よう食べはる人、好きやよ
どうもはじめまして春と桜です。
初めての作品なのであたかかく見守って頂けたらなと思っています。よろしくお願いします。
市場はすっかり朝の熱を帯びていた。焼けた肉の匂いと人の声が重なって、空気が少し重たい。
椿は露店をゆっくり眺めながら歩いた。
「……思うてたより、ちゃんとしてはりますね」
「これでもマシな方だ」
椿は一つの露店の前で足を止めて、
焼きたてのパンと串に刺さった肉を見た。
「これ、いくらやろか?」
「パンは鉄貨二枚、肉は三枚だ」
「……鉄貨が一番下なんやね」
袋の中の硬貨を指で転がす。
「鉄が一番下で、銅、銀、金……で合うてます?」
「だいたいな。鉄十で銅一、銅十で銀一、銀十で金一だ」
「ほな、この前の銀貨八枚は……」
「そこそこだな。」
「なるほど。しばらくは困らへんやろか」
椿はパンを三つ肉を三本頼んだ。
「おおきに」
少し離れてスクナにそのまま一つ差し出す。
「どうぞ」
スクナは動かない。じっと見ている。
「……いいのか」
「買うたもんやし」
少し間があってから受け取った。
椿は何も言わず、もう一本差し出す。
「こちらも、よろしければ」
「……いいのか」
「よう食べはる人、好きやよ」
スクナの手が一瞬止まったが、そのまま受け取った。
椿はしゃがんで、コマにパンをちぎって差し出す。
「ほら、あんたも」
コマは素直に食べた。尻尾が揺れる。
「ええ子やね」
それから椿は袋を探り短剣を取り出した。
そのままスクナに差し出す。
「これ、持っとき」
視線が刃に落ちる。
「……なんのつもりだ」
「護身用やよ。丸腰やと落ち着かへんやろ」
スクナは動かない。
「……俺を信じるのか」
「信じる、いうほどのことやあらへんけど」
「裏切るかもしれない」
椿は少しだけ困ったように笑った。
「そうやね。裏切るかもしれへんね」
一歩近づき、そのまま手を取るみたいにして短剣を握らせた。
「それでも、今は一緒におるやろ?」
静かにそう言った。
「それで十分やよ」
スクナの手に重さが残る。
椿は一歩離れる。
「それに、本気でやるなら昨日やってはるやろ」
スクナは何も言えない。ただ、短剣を握る手に力が入る。
椿はくるりと背を向けた。
「ほな——もうちょい買い足そか」
「……もう食ってるだろ」
「足りてへんやろ」
露店に戻りもう一度注文した。
「おじさん、これも、それも頂けます?」
「……全部か?」
⸻
戻って、スクナにそのまま押しつける。
「はい」
「……多い」
「足りへんよりええやろ」
コマの前にも肉を置く。
「ほら、遠慮せんでええよ」
コマはすぐに食べ始めた。
「ええ食べっぷりやね」
スクナは食べ物と椿を見比べる。
「……なんで」
「お腹空いてる人がおったら、食べさせたなるだけやよ」
スクナは視線を落として、また食べ始めた。
さっきより少しゆっくり。
椿はもう一つ差し出す。
「これもどうぞ」
「……いいのか」
「うちが食べてほしいだけやし」
椿はコマの頭を撫でた。
「いっぱい食べて、元気になりや」
それからスクナを見る。
「……あんたもやよ」
スクナは手を止めた。
差し出された肉を少しだけ見つめる。
それから、無言で受け取った。
ひと口噛んで
飲み込んでから小さく息を吐く。
「……変なやつだな」
さっきより、ほんの少しだけ柔らかい声だった。
椿はくすりと笑う。
「よう言われる」
椿は少し考えてからスクナをみた。
「……ねぇ、スクナ 少し、頼みがあるんやけど」
書き溜めはありますが、暫くは様子を見ながら1日1話から2話を目安に投稿しようと思っています!
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