格の違う国
どうもはじめまして春と桜です。
初めての作品なのであたかかく見守って頂けたらなと思っています。よろしくお願いします。
その旅は、数日をかけてゆっくり景色を変えていった。
切り立っていた山はなだらかな丘へ変わり、乾いた風には少しずつ水の匂いが混じり始める。朝は白い霧が街道を薄く覆い、昼になれば運河の光がやたら眩しい。夕方には水辺を渡る風が肌を冷やし、夜になると遠くで鐘の音が聞こえた。
そんな道を、オレたちは人間の姿のまま進んでいた。
見た目だけなら、どこにでもいる旅人の集団だ。少し目つきの悪い剣士に、穏やかそうな女。騒がしい兄弟と、白髪の少女。誰も、その中に妖や神獣が混じってるとは思わない。
「もうすぐだぞ」
先頭を歩くマメが振り返る。
「次の坂越えたらポンパドゥール」
「ほんま?」
「この辺は庭みたいなもんだからな」
ツブが得意げに笑った。
ポンパドゥールは、マメツブ兄弟にとって数少ない慣れた街らしい。人間に化けて商人の手伝いをしたこともあるし、冒険者に紛れて依頼を受けたこともある。街の空気を読むのも、人を誤魔化すのも、この兄弟は妙にうまかった。
「入る時はオレらに任せろよ」
マメが指を立てる。
「この街、外から来た奴には結構うるさいし」
「特に師匠」
「顔怖いから」
「なんで俺だけなんだよ」
「睨むし」
「睨んでねぇ」
横で椿がくすっと笑う。
「でも助かるわぁ。うち、そういうの苦手やし」
「ツバキは別方向で目立つだろ」
ツブがぼそっと言った。
「立ってるだけで」
「なんやそれぇ」
椿は笑ってる。
オレは黙って前を向いた。
最近、街へ近づくほど妙に落ち着かない。理由は分かってた。椿は人の多い場所でやたら目立つ。別に着飾ってるわけじゃない。ただ歩いてるだけなのに、人の視線を勝手に集める。
しかも本人に自覚がない。
そこが一番厄介だった。
「スクナ」
不意に袖を引かれる。
振り向くと、椿がすぐ近くにいた。
「なんや疲れてる?」
「……別に」
「ほんま?」
覗き込まれる。距離が近い。近すぎる。
黒い睫毛も、白い肌も、息遣いまで妙に近くて、オレは反射的に顔を逸らした。
「師匠また止まってる」
「置いてくぞー」
「うるせぇなお前ら」
街道へ笑い声が転がる。
そのまま坂道を越えた瞬間、視界が一気に開けた。
「あっ……」
コマが目を丸くする。
白い外壁。幾重にも重なる橋。水路を進む小舟。朝日を受けた街並みが、水面へそのまま映って揺れていた。運河の水は光を弾き、街全体がきらきらして見える。
「……綺麗やねぇ」
椿が小さく息を漏らした。
ヤタガラス帝国とは全然違う。
向こうが傷だらけの土地で必死に生きる国なら、ここは金と交易で膨れ上がった巨大都市だった。鐘の音、水車の回る音、人の喧騒。街全体が絶えず動いてる。
門へ近づくにつれて、人通りはさらに増えた。
冒険者、商人、旅芸人、貴族の馬車。露店から漂う焼き魚の匂い。甘い果実酒の香り。騒がしい声。笑い声。
その中で、視線だけがやけにこっちへ集まっていた。
いや。
正確には、椿へだ。
すれ違う男が振り返る。橋の上で話してた冒険者が言葉を止める。露店の店主なんか、串焼き焦がして煙上げてた。
椿は全く気づいてない。
「人多いねぇ」
のんきに辺りを見回してる。
その横を通った男二人組が、小声で囁いた。
「めちゃくちゃ綺麗じゃね?」
「貴族か何かかな」
オレの眉間へ勝手に皺が寄る。
「師匠、顔が怖ぇって」
「うるせぇ」
マメツブ兄弟が笑いながら逃げた。
門前へ着くと、二人は慣れた様子で前へ出る。
「よっ、久しぶり」
マメが片手を上げた。
門番の男は、兄弟を見るなり呆れた顔をする。
「また来たのかお前ら」
「常連って言ってくれ」
「前回来た時、酒場で暴れてただろ」
「暴れてねぇ!」
「兄ちゃん椅子ごと吹っ飛んだだけ」
「言い方ァ!!」
門番が吹き出す。
どうやら本当に顔馴染みらしい。
「で、後ろは?」
「新しく組んだパーティ」
ツブが自然に答えた。
「東側から来たんだ。ダンジョン潜る予定でさ」
「へぇ」
門番の視線が順番に流れ椿で止まった。
ほんの一瞬。
それだけなのに、妙に腹が立った。
気づけば、オレは半歩だけ前へ出ていた。
無意識だった。
ただ、見られるのが気に食わなかった。
門番はオレを見て、ちょっと笑う。
「取って食わねぇよ」
「……別に」
「師匠わかりやす」
「黙れ」
椿は横で肩を揺らして笑っていた。
結局、入門は拍子抜けするくらいあっさり終わった。門をくぐった瞬間、ポンパドゥールの景色が一気に広がる。
白い建物が水路沿いへ並び、色鮮やかな布が風に揺れていた。橋の下を小舟が滑り、窓辺には花が飾られている。人の声と水音が混ざり合い、街全体がずっと騒がしい。
その中心。
巨大な白い巨像が、水の都を見下ろすように立っていた。
「うわ……」
コマがぽかんと口を開ける。
巨像は三叉槍のような武器を持ち、波を割るように片腕を掲げている。白石で作られているはずなのに、まるで生きているみたいだった。運河の水飛沫が像の足元へかかり、陽射しを受けてきらきら光る。
そして、その巨像の真下。
ぽっかりと、巨大な黒穴が口を開けていた。
「ポセイドン…?」
椿が考え込むような仕草をしながら何か言っていた。
コマが呟く。
「でかいの」
黒穴の周囲には、冒険者たちが列を作っている。武器を抱えた者。荷物を運ぶ者。怪我だらけで戻ってくる者。笑ってる奴もいれば、青い顔してる奴もいた。
生きるために潜る場所。
死ぬために落ちる場所。
そんな空気が、遠目でも分かった。
マメが振り返る。
「まずはギルド行くぞ。登録しねぇと依頼受けられないし」
「うち、冒険者なるん初めてやわ」
「ツバキ絶対目立つ」
「でも、守ってくれるやろ?」
「当たり前だ」
オレはぶっきらぼうに返した。
そのまま一行は、水路沿いの石畳を歩き始める。観光客、冒険者、商人が入り乱れる通りを抜けるたび、椿へ視線が集まる。そのたび、なんか無駄にイラつく自分がいた。
意味は分からない。
分かりたくもない。
「師匠」
「……何だよ」
「顔」
「うるせぇよ」
橋を渡った先、大きな石造りの建物が見えてきた。剣と盾の紋章。開きっぱなしの両扉。中からは笑い声と怒鳴り声、酒の匂いが流れ出している。
ポンパドゥール冒険者ギルド。
水の都で、一番金と情報が集まる場所だった。
「着いたぞ」
マメがにやっと笑う。
「ここからが本番だ」
少々、文章の書き方を変えてみました。今までの方が良いですか?今回はお試しなので、不評がなければしばらくこの書き方で続けてみようと思います!
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