酒呑童子の子孫 その名はカザン
どうもはじめまして春と桜です。
初めての作品なのであたかかく見守って頂けたらなと思っています。よろしくお願いします。
影はこちらを見ていた。赤い眼が、ぎらりと細まる。次の瞬間、ドゴォンッ!! と爆音が響いた。瓦が弾け、黒い影が一気にこちらへ飛んできた。
スクナが反射的に前へ出て、コモンが「ひぃっ!?」と情けない声を漏らした。
だが、影は途中でぴたりと止まった。
石畳へ着地した衝撃で、水たまりがばしゃりと跳ねた。長い赤黒の髪。額から伸びる二本角。
肩へ担がれた巨大な金棒。着崩した和装から覗く腕には、無数の古傷が走っている。
男は数秒黙ったまま、じっと椿を見ていた。
「おっきいお兄ちゃんなの」
「絶対違ぇだろ」
コマの呑気な声へ、スクナが即座に返す。男は気だるそうに頭を掻いた。
「……あー、頭いてぇ」
「誰だよ昨日あんな飲ませたやつ」
「お前だよ!!」
屋根の上から、狐面の子どもが叫ぶ。男は眠そうにそちらを見上げた。
「マジか」
「マジだよ!!」
「覚えてねぇ」
全然反省していなかった。コモンが青ざめた顔で、小声になる。
「え、あれが……?」
「寝起き最悪のやつ」
狐面の子どもが真顔で頷く。
男はそんな周囲を気にも留めず、また椿を見た。
スクナの眉間の皺が深くなった。
「……お前、人間か?」
「一応、そうやねぇ」
「ふぅん」
興味なさそうに返したくせに、視線だけは外さない。スクナがすっと椿の前へ出た。
「近ぇんだよ」
「なんだ兄ちゃん」
「喧嘩売ってんのか?」
「そっち次第だ」
空気がぴりっと張る。だが次の瞬間、ぐぅぅぅぅ……と盛大な腹の音が響いた。沈黙。コマが目を輝かせる。
「またお腹すいてるの!」
「うるせぇ!!」
男が顔をしかめる。狐面の子どもは屋根の上で腹を抱えて転げ回った。
「はははっ!! カザンまた腹減ってんじゃん!!」
「黙れ豆狸」
「誰が豆狸だ!!」
スクナが眉を寄せる。
「……カザン?」
男は金棒を肩へ担ぎ直した。
「酒呑童子の子孫、カザン。この都のガキ大将みたいなもんだ」
「自分で言うんや」
椿がくすりと笑う。その瞬間、カザンの目がすっと細まった。獣みたいな目だった。
「……あー、やっぱお前いいな」
「顔もそうだけど、なんかおもしれぇ」
スクナが無言で椿を後ろへ引っ張る。カザンはそれを見て、にやっと獰猛に笑った。
「決めた」
「お前、オレの嫁にならねぇ?」
「嫌です」
即答だった。
コモンがぶふっと吹き出し、狐面の子どもが「ぎゃはははっ!!」と屋根の上で転げ回る。カザンは「は?」みたいな顔で固まっていた。スクナだけが真顔で頷く。
「だめだ」
「兄ちゃん怖ぇな!?」
カザンは数秒、椿を見たまま止まっていた。
だが次の瞬間、にやっと獰猛に笑う。
獣みたいな犬歯が覗いた。
「……やっぱお前、おもしれぇな」
「褒め言葉として受け取っときます」
「で?」
カザンが金棒を肩へ担ぎ直す。
視線が、すっとスクナへ流れた。
「そこの兄ちゃんは?」
「……何だよ」
「お前、そこそこ強ぇだろ」
空気が変わり、さっきまでふざけていたカザンの目が、急に鋭く細まった。
スクナも自然と黒刀へ手を添える。
「だったら?」
「ちょっと付き合えよ」
ドォンッ!!
石畳が爆ぜる。カザンが地面を蹴り、一瞬で距離を詰めていた。
「っ!」
ガギィィンッ!!
黒刀と金棒がぶつかる。
凄まじい衝撃で周囲の水たまりが吹き飛んだ。コモンが「ひぃぃっ!?」と飛び上がる。
「ちょ、ちょっと!? いきなり何してるんですかぁ!?」
「挨拶だろ!」
「違ぇよ!!」
スクナが歯を食いしばる。
重いが、押し負けるほどじゃない。
カザンの目が嬉しそうに細まった。
「おっ、いいじゃん!!」
「気安く殴ってくんな!!」
金棒が横薙ぎに振られる。
スクナは後ろへ飛んで避け、そのまま一気に踏み込んだ。
ギィンッ!!
今度は黒刀がカザンの金棒を弾く。
火花が散った。カザンが「うおっ」と笑う。
「速ぇな兄ちゃん!」
「うるせぇ!」
二人が石畳を蹴るたび、都が揺れる。瓦が跳ね、水面が波打つ。だが、不思議と殺気は薄かった。喧嘩というより、力比べに近い。
コマが目をきらきらさせる。
「すごいの!!」
「いや止めてください誰か!!」
コモンだけが半泣きだった。
カザンは笑いながら金棒を振り下ろす。
スクナはそれを流し、逆に肩へ蹴りを叩き込んだ。
ドゴッ!!
「っはは!! いいの入った!」
「笑ってる場合かよ!」
「楽しくなってきた!!」
完全に戦闘狂だった。
その時。スクナの黒刀が、カザンの金棒を弾き飛ばす。
「あ」
金棒がくるくる回りながら湖へ落ちた。
ぼちゃん。
カザンが固まる。
コマがぱちぱち瞬きした。
「落ちたの」
「落ちたな」
豆狸が屋根の上で腹を抱える。
「ぎゃはははは!! ダッサ!!」
「うるせぇ!!」
カザンが顔を真っ赤にする。スクナは思わず吹き出した。
「……ぶっ」
「お前今笑っただろ!!」
「いや、お前が間抜けすぎて……」
「クソ!!」
だが、その瞬間だった。カザンもつられたみたいに笑い出す。
「っはははは!!」
豪快な笑い声が、都じゅうへ響いた。
スクナは一瞬きょとんとしたあと、呆れたみたいに息を吐く。
「……何なんだお前」
「知らねぇ!」
「でも嫌いじゃねぇわ兄ちゃん!」
「勝手に決めんな」
そう言いながらも、スクナの口元も少しだけ緩んでいた。
書き溜めはありますが、暫くは様子を見ながら1日1話から2話を目安に投稿しようと思っています!
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