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暁の女帝〜狛犬と異世界革命〜  作者: 春と桜
第三章 ヤタガラス帝国編

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出発の朝

どうもはじめまして春と桜です。

初めての作品なのであたかかく見守って頂けたらなと思っています。よろしくお願いします。

 

 夜明け前の空は、まだ薄青かった。

 湖を覆う朝靄の向こうで、ヤタガラス帝国の結界が淡く揺れている。

 水路を流れる水音と、遠くで目覚め始めた妖たちの声。

 崩れた都はまだ修復途中やったけれど、それでも確かに生きている国になり始めていた。


 門の前には、大勢の見送りが集まっている。

「本当に行くんですねぇ……」

 コモンは朝から半泣きやった。

「成果上げて帰ってくるよ」


 椿が笑う。


「だから安心しぃ」

「その笑顔が不安なんですぅ……!」

「信用ないなぁ」

「ありますけど、毎回大騒ぎになるじゃないですか!」


 否定できへんかった。

 その横では、マフィが大量の薬袋を抱えて走り回っていた。


「はいこれ胃薬です! あと傷薬! あと解毒薬!」

「多ない?」

「絶対必要ですぅ!!」

「マフィ、うちら何しに行く思てるん?」

「生還しにです!!」


 スクナが横で吹き出した。


 さらに少し離れた場所では、豆狸兄弟のマメとツブが朝から揉めている。


「だからその干し肉オレの!」

「兄ちゃん昨日二本食っただろ!」

「一本だ!」

「半分夜中につまみ食いしてた!」

「なんで知ってんだよ!」

「見てたから!」


「怖ぇよ!!」


 仲良しなのか何なのか分からへん。

 その時だった。


 ぽんっ。


 白い煙が弾ける。


「準備できたのー!!」


 現れたのは、白髪金眼の少女だった。長い白髪を揺らしながら、コマが得意げに胸を張る。


「どう!?」

「かわええねぇ」


 椿が素直に褒める。

 コマはぱぁっと顔を輝かせた。


「えへへ!」


 その直後。裾を踏んで転んだ。


「ぎゃっ」

「締まらへんなぁ」


 椿が吹き出す。


「これは転んだんじゃないの!」


「ほう」

「地面さんと仲良くしたの!」

「言い方変えただけやん」


 皆が笑う中、セデスだけは静かに壁へ背を預けていた。

 銀髪を揺らしながら、淡々と椿を見る。


「防衛は任せろ」

「頼もしいねぇ」

「……お前がいない間に国を潰す気はない」


 相変わらず愛想はないけれど、その声音には確かな責任感があった。

 椿は少しだけ目を細める。


「うん、お願いね」


 セデスは小さく頷いただけやった。

 その後ろでは、カザンがでかい袋を肩へ担いでいた。


「ほら」


 どさっ、と大量の干し肉が押し付けられる。


「多ない?」

「足りねぇよりマシだろ」

「なんや、ちゃんと考えてくれてるんや」

「……腹減ったって騒がれんのが面倒なだけだ」


 妖たちが一斉ににやにやする。


「照れてる!」

「うるせぇ!!」


 朝から騒がしかった。

 その空気を眺めながら、世界樹がふぉっふぉっと笑う。


「ええ朝じゃのぅ」


 東の空から、ゆっくり朝日が昇ってくる。

 金色の光が、ヤタガラス帝国を照らしていた。

 崩れた建物。修復途中の水路。まだ小さく、未完成な国。

 それでも、そこには笑い声があった。

 泣きながら逃げてきた者たちが、今は前を向いている。

 その景色を見つめながら、椿は静かに息を吐いた。


「……ほな、行こか」


 その言葉と共に、一行はヤタガラス帝国を出発した。


 森へ入る頃には、空はすっかり朝色になっていた。

 朝露を纏った葉がきらきら光り、小川のせせらぎが静かに響いている。鳥の鳴き声もどこか穏やかやった。


「平和なのー!」

 コマが両手を広げながら歩く。

「転ぶなよ」

 スクナが即座に釘を刺す。


「今日は転ばないもん!」


 ずべっ。


「ほらな」

「これは滑ったの!」

「違いある?」

「あるの!!」


 マメとツブが腹抱えて笑っていた。


 しばらく進むと、森道はだんだん険しくなっていく。木の根が地面から盛り上がり、普通に歩くだけでも足を取られそうやった。


 すると、マメが前を見ながら口を開く。


「この先、崖沿いの近道あるぞ」

「近道?」

「普通に行くより半日縮まる」


「ええやん」

「ただし」


 ツブがにやっと笑った。

「めちゃくちゃ走るけど」


 嫌な予感しかしなかった。


 ぽんっ!!


 白煙が弾ける。

 マメとツブの姿が、一瞬で変わった。


 茶色い毛並み。ふさふさの尻尾。

 小柄な獣姿の豆狸へ変化した二人は、そのまま地面を蹴る。


「先行くぞー!」

「置いてくなよー!」

「速っ!?」


 スクナが目を剥く。

 さらにその横で、コマも楽しそうに笑った。


「コマもやるの!」


 白い光が弾けた次の瞬間。

 コマの身体が、ぶわっと大きくなった。

 白銀の毛並みを揺らす巨大な神獣。背中へ朝日を浴びながら、金色の瞳がきらりと光る。


「うわ」


 スクナが思わず漏らす。


 椿は慣れた様子で、その背へひょいっと跨った。


「ほな、行こか」

「まかせるのー!!」


 どんっ!!


 コマが地面を蹴る。


「はっっっや!!?」


 スクナの絶叫が森へ響いた。


 白銀の巨体が、風みたいな速度で森を駆け抜けていく。木々の隙間を滑るように走り、枝を飛び越え、崖すら軽々飛び越えていった。


 前方では、マメとツブが獣姿のまま大爆走している。


「兄ちゃん遅ーい!」

「お前が速ぇんだよ!」

「アネキ来てるぞー!!」

「うわほんとだ速っ!!」


 コマの上で、椿がめちゃくちゃ楽しそうに笑っていた。


「風気持ちええねぇ!」

「コマ速いのー!!」


 後方。


「待っ……!!」


 スクナだけが全力疾走していた。


「お前らっ……!! 速ぇんだよぉぉぉ!!!」


 黒衣を翻しながら、死ぬ気で駆けている。


「スクナー!! がんばれー!!」

「気軽に言うなぁぁぁ!!」


 森へ絶叫が響き渡った。

 その横を、鹿がドン引きした顔で走り去っていった。


「待っ……!! ほんと待てってぇぇぇ!!」


 スクナの叫びが森へ響く。

 だが前を行く四人は止まる気ゼロだった。

 マメとツブは獣姿のまま木々を駆け抜け、コマは巨大な神獣姿で崖道を飛ぶように走っていく。

 白銀の毛並みが朝日を浴びてきらきら光っていた。


「ツバキー!! 風気持ちいいのー!!」

「ほんまやねぇ!」


 椿は完全に楽しんでいた。その後ろで、スクナだけが必死やった。

 崖沿いの道は細く、岩がごつごつしていて足場が悪い。左を見れば谷底で、落ちたら終わりやった。


「お前らっ……!! 速ぇんだよぉぉぉ!!!」

「兄ちゃんもっと飛ばせー!」

「スクナー! 遅いのー!」

「崖なんだよここぉぉぉ!!!」


 スクナの絶叫が谷へ響く。

 その時だった。


 ゴゴゴゴ……


 低い振動が地面を揺らす。

 コマの耳がぴくりと動いた直後、後方の岩壁がズドォンッ!!!と吹き飛んだ。


「うわっ!?」


 スクナが振り返る。巨大な黒い魔物が、崖を砕きながら突っ込んできていた。

 岩みたいな外殻。赤く光る目。鉤爪が岩壁へ食い込み、砕けた岩が雨のように降ってくる。


「崖喰いだ!!」


 ――グォォォォォォッッッ!!!!


 咆哮が谷を揺らした。

 崖喰いが岩ごと道をぶち壊しながら迫ってくる。

 狭い崖道に逃げ場なんかなかった。


「うぉぉぉぉぉ!!!走れぇぇぇ!!!」


 スクナが本気で地面を蹴る。

 後ろでは崖喰い。横は断崖絶壁。岩を踏みしめながら、半分泣きそうな顔で全力疾走している。


「足場悪ぃぃぃ!!!」

「スクナがんばれー!!」

「お前ら余裕あるなぁぁぁ!!!」


 コマの上から応援してくる椿とコマを見て、スクナが半ギレになる。

 その横をマメとツブが獣姿で駆け抜けていった。


「大変だな!」

「ほんとそれ!」

「お前ら後で覚えてろぉぉぉ!!!」


 ズドォンッ!!


 崖喰いの爪がすぐ後ろへ叩きつけられる。地面が砕け、スクナの踏んだ岩場が崩れた。身体がぐらりと傾く。


「スクナ!」


 だが。


「落ちるかぁぁぁ!!!」


 スクナは崩れる岩を無理やり蹴り飛ばした。

 根性で跳び、着地。そのまま全力疾走へ戻る。


「うわ、復帰早っ」

「死にたくねぇからな!!」


 その瞬間、前方の道幅が一気に広がった。

 平坦な岩場。足場のいい地面へ飛び出した瞬間、スクナの顔つきが変わった。


「――反撃じゃぁぁぁぁぁぁ!!!」


 どんっ!!


 地面を砕く勢いで踏み込み、今度はスクナが崖喰いへ向かって突っ込んだ。


「えっ!?」

「行った!?」


 黒刀が抜かれる。銀色の斬撃が、朝日を裂いた。


 ズバァァァァンッ!!!!


 崖喰いの巨体が、真っ二つになった。一拍遅れて、どごぉん!! と後方へ崩れ落ちる。


 風が谷を吹き抜けた。

 マメとツブがぽかんと口を開ける。

 コマは目をきらきらさせながら拍手した。


「スクナすごいのー!!」

「うわぁ、綺麗に斬ったねぇ」


 椿も感心したように笑う。


 その横で。


「はぁっ……はぁっ……」


 スクナはめちゃくちゃ息切れていた。膝へ手をつきながら、肩で息をしている。


「お前ら……っ、後で……覚えてろよ……」



書き溜めはありますが、暫くは様子を見ながら1日1話から2話を目安に投稿しようと思っています!


毎日20時更新です!


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