表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
暁の女帝〜狛犬と異世界革命〜  作者: 春と桜
第三章 ヤタガラス帝国編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
62/82

友を救いたい

どうもはじめまして春と桜です。

初めての作品なのであたかかく見守って頂けたらなと思っています。よろしくお願いします。

 闇の中で鎖が小さく揺れる。いつもより低い声だった。何気ない話をする時とは違う。長い時間、胸の奥へ沈め続けてきたものをようやく取り出したような声だった。椿は何も言わず耳を傾ける。


「驚かないのだな」

「驚いてますよ」

「そうは聞こえん」


 ルシフェルが小さく笑った。

 けれどその笑いは楽しそうではなかった。どこか乾いていて、諦めにも似ていた。椿は膝を抱えながら暗闇を見つめる。姿は見えない。それでも不思議と、今どんな顔をしているのかだけは想像できた。


「うちも人を殺したことあります」

「……そうか」

「最初に殺したんは父でした」

「父を?」

「ええ」


 鎖の音が止まった。


 初めてだった。ルシフェルが言葉を失ったのは。闇の中に静寂が落ちる。椿は少しだけ視線を落とした。思い出すのは雪の降る夜だった。


「お母さんを殺そうとしてはったんです」

「だから止めるために殺しました」


 障子の向こうで聞いた母の声も、包丁を突き立てる前の父の寝顔もはっきり覚えている。忘れたことなんて一度もなかった。


「後悔しているか」

「分かりません」

「分からない?」

「たぶん普通やないんやと思います」


「けど」


「同じことになったらうちはまたやります」


 迷いはなかった。

 あの日へ戻ったとしても答えは変わらない。母を見捨てるくらいなら、自分が罪を背負う方を選ぶ。正しいかどうかは分からない。それでも、それしか選べなかった。


「……そうか」

「ルシフェルさんは?」

「私か」

「はい」


 鎖が小さく鳴った。


 まるで遠い昔を思い出しているようだった。長い沈黙が続く。椿は急かさなかった。ただ待った。待てるくらいには、もう打ち解けていた。


「私は守れなかった。兄も妻も我が子でさえも」


 その声は驚くほど静かだった。


 怒りも憎しみも感じない。ただ深い後悔だけが滲んでいる。千年という時間をかけても消えなかった傷なのだろう。椿は胸の奥が少しだけ痛くなった。


「私から全てを奪った世界を憎んだ。そして国を滅ぼした」

 重たい言葉だった。


「後悔してはるんやね」

「ああ」

「一日も忘れたことがない」

 どれだけの長い時間、彼は一人でその罪を抱えてきたのか。椿は膝を抱える腕に少しだけ力を込めた。


「だが、許すことができない。千年経ってもなお人が憎い」


 今までで一番迷いがない声だった。千年経っても変わらなかった答えなのだろう。闇の奥で鎖が微かに鳴る。


 その言葉の重さに、椿は何も返せなかった。


 分からないわけじゃない。守りたかったのに守れなかった。その苦しさだけは想像できた。だからこそ軽々しく何かを言うことができなかった。


「……うちらは似たもん同士ですねぇ」

「どこがだ」

「大切なもののために冷酷になれるところ?」

「私はお前ほど優しくはない」

「そないなことあらへんと思いますけどねぇ」

「国を滅ぼした男だぞ」

「うちは父親殺してますし」

 ルシフェルが笑った。

 今までで一番自然な笑い声だった。


 椿もつられて笑う。

 真っ暗なはずなのに、不思議と相手の顔が見える気がした。


「ほな、案外ええ友人になれるかもしれへんね」


 鎖が小さく鳴る。

「……友人か」


 その声はどこか困ったようだった。

 まるで千年以上忘れていた言葉を思い出したみたいに。


「嫌でした?」

「いや」

「悪くない」


 その日からルシフェルはよく話すようになった。


「昔、兄と花を見に行ったことがある」

「人間の国だった」

「春になると丘一面が白く染まるんだ」


 椿は静かに耳を傾けていた。

 顔は見えない。

 けれど話している時だけは、ルシフェルの声が少しだけ若返る気がした。

 きっと幸せだった頃の記憶なのだろう。


「綺麗やったんやろなぁ」

「ああ」

「今でも忘れられない」


 出口の見えない闇の中で、二人は何日も言葉を交わした。


「我が子を初めて抱いた時は怖かったな」

「壊してしまいそうで」


「ふふっ」

「ルシフェルさんでもそないなこと思わはるんですね」

「失礼だな」

 きっとお互いに孤独だったのだと思う。そんな他愛もない会話が続いた。

 日が経つごとに椿は少しずつ思うようになっていた。この不器用な友人に生きててほしいと。


「うちと一緒にここを出ませんか?」


 闇の奥で鎖が小さく鳴る。

 返事はすぐには返ってこなかった。

 長い沈黙だった。

 何百年も同じ答えを抱えてきた者の沈黙だった。


「無理だ」


「私には未来がない。生きる希望も理由もない」


 全てを諦め切った者の声だった。

 その静けさが椿には何より苦しかった。


「そないなことないと思います」


「ツバキ」

「なんです?」

「お前は優しいな」


 その言葉に椿は小さく首を振った。

 優しいわけではない。

 ただ放っておけなかった。

 失う痛みを少しだけ知っていたから。


「ちょっと失礼します」

「何をする気だ」

 椿は立ち上がる。

 声のする方へ一歩ずつ歩いた。


 そして手を伸ばす。


「……あ」


 指先が柔らかな髪に触れたその瞬間だった。

 淡い光が闇の中へ広がり、知らない景色が流れ込んできた。


 笑う兄。幸せそうな妻。小さな子供。

 暖かな食卓。優しい時間。


「……っ」


 次の瞬間、全てが壊れた。


 冷たくなった家族。崩れていく世界。壊れていく心。

 膨大な記憶が雪崩のように椿へ流れ込む。

 この男はただ、人を愛しただけなのに。


「ツバキ?」

 涙が止まらなかった。


 この世界は本当に理不尽で溢れている。


「泣くな」

 大きな手がそっと頭に置かれる。

 不器用な手だ。それでも驚くほど優しかった。


 椿が口を開こうとした次の瞬間


「ツバキ!!」


 轟音が響き壁が吹き飛ぶ。

 眩しい光が闇を切り裂いた。

 長い牢獄へ初めて光が差し込む。


「スクナ……‼︎」


「……おい、お前何してやがる」


 スクナの視線はルシフェルだけを捉えていた。


 涙を流す椿。その頭へ置かれた巨大な手。

 黒刀を握る手から膨大な魔力が溢れ出す。

 獣のように細められた瞳は、ただ目の前の男だけを見据えている。


 椿は悟った。


 これは間違いなく、盛大な勘違いをされている。

新連載!【獄門道中閻魔大王への道】を始めました!

ギャグ×和風ファンタジーです!よければそちらもご覧ください!


毎日20時更新です!


ブックマーク 評価 応援よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ