喧嘩の行方
どうもはじめまして春と桜です。
初めての作品なのであたかかく見守って頂けたらなと思っています。よろしくお願いします。
その声が落ちた瞬間、ガンツの口元が歪んだ。
「なら証明しろよ」
酒瓶を床に叩きつけるみたいに放り、巨体が前へ出る。
床板が鳴った。
次の瞬間にはもう剣が抜かれている。
でかい。馬鹿みたいにでかいのに、振り下ろしは速い。
空気が裂けた音が耳へ刺さる。
俺は半歩だけ横へずらし、黒刀の鞘で受けた。
ゴン、と鈍い衝撃が腕に走る。
痺れた。
床板が悲鳴を上げ、足元の板がめくれそうになる。
「はっ、いい受け方じゃねぇか」
ガンツが笑いながら追撃してくる。
二撃目、三撃目、重い。
ひと振りごとに床が割れ、机が吹き飛び、椅子が砕けた。
受付嬢の悲鳴が背後で上がったが、もう止まらない。
俺は剣を捌きながら間合いを詰める。
大振りは隙がでかい。
剣先が視界を横切った瞬間、懐へ潜る。
鞘を横腹へ叩き込んだ。
ゴッ、と手応えが返る。
だがガンツは沈まない。
むしろ楽しそうに歯を剥いた。
「軽ぇな」
「うるせぇ」
今度は膝だ。
腹へ入れた。
ガンツの巨体がほんの少し浮く。
そこへ追い打ちで肘を落とす。
肩がぶつかる。
重い。
岩でも殴ってるみたいだ。
だが動ける。
まだ動ける。
俺は崩れたテーブルを蹴って背後へ回り、剣の死角へ入った。
左から行くと見せて右。
だがガンツも経験がある。
剣の腹で俺の胴を弾き飛ばした。
肺の空気が抜ける。
壁が近い。
踏みとどまる前に、追撃の拳が来る。
避けきれない。
肩で受けた。
激痛が走る。
骨が軋んだ。
床へ転がされ、掌をついて止まる。
熱い。
息が荒い。
そこで気づいた。
足元から、じわりと灼けるような熱が溢れている。
抑えろ、と思った。
だが、もう遅かった。
胸の奥で何かが切れた。
視界の端で床板が焦げる。
「なんだあれ」
「獣人か」
「いや、違う」
誰かの声が遠い。
俺は立ち上がった。
熱が揺れるたび、空気が跳ねる。
最近は抑え込めていた。
耳も尻尾もない、ただの人間みたいな姿でいられた。
なのに今は駄目だ。
ガンツが椿を見た、それだけで頭に血が上った。
あの目が許せない。
値踏みするみたいな目。
欲しい物を選ぶみたいな目。
「おいおい」
ガンツが口角を吊り上げる。
「それ、幻術か? 面白ぇじゃねぇか」
俺は答えない。
ただ踏み込む。
速い。
熱が背中を押す。
黒刀の鞘を逆手に持ち替え、首元を狙って振り抜いた。
ガンツは剣で受けた。
金属音が耳をつんざく。
だがそこで止めない。
受けた剣を押し込み、体重で崩す。
半歩、もう半歩。
剣が逃げるより先に脇腹へ膝を入れた。
「っ、てめぇ」
次の瞬間、肘が飛んできた。
避ける。
頬を掠めた。
熱い血が滲む。
俺はそのまま前へ倒れ込み、肩でぶつかりにいった。
ガンツの巨体がよろける。
床が割れた。
その隙に鞘を背中へ叩き込む。
ドンッ、と鈍い音。
ガンツが片膝をついた。
観客のように取り囲んでいた冒険者たちがどよめく。
「マジか」
「新人が押してるぞ」
「いや、あれ新人じゃねぇだろ」
コマが小さく「スクナ」と呼んだ。
椿の声も聞こえた気がした。
だが止まれない。
ガンツが立ち上がる。
口の端から血を垂らし、笑っている。
「いいな、いいぞ。そういうの嫌いじゃねぇ」
剣を肩へ担ぎ直す。
今度は踏み込みが深い。
床を割るみたいな一撃が来る。
受けるな、と思った時にはもう遅い。
剣の腹が横腹をかすめ、衝撃で身体が壁へ吹っ飛んだ。
背中が砕けた木片とぶつかる。
肺が痛い。
見えない何かが耳元で鳴ってるみたいだった。
そこで、頭上から重い影が落ちた。
反射で黒刀を構える。
だが振り下ろされたのは剣じゃない。
拳だ。
咄嗟に鞘で受ける。
ゴッ。
腕が折れそうな衝撃が走る。
床へ膝をついた、その時だった。
「そこまでだ、馬鹿共」
低い声が落ちた。
次の瞬間、俺とガンツの頭に同時に衝撃が走る。
ゴンッ。
「いってぇ!!」
ガンツが叫ぶ。
俺も思わず額を押さえた。
視界の端に、禿げ頭のでかい男が立っていた。
ギルドマスターだ。
でかい。
ガンツと同じか、それ以上にでかい。
こいつの拳だった。
周囲の空気が一気に引き締まる。
「ギルドで暴れるな」
低い声だった。
怒鳴ってないのに、背筋が冷える。
「今回は登録前だ。だから許す。だが次はない。ギルド内での私闘は御法度だ。やるなら外でやれ。」
ガンツが舌打ちした。
「ちっ」
「文句あるか」
ギルマスが睨む。
「ガンツ、お前は別だ。壊したもんの代金、きっちり払ってもらうからな!」
「はぁ?」
「はぁじゃねぇ。文句あるなら今すぐ倍にするぞ」
ガンツが舌打ちして肩をすくめる。
笑ってはいるが、もうさっきみたいな余裕はない。
ギルドマスターは次にスクナへ目を向けた。
「新人、お前は毎日掃除に来い」
「……は?」
「壊した分を自分の手で片づけろ。床を磨いて、机を直せ」
「なんでだよ」
「喧嘩の後始末までが喧嘩だ」
その一言で、周りから小さく笑いが漏れた。
スクナは眉間を押さえたまま、ガンツと壊れた床を見比べる。
怒りはまだ残っていたが、さすがに言い返す言葉はない。
「……分かったよ」
低く吐き捨てるみたいに言うと、ギルドマスターは満足そうに鼻を鳴らした。
「分かればいい」
書き溜めはありますが、暫くは様子を見ながら1日1話から2話を目安に投稿しようと思っています!
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