ヤタガラスの花
どうもはじめまして春と桜です。
初めての作品なのであたかかく見守って頂けたらなと思っています。よろしくお願いします。
翌朝。
世界樹の根元にある会議所には、ヤタガラスの幹部たちが集まっていた。机の上には大陸地図と例の招待状が並べられ、全員の視線が自然とそこへ集まっている。
「で、何を思いついたんです?」
「嫌な予感しかしません」
「うち、まだ何も言うてへんのやけど」
「その顔を見る限り、ろくでもない案ですぅ」
椿は少しだけ頬を膨らませたが、誰一人として同意しなかった。むしろスクナなどは露骨に目を逸らしている。コマだけは何か面白いことが始まるのだと信じ切った顔で椿を見上げていた。そんな反応にカザンが吹き出し、マメとツブまでくすくす笑っている。会議が始まる前から、すでに皆の答えは一致していた。
椿は地図の上へ指を置く。
大陸西部最大国家、バルガム合衆国。
ポンパドゥール王国と並び立つ巨大国家だった。
「うちら、ここ行くよ」
反対する者はいなかった。
「目的は二つや」
椿は指を二本立てる。その表情から笑みが消えた。いつもはふざけているように見えて、こういう時だけは誰より真剣だった。
「一つ目は敵を知ること。二つ目は獣人さんらを探すこと」
「獣人?」
「ジャンクさん、前に言うてたやろヤタガラスの噂が広がっとるって」
ジャンクは腕を組んだまま頷いた。
窓の外では世界樹の枝葉が揺れて、さらさらと葉擦れの音が響く。
その音を聞きながらジャンクは静かに続けた。
「裏社会じゃ噂になってる。東に変な国が出来た。亜種族を受け入れる女帝がいるってな」
ジャンクの目が少しだけ鋭くなる。
「だから獣人も動いてる可能性が高い」
「助けを求めてる人たちがおるかもしれへんのやね」
「そういうことだ」
会議室が静かになる。
「ほな、探しに行きましょか」
椿の言葉は驚くほどあっさりしていた。
まるで近所へ買い物へ行くみたいな口調だった。この女は本気で言っているのだと全員が知っていた。
「で、誰が行く?」
「私とコマ、ジャンクさん、セデスさん」
名前を呼ばれるたびに話が決まっていく。
迷いがない。
セデスは腕を組んだまま頷き、ジャンクも特に異論を挟まなかった。コマだけは既に旅支度のことを考えているらしく、そわそわしている。護衛、案内役、そして国の代表。自然と役割が見えていた。
最後に椿はコモンへ視線を向ける。
コモンは必死に目を逸らしている。
「コモンさん」
「え、私ですか!?」
「エルフ代表やよ」
「胃薬ぃぃぃぃ!!」
「持ってますよぉ!!」
即座にマフィが薬袋を差し出し、もはや様式美だった。
妖たちが笑い、カザンが肩を震わせる。張り詰めていた空気が少しだけ緩んだ。そんな賑やかな光景を眺めながら、スクナだけは腕を組んだまま黙っている。
やがて低い声が落ちた。
「俺は?」
会議室が静かになり、椿は真っ直ぐスクナを見た。
「留守番や」
数秒の沈黙の後、スクナの眉がぴくりと動いた。
「俺はあんたの騎士だ」
「知っとるよ」
「なら」
「せやから残ってほしいんや」
椿の言葉にスクナは口を閉ざした。
会議所には静かな空気が流れていた。誰も軽い気持ちで話しているわけではない。
スクナ自身、この国を守る戦力が必要だと理解している。
都は発展している最中だ。エルフも妖も増え、子どもたちの笑い声が響くようになった。けれど土台はまだ脆い。大陸有数の国家を相手にする以上、最悪の事態も考えなければならなかった。
「うちが帰る場所を守ってほしい」
「…ッ俺は!!」
「スクナ、お願い」
「……分かった」
大きなため息と共にスクナが折れる。
こうして遠征組は決まった。
椿、コマ、ジャンク、セデス、コモン。
スクナとカザン、マフィそれからルシフェルは都へ残り、国の守りを担う。
誰もが納得する配置だった。
「そういえば」
ルシフェルが静かに視線を向ける。
赤い瞳の先には会議所の隅へ置かれた木箱があった。ダンジョンから持ち帰った宝の数々に紛れ、後回しにされていた品である。その存在を思い出したコモンが慌てて立ち上がり、木箱を抱えて机の上へ運んだ。
蓋が開かれる。
中に収められているのは親指ほどの小さな種だ。
淡い緑色の光を宿し、呼吸するように明滅している。近くにいるだけで心が落ち着くような、不思議な生命力を感じさせる代物だった。宝物というより、命そのものを形にしたような神秘的な輝きがそこにはあった。
世界樹様に見せるの!」
コマが嬉しそうに木箱を抱える。
そのまま一行は会議所を後にした。
夜の都は静かだった。湖面には丸い月が映り込み、水路を流れる水は銀色の筋となって街を巡っている。
都の中心では世界樹が悠然と枝葉を広げている。見上げるほど巨大なその姿は、まるで国全体を抱く守護神のようだった。
「世界樹様〜!起きるのーー!!」
「なんじゃ〜」
のんびりした返事が返ってくる。
巨大な枝葉がゆっくり揺れた。
その声だけで、不思議と安心する者も多い。ヤタガラスという国が急速に形を成している理由の一つが、この存在だった。世界樹は都の象徴であり、住民たちの心の支えでもある。
「お土産なの!!」
「ほう?」
コマが種を見せた瞬間だった。
世界樹が固まった。誰も言葉を発しない。世界樹だけが種を凝視していた。
「……ほぇ?」
その場にいた全員が思わず顔を見合わせる。
コマは首を傾げ、マメとツブは「変な声だったな」「変な声だったな」とひそひそ話していた。
「な、ななななななな!?」
次の瞬間、世界樹が盛大に取り乱した。
枝葉がぶわりと揺れ、大量の葉が夜空へ舞い上がる。葉っぱの雨が都中へ降り注ぎ、妖たちが何事かと空を見上げた。湖面へ無数の葉が落ち、水面には幾重もの波紋が広がっていく。穏やかだった夜景が一瞬で騒がしくなった。
「どこで拾ったんじゃこんなもん!!」
「ダンジョンなの!!」
世界樹は震える枝で種を受け取った。そして種が淡い光となって溶け始める。
緑色の光は世界樹の幹へ吸い込まれ、脈打つように内部へ広がっていった。
その瞬間。眩い緑光が夜空へ駆け上がり、都全体が光に包まれた。
都の石畳を這うように緑の蔦が伸びていく。
世界樹の根元から溢れ出した蔦は、水路に沿い、家々の壁を伝い、鳥居を彩り、屋根の上へ駆け上がっていく。世界樹の蔦は国そのものを抱きしめるように広がっていった。
そして、一斉に花が咲いた。
夜の闇を照らすような無数の花々だった。風が吹き花弁が宙に舞う。湖面へ落ちた花びらは月明かりを受けて淡く輝き、水面へ銀色の波紋を広げていく。
歓声が上がった。
妖たちは屋根へ飛び乗り、エルフたちは呆然と空を見上げている。修復途中だった都は、一夜にして神話の中の都みたいな景色へ変わっていた。滅びていた都は今、本当の意味で息を吹き返したのだ。
「綺麗やねぇ」
「すごいのー!」
椿とコマが夜空を見上げる。
花吹雪は止まらない。都中が優しい香りに包まれていた。世界樹は満足そうに枝葉を揺らしながら、しばらく笑った後、どこか誇らしげな声で口を開いた。
「ふぉっふぉっふぉ。これはただの花ではないぞい。ヤタガラスを守る花じゃ」
夜風に揺れる花々は変わらず美しかった。
「この子らは都へ害を成す者を見逃さん。侵略者が来れば牙となり、この国を護るじゃろう」
夜空には無数の花弁が舞っていた。
まるで国そのものが祝福されているようだった。
新連載!【獄門道中閻魔大王への道】を始めました!
ギャグ×和風ファンタジーです!よければそちらもご覧ください!
毎日20時更新です!
ブックマーク 評価 応援よろしくお願いします!




