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暁の女帝〜狛犬と異世界革命〜  作者: 春と桜
第四章 革命編

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セデス対クリムゾン

どうもはじめまして春と桜です。

初めての作品なのであたかかく見守って頂けたらなと思っています。よろしくお願いします。


 先頭を駆けたのはセデスだ。大剣が唸りを上げると同時に、白銀の冷気が石畳を這い、一瞬で玉座の間を凍らせていく。氷刃は一直線にクリムゾンへ迫り、赤い絨毯さえ白く染め上げた。しかし王は避けない。ただ静かに剣を一振りする。それだけで氷は粉々に砕け、無数の氷片が雪のように宙を舞った。


「……ほう」


 クリムゾンの視線には、ほんの僅かな興味だけが宿っていた。


 セデスは何も答えない。大剣を静かに構え直し、王を見据える。その背後ではモーリスたちが左右へ散開し、いつでも飛び込めるよう間合いを広げていた。椿も月詠を静かに引き絞り、コマは低く唸りながら主人の前へ立つ。


「ようやく興が乗ってきた」


 クリムゾンは薄く笑う。


「塵どもに邪魔をされては興醒めだ」


 そう呟くと、左手をゆっくり剣の刃へ滑らせた。


 白い掌が裂ける。


 鮮血が刃を伝い落ちる。しかし床へ届く寸前、その血は空中で静止した。


 血が蠢く。


 一本の糸となり、二本となり、幾筋もの赤い線が絡み合う。その異様な光景に、玉座の間の空気が静かに張り詰めていく。


「余の血を分けてやろう」


 クリムゾンが指を鳴らすと、血が一斉に膨れ上がった。赤黒い肉が脈打ち、角を生やした異形へ姿を変える。鋭い爪。歪な四肢。全身を覆う血色の鎧。その瞳だけが真紅に妖しく輝いていた。


 六体。


 悪魔たちは低く唸ると、一斉に革命軍へ顔を向ける。 椿は思わず目を細めた。


「……血の魔法」


 セデスだけはクリムゾンから視線を逸らさなかった。


「モーリス」

「あぁ、任せろ」

 モーリスが剣を抜き放つ。ルイ、ジョゼフ、ジグー、デルベも迷うことなく悪魔へ向かって駆け出す。広間の各所で剣戟が弾け、怒号と咆哮が重なり合う。赤い刃と鋼が激突するたび火花が散り、玉座の間は瞬く間に乱戦へ変わっていった。


 セデスとクリムゾン。

 二人の間だけは、不気味なほど静寂に包まれていた。王は静かに口角を上げる。


「来ぬのか」


 返事の代わりに、セデスが地を蹴った。


 セデスは一瞬で間合いを詰めると大剣を横薙ぎに振るい、白銀の冷気が唸りを上げた。凍てつく刃は空気さえ切り裂き、一直線にクリムゾンの胴を薙ぐ。しかし王は半歩も退かない。剣を静かに合わせるだけで大剣を受け止めると、轟音と共に衝撃が玉座の間を駆け抜けた。


「涼しいな」


 火花が二人の間へ散る。


 クリムゾンは片手だけで大剣を押さえ込んでいた。鍔迫り合いになっているにもかかわらず、その表情に力みはない。赤い瞳だけが静かに細められ、まるで値踏みするようにセデスを見つめている。


 セデスは押し返されながらも、大剣へ魔力を流し込んだ。刀身を白い冷気が包み込み、床を覆う霜が一気に広がる。


「凍れ」


 低い一言と共に石畳が砕けた。


 無数の氷柱が床を突き破り、四方八方からクリムゾンへ襲い掛かる。玉座の間は瞬く間に白銀の世界へ変わり、逃げ場を失った氷槍が王を飲み込もうと牙を剥いた。


「見事だ」


 クリムゾンの姿が消える。


 氷柱は何も貫けないまま空を裂き、そのまま砕け散った。次の瞬間にはクリムゾンはセデスの懐へ入り込み、赤い剣閃が静かに走る。セデスは咄嗟に大剣を立てるが、受け止めた瞬間、全身へ凄まじい衝撃が叩き込まれた。


 石畳を大きく滑る。


 靴底が床を削り、白い氷煙が尾を引く。それでもセデスは踏み止まり、大剣を構え直した。肩で息をすることもなく、視線だけは真っ直ぐクリムゾンへ向けられている。


「もっと余を楽しませてみろ!」


 その背後では悪魔たちとの戦いも激しさを増していた。ルイが援護へ駆け込むが、その隙を突かれて肩を斬られた。ジョゼフたちも悪魔を押し返し切れず、少しずつ戦線を押し込まれていく。


 椿は戦場全体へ視線を走らせた。悪魔は倒れない。革命軍は確実に消耗している。それでも今、最も危険なのはセデスだった。椿は静かに月詠を引き絞る。


「月詠」

「オイラノデバン!」


 銀の矢が音もなく放たれた。銀の矢は一直線にクリムゾンの眉間を狙う。


 王は振り向きもしない。ただ左手を軽く掲げただけだった。矢は二本の指に挟まれ、乾いた音と共に砕け散る。木片が宙へ舞い、赤い絨毯へ静かに降り積もった。その一瞬だけ、クリムゾンの視線が椿へ向く。


「援護としては悪くない」


 すでに次の矢を番えていた。コマも主人の前へ半歩出ると低く唸り、その青い瞳で王を睨み据える。


 その僅かな隙を、セデスは見逃さない。


 石畳を砕き、一気に間合いを詰める。大剣が唸りを上げ、凍てつく斬撃が連続してクリムゾンへ襲い掛かった。袈裟斬り、返す刃、斬り上げ。重く鋭い一撃一撃が空気を震わせる。しかし王は最小限の動きだけで全てを受け流していく。半歩捌き、剣を軽く合わせる。


「遅い」


 クリムゾンが静かに告げる。


 その言葉と同時に、赤い剣が閃いた。


 セデスは反射的に大剣を差し込む。鋼同士が激しくぶつかり合い、轟音が玉座の間を揺らす。しかし受け止め切れない。凄まじい衝撃が腕を貫き、巨体が数歩後方へ押し戻された。床へ深い溝が刻まれ、靴底から白い氷煙が立ち昇る。


 一方、革命軍の戦況も悪化していた。


 モーリスの剣が悪魔の胴を断ち切る。だが砕けた肉塊は血へ戻り、再び角を持つ異形へ姿を変える。ルイは二体を相手に押し込まれ、ジョゼフも休む間もなく拳を振るい続けていた。ジグーとデルベも互いを援護しながら戦うが、悪魔の数は減らない。誰もが少しずつ傷を増やし、体力だけが削られていく。


 椿は唇を結ぶ。このままでは崩れる。椿はゆっくりと息を整え、戦場全体を見渡した。狙うべきはクリムゾンではない。ほんの一瞬でも、セデスへ流れを引き寄せる隙だった。コマも地を低く這うように身構え、飛び出す機を窺っている。


 次に放たれた矢は、空中で軌道を変え、クリムゾンの死角へ潜り込む。王は剣を振るいながら視線だけを僅かに動かした。その一瞬を逃さず、セデスが渾身の一撃を叩き込む。大剣から噴き上がった冷気が竜巻のように渦を巻き、玉座の間を白く染め上げた。


 轟音が響く。


 氷煙が視界を覆い隠す。


 しかし、その中から聞こえてきたのは、静かな笑い声だった。


「なるほど」


 氷煙が左右へ割れる。


 クリムゾンは傷一つ負っていなかった。左手で椿の矢を握り潰し、右手の剣だけでセデスの大剣を受け止めている。その表情に焦りはない。むしろ愉しんでいるようですらあった。


「互いを信じ、隙を補い合うか」


 赤い瞳が二人を見渡す。


「実に美しい」


 その声が落ちた瞬間クリムゾンの魔力が膨れ上がる。玉座の間の床一面へ血の紋様が走り、悪魔たちの身体が赤黒く脈動した。雄叫びと共に力が増し、振るう剣はさらに重く、さらに速くなる。モーリスが受け止めきれず大きく弾き飛ばされ、ルイも悪魔の蹴りを受けて石柱へ激突した。ジョゼフ、ジグー、デルベも次々と押し返され、戦線は一気に崩れた。


 セデスも異変を察する。


 視線はクリムゾンから外さない。


 それでも背後で仲間たちが追い詰められていく気配だけは、嫌というほど伝わってきた。


 モーリスが悪魔の一撃を受け止める。


 鈍い衝撃が腕を貫いた。体勢を崩したその瞬間、横合いからもう一体の悪魔が迫る。咄嗟にルイが割って入り剣を合わせるが、受け止め切れず二人まとめて石畳を滑った。ジョゼフも拳を叩き込んで悪魔を吹き飛ばす。


「……全くもってきりがねぇ」


 ジョゼフが舌打ちする。


 ジグーとデルベも背中合わせで応戦を続ける。悪魔を押し返しても次の一撃が襲い、息をつく暇さえない。広間のあちこちで剣戟が鳴り響き、革命軍は少しずつ後退を余儀なくされていた。


 一方、中央ではセデスがなおも攻め続けていた。


 冷気を纏った流れるように繋がる連撃が絶え間なくクリムゾンへ降り注ぐ。しかし王は表情一つ変えない。必要最小限の動きだけで剣を合わせ、その全てを受け流していく。


「良い剣だ」


 クリムゾンが静かに口を開く。


「流石はエルフ。力も技も極みに近い」


 王は一歩踏み出す。


 それだけで空気が変わった。


 セデスは反射的に大剣を構える。しかし、クリムゾンの姿が視界から消える。次の瞬間、背後から凄まじい殺気が突き刺さった。振り返る暇もない。赤い剣閃が横一文字に走り、大剣ごと身体を弾き飛ばす。


 轟音と共にセデスは石柱へ激突した。


 石が砕け、柱へ大きな亀裂が走る。崩れ落ちる瓦礫の中から、それでもセデスはゆっくりと立ち上がった。肩口から血が滴り落ちる。それでも大剣は手放さない。その瞳から闘志だけは消えていなかった。

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