ジャックの決意
どうもはじめまして春と桜です。
初めての作品なのであたかかく見守って頂けたらなと思っています。よろしくお願いします。
救い出した者たちは別室で休ませ、革命軍の幹部だけが古びた机を囲んでいた。
地下牢の救出は成功した。
それでも部屋に安堵はない。王都へ残してきた火種が、さらに大きく燃え上がっていることを誰もが感じていた。
静寂を破ったのは、外套を脱ぎ捨てたジャンクだった。
「報告する。王都が動いた。」
全員の視線が集まる。
ジャンクは机へ王都の見取り図を広げる。赤い印が次々と書き込まれ、その数は昨日より明らかに増えていた。王都中へ兵が配置されているのが一目で分かる。
「結界が張られた。出入りは不可能だ。それと賞金首にもされた。俺たちは完全に狩られる側だ。」
部屋が静まり返る。
セデスは腕を組み、コモンは杖を握る手へ力を込めた。誰も驚かない。それくらいはやる男だと、全員が分かっていたからだ。
「……問題はここからだ。」
ジャンクの声が低くなる。
部屋の空気が一段冷えた。
「革命軍が捕まるまで、毎日一人ずつ民を処刑する。」
沈黙が落ちた。
ジャックは机へ視線を落としたまま動かない。握った拳だけが小さく震えている。
「……俺たちのせいで。」
「違う。」
椿は真っ直ぐジャックだけを見ていた。
「悪いんは私らやない。命を盾にせな人を従わせられへん王が悪い。それを背負う必要なんて、あらへん。」
部屋の空気が少しだけ動く。
ジャックがゆっくり顔を上げた。
「ここで隠れてたら向こうの思うつぼや。民は私らを憎むよう誘導される。せやけど、それは違うって、私らが証明せなあかん。」
セデスが腕をほどく。コモンは静かに頷き、ジャンクは口元だけで笑った。
椿は月詠へそっと触れる。
「向こうが喧嘩売る言うなら、買おうや。もう隠れへん。堂々と姿を見せる。」
月詠が微かに震え、青白い光を宿す。その光を見つめながら椿は静かに笑った。
「ここからは、私らの番や。」
ジャックはゆっくり立ち上がる。瞳から迷いは消えていた。
「……なら、今度は俺たちから仕掛ける。」
逃げ続ける戦いは終わりだ。恐怖で民を縛るというのなら、その恐怖ごと打ち砕く。それが革命軍の答えだった。
「……なら、今度は俺たちから仕掛ける。」
誰も異論は唱えなかった。
セデスは腕を組んだまま笑みを浮かべ、コモンは静かに杖を握り直す。部屋を満たしていた重苦しい空気は消え去り、その代わりに静かな熱が宿っていた。追われる側では終わらない。全員の覚悟は一つだった。
「ジャンク。」
「おう。」
「先に王都へ入れ。広場へ人を集めろ。」
「任せろ。派手にしてやる。」
ジャンクは外套を羽織り直すと窓から夜へ溶けるように姿を消した。
「行こか。」
革命軍は一斉に廃倉庫を飛び出す。
夜の王都は昼間とは別の静けさに包まれていた。誰もが俯き、足早に家路を急ぐ。昼間に流れた血が、まだ街全体へ色濃く残っているようだった。
「本気で時計台へ行くのか。」
「せや。」
「兵士が集まっとるぞ。」
「隠れてても始まらへんやろ。」
革命軍は堂々と大通りを歩いた。
誰一人顔を隠さない。逃げる様子もない。その姿に民衆は思わず立ち止まり、小さなどよめきが街へ広がっていく。
「革命軍じゃ……。」
「なんで堂々と……。」
兵士たちも異変へ気付いた。
怒号が飛び交い、一斉に時計台へ殺到する。だが、その時にはもうセデスが駆け出していた。風を裂くように階段を駆け上がる。先頭の兵士を吹き飛ばし、二人目を壁へ叩き付け、三人目を投げ飛ばす。狭い螺旋階段はたちまち兵士たち自身が作った壁で塞がれ、誰一人上へ近付けなくなる。
「コモンさん。」
「はい。」
鐘楼の最上階へ辿り着いたコモンは静かに杖を掲げた。
淡い光が夜空へ溶け、風が生まれた。
白く儚い花弁が一枚、また一枚と空へ舞い上がる。春を思わせる優しい花だった。花弁は夜風へ乗り、王都中へ静かに降り始める。
その頃。
ジャンクは屋根から屋根へ飛び移っていた。
「仕事の時間だ。」
懐から無数の紙束を取り出し、一気に夜空へ放る。革命軍の檄文は白い花弁へ混ざり、街中へ降り注いだ。人々は足を止めて思わず見上げる。
その頂で、椿はようやく月詠を構えた。
扇子の姿だった月詠は白銀の霊弓へ姿を変え、一筋の光の矢が静かに番えられる。
「ほな、始めよか。」
弦が鳴る。
白銀の矢は流星のように夜空を駆け上がり、王都の真上で眩い光となって弾けた。
白い花弁が光を受けて輝く。夜空は昼のように明るく染まり、王都中の視線が一斉に時計台へ集まった。
その中心で、ジャックが静かに一歩前へ踏み出した。
白銀の光はなお夜空を照らし続け、風に乗った白い花弁が静かに街へ降り積もっていく。兵士たちは剣を構えたまま動けない。民も商人も貴族も、誰一人として目を逸らせなかった。昼間、処刑台で流れた血とはあまりにも対照的な光景だった。
ジャックは鐘楼の縁まで歩み出る。
高所を吹き抜ける風が外套を大きく揺らした。その姿は王都中の誰の目にも映っている。隠れるつもりは最初からない。革命軍の長として、堂々と王の前へ姿を現した。
「王都の民よ、俺は革命軍総長、ジャックだ!」
その声は静まり返った夜へ真っ直ぐ響き渡る。
時計台の石壁へ反響し、広場を越え、大通りを抜け、王都全体へ広がっていく。人々は息を呑む。革命軍は影に潜む集団だと思われていた。その長が、自ら名乗りを上げたのだ。
「王は言った! 革命軍を捕まえるまで毎日民を殺すと! だが、よく考えろ! 剣を振るっているのは誰だ! 首を刎ねたのは誰だ! 子どもから親を奪い、親から子どもを奪っているのは誰だ!」
その答えは全員が知っていた。
ジャックは民一人ひとりを見渡すように視線を巡らせる。その瞳に怒りはあった。だが、それ以上に悲しみが宿っていた。
「俺たちは民を殺したことは一度もない! 俺たちが剣を向けるのは、民を虐げる者だけだ! それなのに王は、お前たちの命を盾にした! 王である自分を守るために、お前たちを差し出したんだ!」
白い花弁が夜風に舞う。
その一枚が、昼間に血の流れた処刑台へ静かに落ちた。
誰かがビラを握り締める。誰かが俯いていた顔をゆっくり上げる。凍り付いていた空気へ、小さな揺らぎが生まれ始めていた。
「民よ! お前たちはいつまで命乞いを続ける! いつまで生きることを王に許してもらうつもりだ! 生きることは施しじゃない! 王から与えられる褒美でもない! 誰にも奪われてはならない、お前たち自身の権利だ!」
広場のあちこちで人々が顔を見合わせる。
昼間は誰も口を開けなかった。だが今は違う。王の言葉しか聞こえなかった街へ、もう一つの声が響いている。その声は命令ではなく、人々へ問い掛ける声だった。
「恐怖へ頭を下げるな! 隣にいる人間を疑うな! 家族を売るな! 友を売るな! 王が本当に恐れているものは革命軍じゃない! お前たちが手を取り合うことだ!」
ジャックは拳を強く握る。
その拳を高く掲げ、王城の方角を真っ直ぐ見据えた。
「クリムゾン! 聞こえているんだろう! 民を人質にして勝ったつもりか!!俺たちは逃げない!隠れもしない! 売られた喧嘩なら買ってやる! この国を、お前の好きにはさせない!」
王都中へ歓声にも悲鳴にも似たざわめきが広がった。
革命軍は宣戦布告した。もう後戻りはできない。鐘楼の頂で、椿は静かに月詠を下ろす。
白い花弁はなお夜空を舞い続け、その光景を見つめた椿は小さく微笑んだ。
「ええ演説や。」
その瞬間。
王城の最上階から、重く低い鐘の音が鳴り響いた。
新連載!【獄門道中閻魔大王への道】を始めました!
ギャグ×和風ファンタジーです!よければそちらもご覧ください!
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