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暁の女帝〜狛犬と異世界革命〜  作者: 春と桜
第四章 革命編

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バルガム合衆国

どうもはじめまして春と桜です。

初めての作品なのであたかかく見守って頂けたらなと思っています。よろしくお願いします。

 

出発までの日常はは慌ただしく過ぎていった。


 世界樹の種がもたらした変化は想像以上だった。都中へ広がった蔦は日に日にその数を増やし、今では家々の壁や屋根を優しく彩っている。白い花は朝露を纏い、薄紅色の花は水路の縁を埋めるように咲いていた。風が吹けば花弁が舞い、湖面へ落ちた花びらがゆらゆらと流れていく。今や誰もが目を奪われるほど美しい場所になっていた。


 住民たちも忙しかった。


 エルフたちは畑を広げ、妖たちは家の修繕に追われている。子どもたちは世界樹の花で冠を作りながら都中を駆け回っていた。泣き声より笑い声の方が多い。そんな景色を見るたびに、椿はこの国を作って良かったと思う。


 そして出発の日がやってきた。


 まだ朝靄の残る中央広場には、大勢の住民たちが集まっていた。エルフも妖も子どもたちも、誰一人欠けることなく見送りに来ている。湖から吹く風が花々を揺らし、朝日が都を黄金色に染めていた。その中央には、一台の美しい馬車が置かれている。


「どうですかな!」

「みんなで作ったんです!「女帝様が大国へ行くんですからな!舐められたら困りますぞ!」


 国民みんなが胸を張る。


 馬車は黒漆で美しく塗られ、側面には八咫烏と世界樹の花が描かれていた。屋根や窓枠には繊細な彫刻が施されており、陽光を受けるたびに金の装飾が煌めいている。妖たちが車体を作り、エルフたちが彫刻を刻み、子どもたちまで花の意匠を描いた。ヤタガラスの住民全員が手を加えた馬車だった。


「……みんな、ありがとう」

「本当はもっと飾りたかったんですぅ!」


 椿は困ったように笑う。


「コマが引いていくの!」


 ぽんっと白い煙が弾け巨大な白獣が姿を現した。朝日を受けて輝く神々しい姿に、住民たちから歓声が上がり、大きな尻尾がぶんぶんと揺れた。

 住民たちは笑い、子どもたちは飛び跳ねる。神獣が馬車を引くなど普通の国ではあり得ないが、ヤタガラスでは誰も不思議に思わなかった。


「ツバキ」


 呼び止められ振り返ると、ルシフェルが小さな箱を差し出してくる。彼にしては珍しく少しだけ落ち着かない様子で、視線が何度か逸れる。椿は首を傾げながら箱を受け取った。


「これは?」

「御守りだ」

「うちに?」


 箱を開く。


 中には深紅の宝石が揺れる耳飾りが入っていた。光を受けて赤く煌めくそれは、どこか椿を思わせる色だった。思わず目を見開く椿から視線を逸らしたまま、ルシフェルが小さく口を開く。


「気に入らなければ捨ててくれて構わん」

「そんな勿体ないことしませんよ」


 椿は思わず笑った。

 こんなに綺麗な物を贈っておいて、どうしてそんな言い方になるのだろう。この男らしいと言えばらしいが、少しだけ頬が緩む。


「ありがとうございます」

「……着けてみるか」


 ルシフェルが手を差し出した。

 椿が素直に耳飾りを渡すと、彼は一瞬だけ固まる。言い出した本人なのに覚悟が足りなかったらしい。椿は何も言わず少しだけ顔を寄せた。


「ルシフェル?」

「……動くな」


 低い声だった。


 大きな指がそっと髪を避ける。まるで壊れ物に触れるような手つきだった。耳元に微かな温もりを感じる。留め具を通すだけのはずなのに、妙に時間が掛かっていた。


「これでいい」

「どうです?」


 椿が振り向く。

 ルシフェルは何も言わなかった。ただ赤い耳飾りを見つめている。長い沈黙だった。やがて小さく息を吐く。


「似合っている」


 その一言だけだった。

 けれどどんな賛辞より嬉しそうな声だった。


「ありがとうございます」

「失くすなよ」

「耳飾りをですか?」

「お前を自身をだ」


 椿が目を瞬かせる。


 ルシフェルはすぐに視線を逸らした。まるで余計なことを言ったと後悔しているようだった。だがその横顔には、隠しきれない不安が滲んでいる。


「無茶はするな」

「善処します」

「ツバキ」

「ふふっ」


 少し怒った声に椿は笑った。

 この不器用な友人は最後まで変わらないらしい。だから椿は耳飾りに触れ、小さく頷く。


「ほな行ってくるわ」

「お気を付けて!」

「女帝様ー!」

「お土産忘れないでなー!」


 賑やかな声が飛び交う。

 その中でスクナだけは少し離れた場所に立っていた。腕を組み、静かに椿を見つめている。言いたいことは山ほどあるのだろうが、最後まで何も口にはしなかった。


 椿たちは花に彩られた都を後にした。


 ◇


 7日後


 一行はバルガム合衆国の領内へ入っていた。

 街道は広い。街道脇には檻付きの荷車が並んで、首輪を付けられた獣人たちが無言で運ばれていた。


「どうやら獣人たちも動き出したようだ」


 コモンもセデスも黙って耳を傾ける。


「地下組織も動いてる可能性があるな」


 椿は静かに頷いた。まだ焦る必要はない。


 やがて、巨大な城壁が地平線の向こうに姿を現した。

 白い石で築かれた外壁は山脈のように連なり、無数の塔が空へ伸びている。その奥には豪奢な建物が幾重にも重なっていた。バルガム合衆国。その威容は遠目からでも圧倒的だった。


「そろそろやね」


 椿は馬車の中で小さく息を吐く。ここから先は敵地だ。旅装束のまま入るわけにはいかなかった。


「コマお願いできるやろか」

「任せるの!」


 白い光が馬車の中へ広がる。


 旅装束が光へ溶けて、代わりに現れたのは鮮やかな真紅の着物だった。咲き誇る椿を思わせる深い紅。所々金糸で描かれた椿の花々が揺れ、黒いレースの手袋が白い指先を彩る。長い黒髪は美しく結い上げられ、白いうなじが僅かに覗いていた。


 月詠もまた姿を変える。

 白銀の弓は光となり、一振りの優雅な扇子へ変化した。


「ツバキ、キレイ!」


 月詠が嬉しそうに声を上げると、椿は少しだけ笑った。

 コモンは感心したように息を呑み、セデスですら一瞬だけ目を見開いていた。ジャンクは黙っている。だが視線は外していない。


 その反応だけで十分だった。


「椿のお花みたいなの!」

「椿の花かぁ」


 椿は窓の外へ視線を向ける。

 青空の下で白い雲がゆっくり流れていた。


「椿の花ってな、昔は縁起悪い言われることもあったんよ。花びらが散るんやのうて、花ごとぽとりとなるのが、首が落ちるみたいや言われてな」


「ぴったりだな」


 ジャンクが即答した

「喧嘩売られたら首落としに行くんだろ」

「否定できへんなぁ」

「否定してくださいよぉ!?」


 コモンの悲鳴が響く。セデスは真顔で頷いていた。


「なるほど、非常に似合っています」

「セデスさんまで!?」


 一行が巨大な城門へ近づくにつれ、周囲がざわめき始めた。


 商人たちが足を止め、傭兵たちが振り返る。兵士たちまで視線を向けていた。

 白い獣が引く豪華な馬車など見たことがない。


「どこの国だ?」

「見たことのない紋章だぞ」


 ざわめきは次第に広がっていく。

 馬車の前を歩くセデスはその姿だけで周囲を圧倒していた。


 やがて門兵が馬車の前へ立つ。


「失礼。所属と身分を確認したい」


 空気が静まり、馬車の障子が静かに開く。

 ゆっくり姿を現した椿に、その場の兵士たちは思わず息を呑んだ。


 舞踏会へ向かう貴族の女性たちは皆、華やかなドレスを纏っていた。宝石に彩られた胸元、幾重にも重なるレース、流行を映した豪奢な装い。その中で椿だけが真紅の着物を纏っている。異国の装いでありながら不思議と誰よりも目を引いた。

 門兵は一瞬言葉を失う。ただ美しいだけではない。静かに立っているだけなのに、妙な威圧感があった。


「お名前をお伺いしても?」

「ヤタガラス帝国女帝、一宮椿どす」


 周囲がざわめいた。


 ダンジョン攻略者、そしてその女が治める東方の新興国家。話題の本人が目の前に現れたのだから無理もない。


「まあ、珍しいお召し物ですこと。小国ですから、流行りを知らないのね。お可哀想に」

「おおきに。ほんま皆様綺麗に揃うてはりますなぁ。同じお花がずらり並んでるみたいで壮観どす」


 一瞬だけ空気が止まった。


 貴婦人の笑顔が引き攣る。場違いと言うつもりが、今度は自分たちが個性のない集団だと言われたのだ。ジャンクは視線を逸らし、コモンは胃を押さえた。


「し、失礼いたしました! どうぞお通りください!」


 巨大な城門がゆっくり開く。

 その先には黄金の装飾に彩られた白亜の城があった。椿はその景色を静かに眺め、それから小さく笑う。


「ほな、お邪魔します」


 真紅の着物が揺れる。

 まだ舞踏会は始まっていない。それなのに何人もの貴族が、厄介な相手を中へ入れてしまった気がしていた。



新連載!【獄門道中閻魔大王への道】を始めました!

ギャグ×和風ファンタジーです!よければそちらもご覧ください!


毎日20時更新です!

ブックマーク 評価 応援よろしくお願いします!


イラストの挿絵の仕方やっとわかりました~!

初めましての椿です!皆さんのイメージ通りだと嬉しいです!

挿絵(By みてみん)

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