国を背負う者
どうもはじめまして春と桜です。
初めての作品なのであたかかく見守って頂けたらなと思っています。よろしくお願いします。
ルシフェルは窓の外へ目を向けた。
王都を包む灯りは夜空の果てまで続いていた。崩れた城壁も、砕けた石畳も、その全てを包み込むように人々の笑顔が広がっている。誰もが明日を信じ、自由を噛み締めるように声を上げていた。その景色を静かに見つめたあと、ルシフェルは小さく息を吐く。
「戻ろう」
椿も窓の外へ視線を向け、小さく微笑む。
「そうやね」
「あまり時間はない」
「分かってる」
二人の会話はそれだけだった。
言葉を交わさなくても互いの考えは分かる。この国へ来た時から、椿もルシフェルも戦いが終われば帰るつもりだった。革命軍と歩んだ日々は決して短くはなかったが、それぞれには守るべき国がある。その事実だけは変わらない。
椿はゆっくりと広場へ目を向ける。
革命軍へ向かって手を振る子どもたち。その姿を優しく見守る大人たち。泣きながら抱き合う家族。ほんの少し前まで絶望に覆われていた王都とは思えないほど穏やかな光景だった。
ジャックはゆっくりと全員を見渡した。
革命軍の仲間たちも、椿も、ルシフェルも、その視線を静かに受け止めている。歓声に包まれた王都とは違い、この場には穏やかな緊張が漂っていた。戦いは終わった。それでも、決めなければならないことがまだ残っている。
「ルシフェルさん、椿」
二人が静かに視線を向ける。
「帰る前に、一つだけ付き合ってほしい」
「ええよ」
「構わない」
ジャックの言葉を受け、玉座の間へ静かな空気が流れる。
椿とルシフェルは何も言わなかった。ここから先は、この国の者たちが決めることだ。革命を起こした者たちが、自らの意思で未来を選び、自らの手で国を築かなければならない。二人はただ、その決断を見届けるように静かに立っていた。
「革命軍のみんなに伝えたいことがある。俺たちはクリムゾンを倒すためだけに集まったわけじゃない。誰もが安心して笑える国を作る。そのために今日まで戦ってきた。だから、この国はもう帝国には戻さない。新しい国として歩き出す」
ジャックの声は決して大きくない。それでも、その場にいる全員へ真っ直ぐ届いていた。戦場で幾度となく背中を預けてきた仲間だからこそ、その言葉に嘘がないことを誰もが知っている。命を落とした仲間たちも、きっと同じ未来を信じて剣を振るっていた。その想いを受け継ぐ者が、今ここに残っている。
ジャンクは腕を組み、小さく息を吐いた。
「国を作ることには賛成だ。ただ、一つだけ忘れちゃならねぇことがある。クリムゾンが消えた今、この国は世界から見りゃ一番隙だらけだ。これまで手を出せなかった連中も、これからは遠慮なく動いてくる」
「やはり、他国ですか」
「間違いねぇ。友好的な国もあるだろうが、全部がそうとは限らねぇ。この混乱に乗じて、自分たちの都合で国へ踏み込んでくる奴らもいる」
「戦は終わったはずなのに、休む暇もありませんね」
コモンは静かに苦笑を浮かべる。
革命軍はようやく自由を勝ち取った。しかし、それは終着点ではなく始まりだった。国が生まれれば、今度は守らなければならない。外からの脅威だけではなく、民の暮らしを支え、街を立て直し、傷ついた者たちが安心して眠れる日々を取り戻さなければならない。その全てが、今日この瞬間から始まるのだ。
「だからこそ、この国は今日ここで形にしなきゃならねぇ」
ジャンクは静かにジャックを見る。
「国はできても、旗が立ってなきゃ意味がない」
革命軍の仲間たちは静かに視線を落とす。その意味を理解していたからだ。新しい国を築くと決めても、それだけでは国は動き出さない。民が信じ、他国が認める存在がいてこそ、一つの国として歩み始めることができる。
玉座の間へ沈黙が流れる。
誰の胸にも、一人の男の姿が浮かんでいた。けれど、その名を口にすることを躊躇っていた。革命は皆で成し遂げたものだ。その功績を一人へ背負わせることの重さを、誰もが知っていた。
「……ジャック」
最初に口を開いたのはモーリスだった。
その一言で静寂が揺らぐ。
ルイもジョゼフも、デルベも、何も言わず静かに頷いた。
革命軍を率いてきた男が誰だったのか。それを一番知っているのは、共に命を懸けて戦ってきた仲間たちだった。
「待て」
ジャックは小さく首を横へ振る。
「俺は向いてない。戦場なら先頭に立てる。でも国を治めるなんて考えたこともねぇ」
革命軍総大将として歩み続けてきた男だからこそ、自分に足りないものも理解している。剣を振るうことと、人々の暮らしを支えることは違う。その責任の重さを知っているからこそ、簡単に頷くことはできなかった。
「何言ってんだ」
モーリスが苦笑する。
「お前が先頭に立ったから、俺たちはここまで来られたんだ」
「そうだ」
ルイが続く。
「何度も心が折れそうになった。それでも立ち上がれたのは、お前が諦めなかったからだ」
「民も同じだ」
ジョゼフは静かにジャックを見据える。
「革命軍を信じたんじゃねぇ。ジャック、お前を信じたんだ」
デルベは腕を組み、小さく笑った。
「誰が一番相応しいかなんて、今さら話し合うことじゃねぇだろ」
再び静けさが訪れる。
仲間たちの言葉を受けながらも、ジャックは俯いたまま動かなかった。その胸には、革命で散っていった仲間たちの顔が次々と浮かんでいた。笑い合った日々も、拳を交えた夜も、最後まで剣を握り続けた背中も、何一つ忘れたことはない。
その命の先にある未来を、自分は本当に背負えるのだろうか。
握り締めた拳へ、自然と力が入った。
ジャックは静かに目を閉じた。
玉座の間へ流れる沈黙は決して重苦しいものではなかった。革命軍は互いを知り尽くしている。だからこそ、誰一人として軽い気持ちでその名を口にした者はいない。革命を率いてきた男だから代表になれと言っているのではなかった。この国で最も民から信頼され、仲間が命を預け続けてきた男だからこそ、その背中へ未来を託そうとしている。それは誰か一人の願いではない。この場にいる革命軍全員の総意だった。
「……本気なんだな、お前たち」
「当たり前だ。ここまで来て遠慮する理由なんかねぇ」
「革命軍を率いてきたのはお前だ」
「俺たちは命令されたから戦ったんじゃない。お前が信じる未来を、一緒に見たかったから剣を取った。だから今度は国を率いろ。俺たちも変わらず支える」
仲間たちの言葉へ嘘はなかった。
長い戦いの中で何度も命を落としかけた。飢えにも苦しみ、仲間を失い、希望を見失いそうになった夜もある。それでも革命軍が瓦解しなかったのは、ジャックという一人の男が決して前を向くことをやめなかったからだ。その姿を知る者たちだからこそ、迷いなく未来を託すことができた。
ジャックはゆっくりと顔を上げる。目の前には、共に歩き続けてきた仲間たちがいた。革命は一人では成し遂げられなかった。
これから築く国も、一人では守れない。
「……分かった」
短く息を吐き、静かに頷く。
「俺がこの国を背負う。だけど勘違いするな。国を作るのは俺一人じゃない。革命軍全員で築く国だ。これまでと同じように、お前たちの力を貸してくれ」
「もちろんだ」「そのつもりでここにいる」「最後まで付き合うさ」
玉座の間へ穏やかな笑みが広がる。
その瞬間、一人の革命軍兵士が勢いよく駆け込んできた。荒い息を整える間もなく片膝をつき、ジャックへ敬礼する。
「ご報告します! 城内の牢を確認しましたが、獣人奴隷の姿がありません! 牢は破られていましたが、遺体も見当たらず、すでに全員が姿を消しております!」
玉座の間へ小さなどよめきが広がる。
革命軍の仲間たちは互いに顔を見合わせた。誰も予想していなかった報告だった。しかしジャックは焦ることなく小さく頷き、静かに窓の外へ目を向ける。
「……そうか」
その一言だけだった。自由とは誰かから与えられるものではない。自らの足で掴み取り、自らの意思で歩き始めるものだ。
彼らが戦乱に紛れて新しい人生を選んだのなら、それが何よりの答えだった。
「広場へ向かおう」
ジャックは仲間たちを見渡し、力強く歩き出す。
「民へ、新しい国の始まりを伝える」
新連載!【獄門道中閻魔大王への道】を始めました!
ギャグ×和風ファンタジーです!よければそちらもご覧ください!
毎日20時更新です!
ブックマーク 評価 応援よろしくお願いします!




