水球の都
どうもはじめまして春と桜です。
初めての作品なのであたかかく見守って頂けたらなと思っています。よろしくお願いします。
白銀の光が弾けた次の瞬間、足元から感覚が抜けた。視界が白く滲み、身体がふわりと浮く。
耳鳴りみたいな音が遠くで響き、次の瞬間には、冷たい石の感触が足裏へ戻っていた。
青白い鉱石がぼんやりと辺りを照らし、天井からは巨大な木の根が幾重にも垂れ下がっている。
蔦は壁一面を覆っていた。
エルフたちが周囲を見回し、不安そうに息を呑む。
「……どこだ、ここ」
「地下……?」
マフィが震えながら戦士長の背に隠れた。
「空気が変です……」
コマが椿の袖をぎゅっと掴む。
「ツバキ、なんか静かなの」
椿はゆっくり辺りを見渡した。
その周囲には、いつものように小さな光が漂っている。
蝶のように揺れる精霊たちが、ふわふわと椿の髪や肩の周りを飛び回っていた。
コマが嬉しそうに指を伸ばす。
「いっぱいなの!」
「この子ら、勝手についてきはったんよ」
スクナが精霊を避けるみたいに顔をしかめた。
「近ぇ近ぇ。なんで俺の顔の周り飛ぶんだよ」
一匹の精霊が、ぺち、とスクナの額へ体当たりする。
「ぶふっ」
「……今、笑ったか?」
「笑ってへんよ?」
「絶対笑っただろ」
椿が肩を揺らす横で、里長が前方を見つめたまま小さく息を呑んだ。
「……階段があります」
巨大だった。果てが見えないほど長い石階段。
崩れかけているのに、今でも圧倒されるほど大きい。人ではなく、もっと巨大な存在のために作られたようだった。
里長は静かに目を伏せる。
「古文書には……水没した古代都についての記述がありました」
「水没?」
マフィが目を丸くする。
「はい。何千年も前、大災害で都ごと消えたと…てっきりおとぎ話の類だとばかり」
スクナが鼻を鳴らした。
「水没してないことを祈るしかねぇな」
長い階段だった。登っても登っても終わらない。
子どもたちは途中で眠ってしまい、大人たちが交代で抱きかかえている。
空気は少しずつ変わっていった。湿った地下の匂いが薄れ、代わりに澄んだ風が頬を撫で始める。
やがて、最後の段を登り切った瞬間。
「――……っ」
視界が一気に開け、誰もが息を呑んだ。
そこには、都全体を覆う大きな水球があった。
どこまで続いているのか分からないほど広く、ただ静かにそこにある。
中は見えずらいがその中央には、天へ届くほど巨大な灰色の樹が立っているのが確認できた。
葉は一枚もない。朽ちているはずなのに、圧倒的な存在感だけがそこにあった。
「……世界樹」
里長が呆然と呟いた。
コマが水壁へぺたりと張りつく。
「ツバキ、これどうやって入るの?」
「泳ぐんやない?」
スクナが即座に顔をしかめた。
「嫌だぞ俺」
「なんでや」
「なんでって見ろよこれ」
スクナが水の奥を指差す。ぬるり、と巨大な影がゆっくり横切った。ぼやけていて姿は見えない。けれど、明らかに大きい。
「絶対なんかいるだろ」
「おっきぃの!」
「お前ちょっと楽しそうだな!?」
コマが水へ向かってぶんぶん手を振る。
「おーいなのー!」
「やめろ!! 呼ぶな!!」
その瞬間ギョロリ、と巨大な目のようなものが、水の奥でこちらを向いた。
「うわ見た!!」
「めがあったの!」
「こっち来ねぇよな……?」
コマはけらけら笑い、スクナは本気で嫌そうな顔をしていた。椿はその様子を見ながら肩を揺らす。
「ふふっ……」
「笑ってる場合ちゃうやろ!」
マフィが恐る恐る口を開いた。
「……というか、どうやって街まで行くんですか?」
しん、と空気が止まり誰も答えない。
戦士長がゆっくり里長を見る。里長がさっと目を逸らした。
「……まさかとは思うが」
「…………」
「考えてなかったのか?」
「文献には導かれる者のみ道を得るとしか書いてなくてですね……!」
「ふわっとしすぎだろ!!」
「私も初めて来たんですぅ!!」
半泣きの里長を見て、椿がくすりと笑う。
「里長って、もうちょい落ち着いた生き物か思てました」
「私だって威厳は保ちたい、プライドもある。でも!!怖いものは怖いんです!」
その時だった。ふわり、と。
椿の周囲を漂っていた精霊のひとつが、水面へ近づいていく。
「あれ」
椿が目を細める。
白い小さな光が、そっと水へ触れた。
ゴォォォォ……――
空間そのものが、低く震えた次の瞬間、巨大な水が左右へ割れ始めた
「っ!?」
轟音を立てながら、水が空へ押し退けられていく。まるで見えない壁が海を割っているようだ。
しばらくして轟音がおさまると、一本の道が現れた。
世界樹まで真っ直ぐ続く一本道。左右には空より高い水の壁。魚みたいな巨大な影が、ゆらゆらと頭上を泳いでいた。
コマが目をきらきらさせた。
「ツバキすごいの!! 海割れてるの!」
「うちちゃうよ。この子らや」
精霊たちは椿の周囲を楽しそうにくるくる回っている。スクナが水壁を見上げ、顔を引きつらせた。
「……落ちてこねぇよな?」
その瞬間、水の向こうで巨大な影がぬるりと動いた。
「うわまたいた」
「近ない?」
「絶対こっち見てるの!」
「やっぱ呼んだからだろ!!」
コマがきゃっきゃ笑う横で、スクナは真顔だった。
「帰りてぇ……」
「今さらやねぇ」
里長はしばらくその道を見つめたあと、静かに振り返る。
「……ツバキ殿」
「ん?」
「おそらく、この都は貴女を拒絶していません」
その視線が、道の先へ向いた。
「ですが、全員で進むのは危険です。何があるか分からない」
戦士長が頷く。
「なら俺が行く」
「いいえ」
里長は静かに首を振った。
「戦士長、貴方は皆を守ってください。子どもたちも、避難民もいる」
「……だが」
「もし何か起きた時、貴方が必要です」
戦士長はしばらく黙り込み、それから重く息を吐いた。
「……分かった」
里長は今度は椿を見る。
「ツバキ殿。スクナ殿、コマ様。どうか、私と共に来ていただけませんか」
スクナが肩を竦めた。
「最初から行くつもりだ」
コマもぶんぶん頷く。
「コマも行くの!」
椿は、くすりと笑った。
途中、崩れた塔の中から巨大な魚がこちらを見ていて、コマが「わぁ」と手を振り、スクナが「やめろ寄ってくる」と真顔で引き剥がしたりしながら、一行はゆっくり進んでいく。
どれほど歩いただろうか。
ようやく巨大な枯れ木の目前まで辿り着いた時だった。
「……っ」
スクナが足を止める。
その周囲。
大樹をぐるりと囲むように、巨大な穴が空いていた。
底が見えない。
闇だけが広がっている。
「なんだ、これ……」
コマが椿へぴたりとくっつく。
その時水が動いた。
左右の水壁から細い水流が伸び、ゆっくり空中で形を作り始める。
やがて現れたのは透明な長い水の橋。
揺れているのに崩れない。
スクナが眉をひそめる。
「……これ渡れんのか?」
里長が恐る恐る言う。
「た、たぶん……?」
「たぶんで来たの!?」
コマが叫ぶ。
「落ちたらどうするの!」
「いや、私も初めて来たので……!」
椿が肩を震わせた。
「ふふっ……」
「笑い事じゃねぇぞ」
スクナは黒刀へ手を添え、一歩前へ出る。
「……ま、先行く」
水の橋へ足を乗せる。
ぷる、と少し揺れた。
「うわ、嫌な感触」
「スクナがんばれなのー!」
「応援が軽い」
ぶつぶつ言いながらも、スクナはそのまま橋を渡り始めた。
巨大な枯れ木は、静かに彼らを見下ろしていた。
1話から改稿中です!良ければそちらもご覧ください!
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読んでくださっているみなさんに寄り添いながら進めて行きたいと思っています!
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