宿した月の魔力が私へ届く。距離がどれほど離れていようと構わない。私は必ずお前たちのもとへ転移する。国一つの命運を左右するような事態になった時だけ使え。その時は私も、ヤタガラス帝国も、お前たちを見捨てない」

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