再会
どうもはじめまして春と桜です。
初めての作品なのであたかかく見守って頂けたらなと思っています。よろしくお願いします。
俺たちは二週間、この迷宮を攻略し続けた。
まともな休憩は取っていない。食事も睡眠も最低限だった。それでも足を止める気にはなれなかった。椿が消えたあの日から、最悪の想像だけが頭の中を巡り続けていたからだ。気付けば紅い焔の尾は出たままになり、怒りとも焦りともつかない感情が身体の内側を焼いていた。
「……ぐ」
前を歩いていたコマがふらつく。慌てて抱き留めた身体は驚くほど軽かった。こいつも限界だった。結界を張り、傷を癒し、俺の無茶な行軍に付き合い続けてきたのだ。普段は騒がしいマメとツブまで黙り込んでいる。
「おい、スクナ!」
「このままじゃみんな死んじまうよ!」
分かっていた。だが止まれなかった。一秒でも早く椿の元へ行きたかった。それでもコマの顔を見てようやく足を止める。短い休息を取り、俺たちは再び迷宮の奥へ進んだ。
「いる」
迷宮最奥で、コマがそう言った。掠れた声だったが迷いはない。その言葉だけで心臓が跳ねる。あと少しだ。ようやく辿り着ける。
扉の向こうにいたのは巨大な水竜だった。腐ったような鱗と歪な骨を晒した異形の怪物。神聖さなど欠片もない。見ているだけで不快になる化け物だった。
「行くぞ」
戦いは地獄だった。全員が限界を超えていた。それでも誰も退かなかった。椿が待っている。その想いだけで俺たちは立ち続ける。
「スクナァァァァ!!」
コマの叫びに応えるように黒刀を握る。全身の魔力を無理やり一点へ集めた。骨が軋み、血が逆流する。だが構うものか。
「── 焔狼絶界・天断ち」
紅い焔が巨大な狼となり、水竜を喰らう。轟音と共に怪物は崩れ落ちた。俺も膝をつく。だが休んでいる暇はない。顔を上げ、その先を見た。
そこにあったのは行き止まりだった。
「ふざけるなァァァァ!!」
怒りのまま壁へ黒刀を叩き付ける。だが壊れない。ここまで来て終わりなのか。焦燥が胸の中で暴れ狂う。
「スクナ!」
「いるの!ツバキがいるの!!」
次の瞬間、白い魔力が爆発した。轟音と共に壁が砕ける。眩い光が溢れ出し、その向こうの景色が露わになった。
そして俺は見た。
泣いている椿を。
見たことがなかった。どんな時も笑っていたあいつが、今は声もなく涙を流している。その隣には鎖に繋がれた巨大な男。そして男の手は椿の頭へ置かれていた。
「……おい」
「お前」
「何してやがる」
魔力が吹き荒れる。黒刀を握る手に力が入る。殺意が一気に膨れ上がった。
「スクナ」
椿が一歩前へ出る。
涙の跡が残る顔のまま、静かにこちらを見上げていた。二週間探し続けた顔だった。無事だったはずなのに胸の奥の熱は消えない。黒刀を握る手もまだ震えていた。
「その刀、下ろしてくれへん?」
「……」
「この方は敵やあらへんよ」
吹き荒れていた魔力が少しだけ弱まる。
それでも視線は銀髪の男から離せなかった。鎖に繋がれた男は静かに立っている。だが椿はその隣で穏やかに笑っていた。
「この方、ルシフェルさん」
「うちの友人や」
牢獄が静まり返る。
コマも固まる。マメとツブも目を丸くしていた。
「……友人?」
「ええ」
「ほんまやよ」
迷いのない声だった。
無理をしている顔じゃない。怯えている顔でもない。その事実が分かった瞬間、張り詰めていた糸がぷつりと切れた。
「……そうか」
黒刀がゆっくり下がる。
無事だった。それだけでよかった。気付けば尾の焔も静かになっている。
「おいで、コマ」
コマが駆け出した。
白い身体が椿へ飛び込む。椿はしゃがみ込み、そのまま抱き止めた。
「ツバキ」
「ツバキぃ」
「無事で良かったの!!」
コマは何度も顔を擦り付ける。
尻尾が忙しなく揺れていた。泣いているようにも見えた。椿は何も言わず頭を撫で続ける。
「助けにきてくれてありがとう」
「わふぅ……」
その光景を見た瞬間だった。
身体が勝手に動き、考えるより先に足が前へ出ていた。そのまま椿とコマをまとめて腕の中へ引き寄せて抱きしめた。
「スクナ?」
驚いた声が聞こえるが構わなかった。
二週間、二週間ずっと探していた。
眠れなかった。怖かった。失うかもしれないと思った。
「……もう二度と」
「勝手にいなくなるな」
情けないくらい震えていた。腕へ自然と力が入る。離したらまた消えてしまいそうだった。
「ほんまに無事でいてくれてありがとう」
椿の手が頭に触れる。優しく撫でられる。
子供をあやすように、何度も、何度も。
「よう頑張ったな」
「スクナも」
「コマも」
胸の奥が熱かった。
何か言おうとしても言葉にならない。ただ生きていた。その温もりだけで十分だった。
少し離れた場所で。
マメとツブは黙ってその様子を見ていた。
そして銀髪の男を見る。妙に色っぽい顔に裸。なんとも破廉恥だ。
「兄ちゃん」
「うん」
「あれは?」
「駄目だな」
意見は一致した。
仲良し兄弟に迷いはない。二匹は素早く駆け寄ると、どこからともなく布を取り出した。
「何をしている」
「服」
「服だよ」
ルシフェルが少し首を傾げる。
だが豆狸兄弟は止まらない。肩へ布を掛け、腰へ巻き、次々と整えていく。流れるような連携だった。
「必要か?」
「必要」
「すごく必要」
されるがままのルシフェルを見て、椿がとうとう吹き出す。
「ふふっ」
鈴のような笑い声が牢獄に響き、長かった二週間が、ようやく終わった。
新連載!【獄門道中閻魔大王への道】を始めました!
ギャグ×和風ファンタジーです!よければそちらもご覧ください!
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