人喰い
どうもはじめまして春と桜です。
初めての作品なのであたかかく見守って頂けたらなと思っています。よろしくお願いします。
十一階層の前には広い休憩所があった。十階層を突破した者だけが入れる場所らしく、そこには思った以上に多くの冒険者が集まっている。武器を手入れする者、食事を取る者、仲間と話す者。その視線が自然と椿たちへ向いた。
十階層を突破したばかりの新人集団。獣人と白い獣を連れているとなれば、目立たないはずがない。椿が少しだけ視線を気にした、その時だった。
「コマに任せるの!」
コマが元気よく前へ出る。
白い光がふわりと広がった。次の瞬間、周囲の視線が少しだけぼやけたみたいに薄くなる。こちらを見ていた冒険者たちの意識が、ふっと別の方向へ流れていった。
中が見えにくくなるだけではない。気配そのものが少し抑えられているようでもある。椿はその様子を見て、静かに目を細めた。
「中が見えにくくなるの!」
「便利やねぇ」
おかげで、ようやく落ち着いて休むことができた。
十一階層から先は迷路型らしい。三十階層まではほぼ探索済みで、宝箱も隠し部屋も大半は見つかっている。だからこそ、これから増えるのは魔物より罠だった。
落とし穴、毒矢、幻惑の霧、崩落、転移罠。十一階層からは、冒険者よりも罠の方が敵だと言われていた。
「ここからはオレたちの出番だな」
マメが胸を張る。
ツブも短く頷いた。
迷路へ入ってすぐ、その言葉は証明された。
「止まれ!」
床の石目に違和感があり、ツブがしゃがみ込んで叩く。次の瞬間、目の前の床が崩れ、下には鋭い杭がびっしり並んでいた。
思わず息を呑む。
一歩間違えば終わっていた。
「うわぁ……」
「危なかったねぇ」
その後も順調だった。
見えない糸、毒針、幻惑の霧。
マメとツブは次々に罠を見抜いていく。
情報屋から買った地図も正確だった。怖いくらい順調だった。
だからこそ、違和感に気付くのが遅れた。
「なあ」
マメが立ち止まる。
「どうしたの」
スクナが聞き返すと、マメは周囲を見回した。
静かすぎる。
ここまで魔物が一匹もいない。
冒険者も見かけない。
聞こえるのは遠くの水滴だけだった。
「情報ではもっと人がおるはずやったけど」
椿も眉を寄せる。
十一階層は人気の狩場だ。初心者には難しく、中級者には稼ぎやすい。だから本来なら、もっと人がいるはずだった。
「戻ろう」
椿がすぐに言った。
危険に近づかない。
それが鉄則だ。
誰も反対しなかったが、振り返った瞬間、全員が固まった。
「……は?」
マメが声を漏らす。
そこにあるはずの通路が消えていた。
代わりに、見覚えのない分かれ道が増えている。
「おい」
スクナの声が低くなる。
こんな道はなかった。
誰も答えられない。
迷路が変わっていた。
冷たいものが背中を伝う。
そして。
遠くから声が聞こえた。
「……たすけ……」
全員が顔を上げる。
「助けて……」
か細い声だった。
人の声だった。
「罠かもしれへん」
椿が言う。
けれどコマは震える耳を伏せ、前へ出た。
「まだ生きてるの」
その一言で決まった。
慎重に進む。
武器を構え、足音を殺し、声の方へ向かう。
すると、床に血が落ちていた。
ぽたり、ぽたりと点々が続いている。
嫌な予感がした。
その先にあったものを見た瞬間、マメが顔を背ける。
ツブも青ざめた。
冒険者だった。
いや、冒険者だったものだ。
鎧は裂かれ、腕は引きちぎられ、壁には血が飛び散っている。
コマが駆け出した。
「待て!」
スクナが叫ぶが、コマは止まらない。
血まみれの男の傍へ膝をつき、白い光を何度も何度も重ねた。
だが傷は塞がらない。
男は薄く目を開き、震える唇で言った。
「たす……け……」
「大丈夫なの!」
「コマが治すの!」
「逃げろ……」
椿が問いかけると、男は焦点の合わない目で天井を見た。
「人食い……だ……」
そこまで言って、男は動かなくなった。
静寂が落ちる。
次の瞬間、コマの毛が逆立った。
「……いるの」
全員の身体が凍る。
「どこや!」
椿が叫ぶと、コマは震える指を真横へ向けた。
誰もいない空間だった。
スクナが反射で黒刀を振るう。
風が裂ける。
だが手応えはない。
なのに、耳元で、くすり、と笑い声がした。
全員が凍りつく。
誰もそこにいないのに、確かに聞こえた。
「逃げるぞ!」
スクナが怒鳴る。
勝てる相手じゃない。
理由は分からないが、本能が叫んでいた。
逃げろ。今すぐ。
椿たちは走り出した。
絶対に離れないようロープを握り、迷路を駆ける。
振り返らない。
振り返ったら終わる気がした。
背後では悲鳴が聞こえ、何かが壊れる音もしたが、誰も足を止めない。
「マメ!」
「どこや!」
「転移罠だ!」
マメが地図を広げ、声を張る。
立ち入り禁止区域にある転移の罠、それしかない。
行き先は不明で、生還率も不明だったが、今はそれしか道がなかった。
「本当にあるんやろな!」
「知らん!」
迷路はもう当てにならない。
だが、追われながら出口を探すよりは賭ける価値があった。
そして。
「あった!!」
床に刻まれた巨大な魔法陣が、青白く脈打っていた。
全員が飛び込む。
ロープを握り、コマを抱え、スクナが最後尾につく。
「離したらあかんよ!」
椿の声に全員が頷いた。
魔法陣が光る。
眩い光が満ち、転移が始まる。
その瞬間、椿は見た。
迷路の奥、暗闇の中に何かが立っている。
人の形をしているのに、顔がない。
それが、笑っていた。
次の瞬間、世界が白く弾けた。
新連載!【獄門道中閻魔大王への道】を始めました!
ギャグ×和風ファンタジーです!よければそちらもご覧ください!




