表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
暁の女帝〜狛犬と異世界革命〜  作者: 春と桜
第四章 革命編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
85/98

届かぬ刃

どうもはじめまして春と桜です。

初めての作品なのであたかかく見守って頂けたらなと思っています。よろしくお願いします。

 

 セデスは瓦礫の中からゆっくりと立ち上がった。肩口から流れ落ちる血が石畳を濡らす。それでも大剣を握る手は緩まない。全身は悲鳴を上げていたが、その双眸だけはなおクリムゾンを捉え続けていた。


「まだ立つか。その執念だけは認めよう」


 クリムゾンは薄く笑う。

 セデスは砕けた石畳を蹴り、大剣を振り下ろした。返す刃が唸り、横薙ぎから斬り上げへと繋がる。重い連撃は途切れることなく王へ迫るが、クリムゾンは剣一本で受け流していく。その身のこなしに無駄はなく、呼吸さえ乱れていなかった。


「遅い」


 赤い剣閃が走る。


 セデスは咄嗟に受け止めた。しかし衝撃は受け切れず、大剣ごと弾き上げられる。体勢が崩れた刹那、クリムゾンの拳が腹へ深くめり込んだ。


 全身を突き抜ける衝撃。


 巨体は石柱を砕きながら壁へ叩きつけられ、轟音と共に瓦礫と砂煙が広間を覆い尽くす。


 やがて砂煙が薄れる。


 その中から現れたのは、片膝をつくセデスだった。立ち上がろうと柄へ力を込めるが、腕は震え、膝は石畳から浮かない。積み重なった傷が、ついに肉体の限界を突き付けていた。


「終わりだ」


 クリムゾンは静かに歩み寄り、剣先をセデスへ向ける。


 一方、革命軍も追い詰められていた。血の悪魔は斬り伏せても瞬く間に肉体を再生し、再び牙を剥く。モーリスは吹き飛ばされ、ルイは片膝をつき、ジョゼフ、ジグー、デルベも満身創痍だった。悪魔たちは円を描くように彼らを囲み、誰一人として突破口を見出せずにいる。


 クリムゾンは革命軍を一瞥すると、鼻で笑った。


「所詮、その程度か」


 王が剣を振るう。赤い斬撃が一直線にセデスへ迫る。避けられない。受け止める力も残っていない。


 その瞬間、鋭い風切り音が玉座の間を裂く。


 飛来した銀の矢が赤い斬撃へ正面から激突し、眩い閃光と共に魔力を四散させた。


 クリムゾンの眉が僅かに動く。


 視線の先には、月詠を引き絞る椿の姿があった。コマはツバキの前へ進み出ると王を睨み据える。

 椿は倒れたセデスの前まで歩み寄り、静かに月詠を構えた。


「ここから先は、うちがお相手します」


 穏やかな声だった。


 それだけで、玉座の間を満たす空気が一変した。


 セデスが膝をついたまま動かない。その姿にコマは耳を伏せ、小さく息を呑んだ。今にも駆け寄ろうと身を乗り出すが、椿はクリムゾンから視線を外さず、ほんの僅かに頷くだけだった。その合図だけで、コマは自分の役目を悟り、白い身体が一気に駆け出す。真っ先に辿り着いたのはセデスの傍だった。前足を胸へ添えると、柔らかな神気が溢れ、傷口を包み込むように広がっていく。流れ続けていた血は次第に止まり、荒かった呼吸も少しずつ落ち着きを取り戻した。


 クリムゾンは興味深そうにその光景を眺める。


「ほう……治癒の神獣か」


 王が歩を進めた刹那、椿の矢が風を裂いた。銀の一閃は喉元を狙うが、クリムゾンは剣を軽く払って弾き飛ばす。それでも歩みは止まった。椿は間を置かず二の矢、三の矢を放ち、王の間合いへ入らせない。


 その隙にコマはモーリス、ルイ、ジョゼフのもとへ駆け回る。光へ包まれた傷口はゆっくりと塞がり、倒れていた仲間たちにも力が戻り始めた。ジグーとデルベの治療を終えても足は止まらない。広間を駆ける小さな背中だけが、絶望の中で希望の光を灯していた。


「大丈夫なの!まだ戦えるの!みんな立つの!」


 クリムゾンは椿へ視線を戻し、愉快そうに口元を歪める。


「仲間を守るため、自ら囮になるか」

「囮やあらしまへん」

「ほう?」

「うちは、大切な人を守ってるだけどす」


 椿は月詠を引き絞ったまま、一歩も退かない。その背後ではコマの神気が広間を優しく照らし続けている。張り詰めた空気の中、クリムゾンは口角をゆっくりと吊り上げた。


 クリムゾンは椿から矢を逸らすように剣を下ろした。その赤い瞳には余裕しかない。戦う意思はありながらも、どこか品定めをするような眼差しで椿を見つめる。やがて王は肩を揺らし、小さく笑みを漏らした。


「仲間を立て直したところで結果は変わらぬ。だが……面白い。貴様らは最後まで抗うつもりらしいな」

「うちらは今日、勝ちに来てるんや。最後まで諦めるつもりはありまへん」

「その強情さ、嫌いではない」


 その時だった。


 玉座の間へ乾いた破裂音が響く。


 バチッ。


 椿の肩が僅かに震えた。耳に届いた音は剣戟でも魔法でもない。世界そのものへ亀裂が入るような、不吉な響きだった。胸騒ぎに導かれるように窓の外へ目を向ける。


 クリムゾンは、愉快そうに笑う。

「……何をしたんどす」

「貴様が守っていた境目だ。余が壊した」

「境目を……?」


 椿の胸を嫌な予感が貫く。


 革命軍もセデスも意味が分からず息を呑んだまま二人を見つめている。クリムゾンは両腕をゆっくり広げると、自慢するように王都へ視線を向けた。まるで、この瞬間を待ち望んでいたかのようだった。


「余はこの城だけで術を行っていたわけではない。王都各地へ召喚陣を刻ませ、境目を支えていた精霊どもを喰らわせた。今や隔てる壁は失われた」


 言葉が終わると同時に、再び破裂音が鳴り響く。


 バチッ。


 バチッ。


 バチバチバチッ……!


 窓の外で空間が赤黒く裂けた。王都の至る所へ亀裂が走り、その奥から悪魔たちが次々と姿を現す。悲鳴が重なり、炎が上がり、人々は逃げ惑う。穏やかだった街は、わずか数秒で戦場へ変わってしまった。


 椿は唇を噛み締める。


 守ると決めた景色が、目の前で壊されていく。


 クリムゾンはその光景を眺めながら、愉快そうに笑った。


「さあ、女帝よ。余を討つか、それとも民を救うか。どちらを選んでも、お前たちに待つのは絶望だけだ」


 王都から響く悲鳴が、玉座の間まで届いていた。誰もが窓の外へ目を向ける。炎が上がり、黒煙が空を覆い、悪魔たちは容赦なく街を蹂躙していた。その光景を見つめたジャックは拳を強く握り締める。悔しさに歯を食いしばり、それでも瞳だけは決して揺らがなかった。


「みんな、聞いてくれ。俺たちが革命を起こしたのは王座を奪うためじゃない。苦しむ人たちを救うためだ。このままここで戦い続ければ、街のみんなが死ぬ。ツバキさん……ここを頼んでもいいか。俺は民を救いたい」


 玉座の間へ静寂が落ちる。


 椿はジャックを見つめ、迷うことなく頷いた。その返事だけで十分だった。ジャックの表情から迷いは消え、革命軍の仲間たちも次々と武器を握り直す。傷は癒えきっていない。それでも彼らは立ち上がった。


「ええ。ここは、うちに任せておくれやす」

「恩に着る!」


 モーリスが剣を担ぎ、ルイも静かに息を整える。ジョゼフは拳を鳴らし、ジグーとデルベも無言のまま頷いた。セデスは椿へ視線を送り、小さく頭を下げる。それは戦士として最大限の信頼だった。


「行くぞ!」


 ジャックが先頭に立ち、革命軍は一斉に玉座の間を駆け抜ける。崩れた天井から王都へ飛び出すと、その背中は瞬く間に黒煙の向こうへ消えていった。足音が遠ざかるにつれ、広間は不気味な静けさを取り戻していく。


 残されたのは椿とコマ、そしてクリムゾンだけだった。


「ようやく邪魔者がおらんなったな」


 椿は月詠を静かに構え直す。


 その横でコマも王都を見つめ、小さく耳を伏せた。街にはまだ守るべき命が無数にある。椿はコマへ優しく目を向けると、穏やかに微笑んだ。


「……コマ」

「なあに、ツバキ」

「ごめんな、無理させるけど、街のみんなを守ってくれはる?」

「もちろん守るの!コマ、みんな助けるの!」


 コマは力強く頷くと、勢いよく地を蹴った。崩れた天井を飛び越え、王城で最も高い白亜の塔へ駆け上がる。頂へ立った小さな神獣は王都全体を見渡し、大きく息を吸い込んだ。燃え広がる炎も、逃げ惑う人々も、襲い掛かる悪魔たちも、その青い瞳は一つ残らず映し出していた。

新連載!【獄門道中閻魔大王への道】を始めました!

ギャグ×和風ファンタジーです!よければそちらもご覧ください!


毎日20時更新です!


ブックマーク 評価 応援よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ