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暁の女帝〜狛犬と異世界革命〜  作者: 春と桜
第四章 革命編

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新たなる波乱の予感

どうもはじめまして春と桜です。

初めての作品なのであたかかく見守って頂けたらなと思っています。よろしくお願いします。

 ヤタガラスへ帰還してから数日が過ぎた。


 湖を囲む都は今日も賑やかだった。朝日を受けた湖面は鏡みたいに輝き、その上を白い鳥がゆっくり横切っていた。穏やかな景色だった。


 だが中央広場だけは違う。

 そこだけは朝から大騒ぎだった。


「無理ですぅぅぅ……」


 広場の真ん中でマフィが崩れ落ちる。


 目の前には宝の山が積み上がっていた。魔鉱石、魔力結晶、古代の武具、高位魔獣の素材。朝日を受けて輝くそれらは小山のような大きさになっている。妖たちは目を輝かせ、エルフたちは半ば呆然と眺めていた。


「どうしたん?」

「量がおかしいんですぅ……」


 マフィは震える手で帳簿を握る。


 何度数えても終わらない。整理しても整理しても宝が出てくる。普通の国家なら十年かけても集まらない財産が、今は広場へ無造作に積まれていた。コモンも隣で頭を抱えている。


 そんな二人を横目に、ジャンクは宝の山を見上げた。


 情報屋として長年生きてきた男だ。価値を見抜く目だけは本物だった。隣ではルシフェルが静かに宝物を眺めている。二人とも驚いてはいない。ただ淡々と仕事を始めていた。


「これは売れ。こっちも売れ。だがそれは残せ」


 ジャンクが指を差す。


 魔鉱石や高位素材は次々と売却組へ振り分けられていく。逆に古代文字の石板や魔導書は研究組へ回された。誰も価値を知らない物ほど危険だ。だからこそ安易には手放さない。


 広場には少しずつ三つの山が出来上がっていく。


 売却する物。

 研究する物。

 そして国宝候補だった。


 その時、ルシフェルが一本の刀の前で立ち止まった。


「これは売るな」

 白銀の鞘に収まった美しい刀で飾り気はない。なのに近付くだけで肌が粟立つ。まるで刀そのものが生きているようだ。


 ルシフェルは僅かに目を細める。


「神代武装だ」


 その一言で空気が変わった。

 妖たちですら近付かなくなる。誰も価値を説明出来ない。それでも売ってはいけない物だと本能で理解出来た。神話の時代から残った武器など、この世界に幾つも存在しない。


 続いて発見されたのは蒼い宝珠だった。

 透明な球体の中には湖が閉じ込められているように見える。覗き込むと、水面がゆらゆら揺れていた。幻想的な美しさに思わず妖たちが息を呑む。


「これは?」

「水脈核だ」


 ルシフェルの答えに全員が首を傾げた。

 だが続く説明で固まる。


「湖一つを永遠に維持出来る代物だ」


 次の瞬間には満場一致だった。


 さらに世界樹の種まで見つかった。


 親指ほどの小さな種だったが、近付くだけで生命力を感じる。世界樹本人が見れば泣いて喜びそうな代物だった。当然のように国宝行きとなる。



 夕方になる頃には全ての仕分けが終わっていた。


 宝の山は綺麗に整理され、広場には達成感のような空気が流れている。湖から吹く風が汗を冷やし、遠くでは子どもたちの笑い声が響いていた。都全体がどこか浮き足立っている。


「終わりましたぁ……」


 マフィが帳簿を閉じる。

 その顔は真っ青だった。

 だが理由は疲労だけではない。


「どうやった?」

「国が二十年回りますぅ……」


 歓声が上がった。


 妖たちは飛び跳ね、エルフたちは目を丸くする。ヤタガラスは一気に大国級の財力を手に入れたのだ。未来への不安が吹き飛ぶほどの成功報酬だった。


 その宴の最中だった。


 一人の妖が慌てた様子で広場へ駆け込んでくる。

 手には黒い封蝋の押された一通の手紙。

 それを見た瞬間、ジャンクの表情が変わる。


 楽しい空気の中へ、小さな不穏が落ちたのだった。


 ヤタガラスの幹部たちは世界樹の根元にある会議所へ集まっていた。


 障子の向こうでは湖面が月明かりを映し、夜風に揺れた風鈴が涼やかな音を鳴らしている。昼間の賑わいが嘘みたいに静かな夜だ。


 机の中央へ置かれた一通の招待状だけが置かれている。


「つまり、そのバルガムって国からの招待状なんやね」

「招待状なんて可愛いもんじゃねぇな」

「舞踏会のお誘いのように見えるんやけど」


 ジャンクは腕を組み表情には嫌悪が浮かんでいる。


 あまり感情を表へ出さない男だったが、この話になると隠そうともしなかった。路地裏で死にかけていた頃とは違う。今のジャンクはヤタガラスの会議卓に座り、堂々と発言している。それが少しだけ不思議だった。


「お前らが潰した領地あっただろ」

「奴隷商人のとこやね」

「あれはバルガムの属領だ。正確には、あの領地が特別狂ってた訳じゃねぇ。あれがあの国の日常だ」


 会議室が静かになり、コモンの顔が曇った。

 マフィも笑顔を消している。


 エルフたちは誰よりも理解していた。故郷を滅ぼされた恨みを忘れてはいない。


「奴隷売買は産業だ。珍しい種族ほど高く売れる。獣や獣人は当たり前だが、エルフも妖も全部商品扱いだ」

 そして、ジャンクは苦虫を噛み潰したような顔をして吐き捨てらように言った。

「金と権力で巨大になった怪物の国。命に値段を付ける国だ」


「この招待状も友好のためじゃねぇ。品定で間違い無いだろう」

「気持ち悪いですねぇ」

「喧嘩を売られてると言うことか」

「そういうことだ」


 重い空気が落ちる。

 窓の外では世界樹の枝葉が揺れていた。

 さらさらと葉擦れの音が響く。

 遠くから妖たちの笑い声も聞こえてくる。守られた平和の音だった。


「じゃあ潰すか」


 静寂を壊したのはカザンだった。

 まるで明日の天気を話すみたいな口調だった。

 妖たちは基本的に脳筋で好戦的だ。


「問題あるか?」

「ありますよ!?」

「ありませんな」


 セデスが真顔で答える。

 銀髪の戦士長は腕を組んだまま頷いた。

 冗談を言っている顔ではない。


「売られた喧嘩なら買うべきでしょう」

「セデスさんまで!?」

「向こうが敵意を見せているなら排除するだけです」


 カザンも満足そうに笑った。

 マメとツブは隣でこそこそ話している。


「戦争?」「戦争だな」


 スクナは不敵に笑った。


「俺は行くべきだと思う」

「ほう」

「敵を知らねぇまま放置する方が危険だ」

「それはそうですな」


 黒刀を背負った青年は真剣だった。

 虐げられていた頃とは違うその瞳はこの国を守る騎士そのものだった。


 だからこそ冷静に判断している。


「向こうは既にこっちを調べてる。ならこっちも調べるべきだ」

「同感だ」


 ルシフェルが静かに口を開いた。

 赤い瞳が招待状へ向けられる。

 どこか昔を思い出しているようにも見えた。


「金で命の価値を決める国は嫌いだ」


 ジャンクが鼻で笑う。

 二人は違う人生を歩いてきた。

 それでも価値観だけは一致していた。

 会議室へ短い沈黙が落ちるが、それを破ったのはコマだった。


「じゃあ行くの!」「決まりやね」

「舞踏会なの!」

「なんでそんな楽しそうなんだよ」

「お菓子いっぱいあるの!」

「そこかよ」


 会議室に笑いが広がる。

 コモンも苦笑し、マフィも肩の力を抜いた。

 エルフたちの顔からも緊張が消えている。


 少し前なら違った。


 大国の名前だけで震えていたはずだ。


 けれど今は違う。


 椿がふと顎へ指を添えた。何かを考えている顔だった。月明かりが美しい横顔を照らす。

 そして数秒後。

 ぱちん、と指を鳴らした。


 スクナが嫌そうな顔をする。

 コマが目を輝かせる。

 カザンが吹き出す。

 セデスが小さく目を細める。

 ルシフェルは静かにため息を吐いた。


「……ええこと思いついた」


 その笑顔を見た瞬間。全員が理解した。


 バルガム合衆国は喧嘩を売る相手を間違えた。

新連載!【獄門道中閻魔大王への道】を始めました!

ギャグ×和風ファンタジーです!よければそちらもご覧ください!


毎日20時更新です!


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