夜明けの国 ヤタガラス帝国
どうもはじめまして春と桜です。
初めての作品なのであたかかく見守って頂けたらなと思っています。よろしくお願いします。
その始まりの音が、確かに響いていた。
都の修復は、驚くほど順調に進んだ。
最初こそぎこちなかったエルフと妖たちも、数日も経てば自然と一緒に笑うようになっていた。
妖たちは細かいことを気にしない性格が多く、「腹減った!」「飯どこ!」と騒ぎながら瓦を運び、エルフたちは呆れながらも手際よく壊れた家々を直していく。
「そこ曲がってます!」
「えー? 真っ直ぐじゃね?」
「全然曲がってますぅ!!」
「細けぇなぁ!」
「家は細かくていいんです!!」
コモンの悲鳴みたいな声が、今日も都へ響いていた。
一方その頃、カザンは巨大な柱を片手で持ち上げていた。
「おら、どけー!」
「うわっ!?」
「投げんな投げんな!!」
「投げてねぇよ、置いただけだ!」
「置く勢いじゃないだろそれ!!」
地面が揺れる。
妖たちはげらげら笑い、子どもたちは「すげー!」とはしゃいでいた。
椿は、少し離れた場所からその光景を眺める。
争っていたはずの者たちが、今は同じ屋根を直している。
泣いていた子どもたちが、妖の肩車で笑っている。
「……ええ景色やねぇ」
「アネキ、顔ゆるんでるぞ」
「そら緩むやろ」
椿が笑う横で、スクナは木箱を肩へ担ぎ直した。
都が落ち着き始めると、自然と役割分担も始まった。
世界樹が「国いうもんは、飯と金と力が回らんと潰れる」と言ったからや。
まず、食料調達部門。
妖たちの足の速さと、エルフたちの森の知識を活かし、狩猟と畑の整備が進められた。
水路には魚が戻り、世界樹の根元では薬草栽培まで始まっている。
防衛部門は、カザンとセデスが中心になった。
「オレは細かいこと分かんねぇけど、敵来たらぶっ飛ばしゃいいんだろ?」
「脳筋すぎますよぉ……」
「でも強いから助かる」
「否定しろよ!?」
カザンの周囲には、いつの間にか妖たちが集まっていた。
喧嘩っ早い者も多いが、そのぶん仲間意識も強い。
セデスは冷静に結界や見張りを整え、都の守りを固めていった。
そして、最も重要なのが資金調達部門やった。
「国作るんやったら、お金は絶対必要や」
椿がそう言うと、全員が真顔で頷いた。
「飯も武器も薬も、綺麗事だけじゃ手に入らんからねぇ」
「急に現実的だな」
「現実は大事やよ?」
世界樹の根元へ広げられた古地図を前に、椿たちは頭を突き合わせる。
地図によると、この都は大陸の東側に位置していた。
さらに南へ下った先には、巨大な水の国があるらしい。
その名は、ダンジョン国家ポンパドゥール。
世界有数の迷宮国家。
無数の冒険者と商人が集まり、ダンジョン資源によって莫大な富を築いている場所やった。
「ダンジョン産の魔石、素材、遺物……全部高値で売れるらしいぞ」
説明しているのは、豆狸兄弟の兄、マメだった。
小柄な体に茶色の髪。タレ目がずる賢そうに笑っている。
隣にはそっくりな弟、ツブ。
「オレたち、たまに人間に化けて街行ってたし」
「兄ちゃんがぼったくられてたけどな」
「お前それ今言う!?」
「だって事実だし」
息ぴったりなのか喧嘩してるのか分からない。
だが、この兄弟は人間社会にやたら詳しかった。
「ポンパドゥールは水路だらけの商業国家だ。強ぇ冒険者が多いし、金も動く。でもそのぶん、人間至上主義もかなり強い」
マメが真顔になる。
「人外だけで行ったら、多分狩られる」
空気が少し重くなる。
「奴隷商人も多いからな」
ツブがぽつりと呟いた。
スクナの目が、僅かに細くなる。
失った耳と尾を思い出したのかもしれへん。
「だから、人間である椿が必要なんだよ」
マメが椿を見る。
「交渉も、街への出入りも、全部だ」
椿は小さく息を吐いた。
「ほな、決まりやね」
「うちと、スクナと、コマ」
「あと、お前ら兄弟」
「えっ、オレたち!?」
「嫌なん?」
「行く!!」
即答やった。
ツブが得意げに胸を張る。
「人間化けなら任せろよ!」
次の瞬間、ぽんっと煙が弾ける。
現れたのは、茶髪の人間の少年二人やった。
「どう?」
「完璧だろ?」
「なんか腹立つくらい自然やねぇ」
「褒めてる!?」
コモンが心配そうに椿を見る。
「だ、大丈夫なんですか……?」
「大丈夫やない?」
「疑問形!?」
スクナが呆れたように頭を掻いた。
「まあ、俺はついてくし」
コマもぶんぶん頷く。
「コマも守るの!」
「頼もしいねぇ」
その時、世界樹が静かに枝を揺らした。
「国の名は決めたんかの?」
その言葉に、皆が顔を見合わせる。
確かに、この都にはまだ名前がなかった。
居場所はできた。仲間も増えた。
せやけど、国としての名がまだない。
静かな湖へ、朝日が差し込んでいた。
東の空を、白銀の光が染めていく。
まるで、長かった夜が終わるみたいやった。
椿は、その景色を静かに見つめる。
やがて、小さく呟いた。
「……八咫烏帝国」
聞きなれない言葉に皆がきょとんとする。
「ヤタガラス帝国、や」
椿はゆっくり振り返った。
「八咫烏いうんは、うちの国の神話に出てくる導きの神さんやねん」
「太陽の化身とも言われとってな。夜の中で迷うた人を、朝へ導く存在なんよ」
朝日が、湖面できらきら揺れる。
その光は、都そのものを照らしているみたいやった。
「昔、神武天皇いう王様が、戦に敗れて道を見失った時があったんや」
「その時、八咫烏が現れて、進むべき道を示した」
椿は、エルフたちを見る。
妖たちを見る。
子どもたちを見る。
「うちらも、似たようなもんやろ?」
「居場所を奪われて、追い出されて、どこへ行ったらええか分からんようになって」
「ずっと、夜みたいな時代を生きてきた」
静かな空気が落ちる。
「せやけど」
椿の声が、少しだけ強くなる。
「もう終わりにしたいんよ」
「奪われる側でおるんも、しゃあないって諦めるんも」
その言葉に、妖たちの目が揺れた。
エルフたちも、静かに息を呑む。
「ヤタガラス帝国は、ただ守るだけの国やない」
「奪われた側が、もう一回立ち上がるための国や」
風が吹く。
朝日が、椿の背を照らしていた。
「夜を終わらせる国」
「泣き寝入りしてきた者が、ちゃんと胸張って生きられる国」
「人間至上主義の世の中に、それだけが正しいわけやないって突きつける国」
静かな熱が、その場へ広がっていく。
その時だった。
コマが、ぱぁっと顔を輝かせる。
「八咫烏知ってるの!」
「ん?」
「お友達だったの!」
「………。」
「またまたぁ」
カザンがにやにや笑う。
「お前、絶対適当言ってるだろ」
「ほんとなの!!」
「はいはい」
「ほんとだってばー!!」
コマがじたばた暴れる。
スクナは呆れた顔でため息を吐いた。
「どんな交友関係してんだお前……」
世界樹だけが、ふぉっふぉっと笑っていた。
「懐かしいのぅ」
「えっ」
椿が振り向く。
世界樹は、楽しそうに枝葉を揺らす。
「昔はよう、この辺りまで遊びに来ておったわい。太陽みたいに騒がしい鳥じゃった」
一瞬、空気が止まった。
「……マジ?」
「ほんとなの!?」
コマがどや顔になる。
「コマのお友達なのー!」
「いや待て待て待て」
カザンが頭を抱えた。
「神話の存在と友達!?」
「お前ほんと何者なんだよ!」
「コマなの!」
「答えになってねぇ!!」
笑い声が、一気に広がる。
朝日が、都を照らしていた。
崩れていた街に、今はちゃんと生きている音がある。
こうして。
夜明けの国、ヤタガラス帝国は産声を上げた。
そして数日後。
椿たちは、資金と物資を得るため、ダンジョン国家ポンパドゥールへ向かうことになる。
その旅が、やがて世界を大きく変えていくことを。
この時の彼らは、まだ知らなかった。
書き溜めはありますが、暫くは様子を見ながら1日1話から2話を目安に投稿しようと思っています!
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