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暁の女帝〜狛犬と異世界革命〜  作者: 春と桜
第四章 革命編

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みぃんな仲間にしたらええ

どうもはじめまして春と桜です。

初めての作品なのであたかかく見守って頂けたらなと思っています。よろしくお願いします。

 

 世界が変わる時というものは、案外静かに訪れるのかもしれない。


 地下拠点へ飛び込んできた伝令は息を切らしていた。泥に汚れた外套の裾からは長旅の過酷さが滲み出ている。肩で荒く呼吸を繰り返しながらも、その目だけは異様なほど見開かれていた。何かとんでもないものを見てきた人間の目だった。


「王都で公開処刑が行われた。反対派の貴族は全員処刑された」


 地下空間が静まり返る。


 だが、それだけなら誰もここまで動揺しなかっただろう。クリムゾンならやりかねない。そこまでは想定の範囲だった。伝令自身もそれを分かっているのか、唇を震わせながら続きを吐き出した。


「それだけやない。神獣が現れた。王は神獣を捕らえたと言った。そして世界統一を宣言した」


 誰かが椅子を蹴飛ばした。


 重い音が地下空間へ響く。幹部たちの顔色が一斉に変わった。怒りではない。恐怖でもない。それ以上に厄介な感情だった。信じたくないのに信じるしかない現実を突き付けられた人間の顔だった。


「神獣やと……?」

「あり得ん」


 声が飛び交う。


 だが伝令は首を横に振った。王都中央広場には数万人が集められていた。目撃者は一人や二人ではない。今この瞬間も、その話は街道を伝い各国へ広がり続けているはずだった。


「王は言った。神獣を手にした者は世界を手にすると。そして神獣は今、自分の手の中にあると」

「……間に合うと思うか」


 ジャックの呟きに誰も答えなかった。革命軍はまだ纏まり切っていない。各地へ送った使者も戻っていない。対するクリムゾンは世界統一を宣言した。常識で考えれば絶望的な状況だった。


 重い沈黙が地下空間を支配する。松明の火が揺れ、壁に映る影もどこか不安げだった。だが椿だけは地図を眺めたまま表情を変えない。


「チャンスやと思う」


 その一言に全員が顔を上げた。


「向こうは焦ってはる。焦った人間は必ず隙を作るもんや」


 椿がそう言った瞬間、地下拠点の扉が勢いよく開いた。


「報告ッ!!」


 伝令が転がり込むように飛び込んでくる。肩で息をしながら叫んだ。


「王都北区の地下牢です! 反対派の貴族、商人、学者が大量に拘束されています! 三日後に公開処刑予定との情報が入りました!」


 地下空間がざわめく。


 幹部たちが一斉に立ち上がった。ジャックも目を見開く。だが椿だけは驚かなかった。


 扇子をぱたりと閉じる。


「ふふ、ええこと思いついたわ」


 ジャックが眉をひそめる。


 地下牢へ放り込まれた人間たちは処刑される予定だ。どう考えても最悪の状況である。だが椿だけは面白そうに笑っていた。


「反対派の貴族もおるんやろ。商人もおる。学者さんまで捕まっとる。つまり王様に逆らった人らが、一か所にぎょうさん集まっとるんや」


 地下空間が静かになり、誰かが息を呑んだ。

 少しずつ椿が何を言おうとしているのか見え始める。


「……まさか」

「そのまさかや」


 椿は扇子で地下牢の場所を軽く叩いた。


「みぃんな仲間にしたらええ」


 幹部たちは思わず顔を見合わせる。反対派の貴族、商人、学者、領主たち。地下牢へ放り込まれた者たちは決して少なくない。その中には革命軍と接点の無かった人間も大勢いるはずだった。だが椿は迷う様子もなく地図を眺めている。


「王様に逆らったんやろ? ほな志は同じや」


 誰もすぐには言葉を返せなかった。その発想が無かったのだ。革命軍は長い間、仲間と敵を分けて考えてきた。だが椿は違う。組織も立場も関係なく、クリムゾンへ刃向かったという一点だけを見ていた。


「明日には殺される人らや。助けへん理由ある?」


 助けられる命を見捨てる理由など、この場の誰も持っていなかったからだ。


「せっかく助かったんやったら派手に働いてもらおうやないの。貴族さんには貴族さんの人脈がある。商人さんには商人さんの繋がりがある。学者さんには学者さんの言葉がある。王様が一か所へ集めてくれはったんやから、使わへん手はないやろ」


 椿は扇子で地下牢の場所を軽く叩く。その音だけが妙に大きく響いた。ジャックは地図を見つめたまま動かない。だが胸の奥で何かが繋がる感覚があった。


「王様は見せしめをしたいんやろ。でもな、見せしめいうんは失敗したら一番恥ずかしいもんなんよ」


 幹部たちの目付きが少しずつ鋭くなる。

 処刑されるはずだった人間たちが生きて現れる。しかも革命軍に助けられて。その光景がどれだけ王の面子を潰すのか、誰もが想像できた。


「ほな決まりやね。地下牢を開ける。人を助ける。ついでに王様の顔も潰す。悪ない話やろ?」


 数秒の沈黙の後、誰かが吹き出した。

 十年以上守り続けた革命軍が、初めて大きく前へ踏み出そうとしていた。


 ♢


 王都の夜は静かだった。


 昼間の喧騒が嘘のように街は眠り、石畳だけが月光を反射している。だが王都の警備はかつてないほど厳重だった。公開処刑の後、兵士の数は明らかに増えている。街路にも屋根の上にも見張りが配置され、王都全体が張り詰めた空気に包まれていた。


 革命軍は止まらない。 黒い影が屋根から屋根へ駆け抜ける。

 南区では陽動部隊が派手に暴れているらしかった。遠くから鐘の音と怒号が聞こえてくる。兵士たちの視線も意識もそちらへ向いていた。予定以上に引き付けてくれているようだ。


 その間に椿たちは北区へ侵入する。コモンの魔法は驚くほど優秀だった。足音は消え、気配は薄れ、話し声すら外へ漏れない。防音も気配遮断も里長として長年磨き上げてきた技術だ。普段の様子から忘れそうになるが、こう見えてエルフの里を率いる長なのである。


「なんや、ちゃんと頼りになるやん」

「ちゃんとって何ですか!?」


 小声の抗議すら外へ漏れない。魔法は完璧だった。その横をセデスが音もなく進む。

 見張りの兵士が異変に気付いた時にはもう遅い。首筋へ正確な一撃が入り、兵士は声も上げず崩れ落ちる。二人目も三人目も同じだった。まるで影そのものが人を狩っているようだった。さすが帝国最強の戦士長、頼りになる男だ。

 気付けば王都北区の地下牢はもう目の前だった。椿は立ち止まり、月明かりに照らされた地下牢を見上げた。


「ほな迎えに行こか」

新連載!【獄門道中閻魔大王への道】を始めました!

ギャグ×和風ファンタジーです!よければそちらもご覧ください!


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