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神隠しで異世界に来た私が獣を守るため人間と敵対すると決めるまで  作者: 春と桜
第一章

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6/21

逃げない理由

どうもはじめまして春と桜です。

初めての作品なのであたかかく見守って頂けたらなと思っています。よろしくお願いします。

朝の光が、薄く部屋に差し込んでいた。


静かだった。


街の喧騒はまだ遠く、部屋の中には呼吸の音だけが残っている。


スクナはゆっくりと目を開けた。


知らない天井。


一瞬だけ、体が強張る。


——生きている。


その事実に、わずかに息が止まる。


夢ではなかった。


昨日の光景が、断片的に浮かぶ。


温かい食事。

優しい手。

全てを受け入れ抱きしめてくれる声。


目頭が熱くなり喉の奥が、ひりついた。


少し経ってから体を起こそうとして、違和感に気づく。


はっきりと分かるほどに痛みが軽くなっていた。


傷だらけだったはずの身体が、昨日よりも明らかに動く。


眉が寄る。


「……なんでだ」


掠れた声が落ちた。


そのとき。


すぐ横で小さく気配が動いた。


白い獣が静かにこちらを見ている。


じっと。


まるで、様子を確かめるみたいに。


スクナは動きを止めた。


白い獣と視線が合う。

逃げない。

威嚇もしない。


ただ、そこにいる。


「……お前」


思わず零れる。


昨夜のことがよぎる。


自分が眠りに落ちるまで、ずっとそばにいた気配。


コマは小さく鳴いた。

けれど、どこか穏やかな響きだった。


スクナは何も言えなくなる。


代わりに、視線を逸らした。


怖いわけじゃない。


けれど——分からない。


こんな距離の存在を知らない。


ふと、部屋の隅に視線が向く。


椿がいた。


壁にもたれて、座ったまま眠っている。

布もかけずに。


呼吸は静かで無防備だった。


スクナの目がわずかに見開かれる。


理解が追いつかない。


なんで床で寝ている。


なんで、あそこにいる。


自分は、昨日——


ベッドで寝ていた。


喉が、詰まる。


「……なんでだよ」


小さく落ちた。

椿は起きない。


ただ、静かに眠っている。

その姿はあまりにも隙だらけで、手を伸ばせば届く距離だった。


スクナの指がわずかに動く。


——今なら。

逃げられる。自由になれる。

このまま——

そこで止まった。

動かない。

動けない。

視線が椿から離れない。

昨日の手の感触が、残っている。

頭に触れられたあの感覚。

痛みもなくて、怖くもなくて。


ただ——

あたたかい。


「……あんなの知らねぇ……」


かすれた声が、零れた。


胸の奥がざわつき息が、うまくできない。

怖いのは、刃じゃない。

逃げることでもない。

——あれを、失うことだった。


スクナの手がゆっくりと下りた。

力が抜けてそのままベッドの端を掴んだ。

逃げない。

その選択を自分で選んだ。

明日は2話更新です!

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