王への謁見
どうもはじめまして春と桜です。
初めての作品なのであたかかく見守って頂けたらなと思っています。よろしくお願いします。
巨大な扉が静かに開かれた。
重厚な音が石造りの廊下へ響き、椿たちは王城の最奥へと足を踏み入れる。謁見の間は広大だった。磨き上げられた白い大理石の床には真紅の絨毯が真っ直ぐ敷かれ、その先には黄金と蒼銀で飾られた玉座が据えられている。高い天井から吊るされた魔導灯が柔らかな光を降らせ、左右には近衛騎士と重臣たちが整然と並んでいた。
空気は静かだった。
だが張り詰めている。
世界初のダンジョン攻略者。
神託に名を刻まれた者たち。
その正体を見定めようとする無数の視線が、一斉に椿たちへ注がれていた。
スクナがわずかに眉をひそめる。コマは椿の隣を歩きながら周囲を見回していた。マメとツブもさすがに空気を読んだのか、今日は大人しく後ろを歩いている。ルシフェルだけは相変わらず静かだった。まるで周囲の視線など最初から存在しないかのように。
そんな中でも椿の足取りは変わらない。
背筋を伸ばし、胸を張り、真っ直ぐ前を見る。
堂々としていた。
怯えも緊張も見せない。
それは無礼だからではない。
国を背負う者として、そう在るべきだと幼い頃から教えられてきたからだった。
「お初にお目にかかります。ヤタガラス帝国女帝、一宮椿と申します。遠い東の国より参りました。以後、よろしゅうお願いいたします」
胸へ手を添え、優雅に微笑む。
頭は下げない。
だが礼は尽くす。
その所作は洗練されていて、貴族たちですら思わず息を呑んだ。
知らない礼法だった。
それなのに不思議と品格だけは伝わってくる。
玉座へ腰掛ける国王は、その姿を静かに見つめていた。
五十を越えた壮年の男。
堂々たる体格に白髪交じりの髭。
その眼差しには長年国を治めてきた者だけが持つ重みと落ち着きがあった。
「遠路ご苦労であった。余はレオン・ポンパドゥール。この国を預かる王だ。まずは礼を言おう。そなたらが攻略したダンジョンは、この国にとって長年の懸案であった」
低くよく通る声だった。威圧ではない。
だが自然と人を従わせる力がある。それでも椿は微笑みを崩さない。
国王もまた、その態度を気にした様子はなかった。
むしろ面白そうに眺めている。
周囲の重臣たちは少し驚いていた。普通なら王を前にして緊張するが、目の前の娘は違った。
まるで対等な立場の相手と話しているような落ち着きがある。
「それで一つ聞こう。神託について、どこまで知っておる?」
「神託、どすか?」
椿が不思議そうに首を傾げた。
コマも同じように首を傾げる。
スクナは眉をひそめ、マメとツブは顔を見合わせた。国王の目がわずかに細められる。
反応を見る限り、演技には見えなかった。
「知らぬのか?」
「うちら、ずっとダンジョンの中におりましたさかい。外で何が起こっとるんかは、さっぱりやねぇ」
玉座の間が少しざわつき、重臣たちが顔を見合わせた
世界中が知っていることを、本人たちだけ知らない。妙な話だった。国王はやがて納得したように頷いた。
「なるほど。ならば仕方あるまいな。ダンジョン攻略の瞬間、神託が世界中へ下った。ポンパドゥールダンジョン攻略。そして勇者選定。さらには厄災の魔王解放とな」
「勇者?」
「魔王?」
「なんだそれ」
「コマも知らないの!」
綺麗に反応が揃って玉座の間の空気が少しだけ和らいだ感じがした。国王は思わず笑みを浮かべた。
どうやら本当に何も知らないらしい。
その時だった。
「失礼します」
聞き覚えのある声が響いて椿が振り返る。
大扉が再び開かれ、人混みの奥から見慣れた青年が歩いてきていた。
青い髪。黒いコート。腰には一本の細身剣。
その姿を見た瞬間、マメとツブが同時に目を見開く。
青年は困ったように笑いながら近付いてくる。
その様子はギルドで会った時と何も変わらない。
だが周囲は違った。
騎士たちが一斉に跪き、重臣たちが頭を垂れる。
空気そのものが変わる。椿はぱちぱちと瞬きをした。
「……あら」
「久しぶり。無事だったみたいで良かった」
「ドラコさん、王城にも出入りしてはるんやねぇ」
その一言に周囲の騎士たちが微妙な顔になる。
ドラコは頭を掻いた。そして少し困ったように笑う。
「説明してなかったっけ、俺のこと」
国王が大きくため息を吐いた。どこか呆れたような顔だった。
「また言うておらなんだか」
「機会がなくて」
「毎度それだな」
ドラコが苦笑する。
そして椿たちへ向き直った。
「改めて自己紹介するよ。ドラコ・ポンパドゥール。ポンパドゥール王国第一王子だ」
スクナ達は盛大に固まっていたが、椿だけが数秒考えた後、小さく頷いた。
「なるほど。せやから皆さん、あない綺麗に道開けてはったんやねぇ。うち、人気者の冒険者さんや思てましたわ」
ドラコが吹き出した。国王も肩を揺らす。
重臣たちですら思わず顔を見合わせていた。
王子と知った反応としてはあまりにも予想外だった。
「驚かないのか?」
「驚いてますよ。でもドラコさん、気さくなお人やったさかい」
「それは褒め言葉として受け取っておこうかな」
ドラコが笑う。その表情を見ながら国王は静かに頷いた。
そして玉座から椿たちを見下ろすその目は鋭い。
だが敵意はないようだった。
「ドラコから話は聞いておる。彼がそこまで信用すると言うなら、まずは余も信じよう」
「それはありがたいことどすなぁ」
「もっとも、余も人を見る目には少しばかり自信がある。少なくとも、国を背負う覚悟もない者がそのような顔でここへ立つことはできん」
王として生きてきた男だからこそ言える言葉だった。夕陽が高窓から差し込み、玉座の間を黄金色に染める。
だが本当の話は、まだ始まったばかりだった。
新連載!【獄門道中閻魔大王への道】を始めました!
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