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暁の女帝〜狛犬と異世界革命〜  作者: 春と桜
第二章 エルフの里編

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椿の決意

どうもはじめまして春と桜です。

初めての作品なのであたかかく見守って頂けたらなと思っています。よろしくお願いします。

 

 低く吐き捨てる声と同時に、スクナが黒刀を握り直す。金色の瞳が空を埋め尽くす黒い隕石群を睨み上げ、その口元が獰猛に歪んだ。


「ツバキも、コマも、この里も…誰にも踏み潰させねぇよ」


 次の瞬間、轟音と共に地面が爆ぜた。


 スクナの姿が掻き消え、黒い斬撃が夜空へ駆け上がる。振り抜かれた黒刀が巨大な隕石をまとめて叩き斬り、砕け散った破片が炎を撒き散らしながら森へ降り注いだ。


 爆炎が空を赤く染める。

 だが、それでも止まらない。

 空を覆うほどの黒い隕石群が、なおも里へ迫ってくる。


「まだ来るぞ……!!」


「駄目だ、数が多すぎる……!」


 エルフたちの顔から血の気が引いていく。

 子どもを抱き締める母親。

 震えながら弓を構える若い戦士。

 足を怪我しているのに、それでも前へ出ようとする老人。


 怖いはずだった。


 それでも、誰ひとり逃げなかった。

 戦士長が叫ぶ。


「最後まで諦めるな!! 子どもたちを守れ!!」


 その声に、傷だらけのエルフたちが歯を食いしばりながら前へ出る。

 椿は、その光景を静かに見つめていた。


 焼け焦げた森。

 血の匂い。

 泣き声。

 苦しそうな呻き声。


 それなのに立ち上がろうとする人たち。


 その姿が、胸の奥へじわじわと沈んでいく。

 そして、ふいに視線を落とせば、隣にはコマがいた。

 白銀の髪を雨に濡らし、小さな肩を震わせながら、それでも必死に立っている。

 今にも倒れそうなのに、椿の袖だけは離そうとしない。


「コマ、もう無茶せんでええ」


 椿が静かに言った。


「やなの……」


「ツバキが守りたいって思ったなら、コマも守るの。ツバキが悲しい顔するの、コマきらいなの」


 その言葉に、椿の目がわずかに揺れる。


 空ではなおも轟音が響いていた。

 スクナが隕石を斬り裂くたび爆炎が咲き、砕けた黒い塵が雪みたいに舞い落ちてくる。

 それでも空は埋まり続ける。


「…チッ……キリがねぇ!!」


 血を大量に流していたがそれでも止まらない。

 傷だらけになりながら、なお牙を剥き続ける。


 その背中を見た瞬間だった。

 椿の胸の奥で、何かが静かに変わった音がした。


 助けられてばかりだった。

 守られてばかりだった。

 コマにもスクナにもこの里の人みんなにも。

 みんな、自分より傷つきながら、それでも誰かを守ろうとしている。


 だったら。


 自分は、どうしたい。


 椿はゆっくり空を見上げる。

 黒く燃える隕石。

 泣き叫ぶ子どもたち、怯えながら武器を握るエルフたち。

 理不尽に踏み躙られて、それでも生きようとしている命。


 この世界には、あまりにもそういうものが多すぎた。


 獣人だから、亜人だから、弱いから。

 そんな理由だけで奪われ、傷つけられ、捨てられていく。


 椿は静かに月詠を構える。

 白銀の弓が淡く輝き始め、空気がゆっくり震えた。


「……もう、堪忍してほしいわ」


 ぽつりと零れた声は、雨音の中へ静かに溶けていく。

 けれど、その瞳だけは燃えるみたいに真っ直ぐだった。


「泣きながら諦めるしかない子も、自分の居場所を奪われてしもた子も……そんな光景ばっかり、もう見てられへんの」


 白銀の光が椿の周囲へ集まり始める。

 精霊たちの魔力。

 コマの神聖な力。

 月詠の光。

 すべてが椿へ応えるみたいに流れ込んでいく。


 エルフたちが息を呑んだ。

 みなが椿を見つめている。


 椿はゆっくり矢を引き絞った。


「私は守りたい」


 その瞬間、空気が震えた。


「……私、コマ大好きやし、スクナも、エルフのみんなも大好きなんよ。優しい子ばっかりやのに、なんで傷つかなあかんの」


 白銀の光が夜空を染め上げていく。


「人間じゃないからって奪われたり、傷つけられたり…そんなこと……もう好き勝手にはさせへん」


 放たれた矢が、空を裂いた直後。

 夜空そのものが砕けたような轟音が響く。

 白銀の光が隕石群を呑み込み、黒い炎も魔力もまとめて吹き飛ばしていく。


 轟轟と爆ぜる衝撃で森が揺れ、白銀の塵が雪みたいに空から降り注いだ。

 誰も声を出せない。

 ただ呆然と、その光景を見上げていた。



 絶望を塗り潰すみたいに、白銀の光が夜空を埋め尽くしていく。

 やがて最後の隕石が砕け散り、静寂だけが残った。

 ひらひらと降る白銀の塵が、焼けた森を優しく包み込んでいく。


 魔導士が、崩れ落ちながら空を見上げる。


「そんな……馬鹿な……」


 血を吐きながら、それでも信じられないものを見る目で椿を睨みつける。


「なぜ……なぜだ。お前も人間だろ!!」


 椿は静かに歩み寄る。

 雨に濡れた着物の裾を揺らしながら、その男を見下ろした。


「人やからやよ」


 静かな声だった。だがその奥には確かな怒りがある。


「傷ついても、泣いても、それでも前を向いて生きようとしてる人たちを……私は見てしもたから」


 月詠が白銀に輝く。


「それを見なかったことにして、知らん顔して生きていくなんて……そんな寂しいこと、私にはできひん」


 魔導士の顔が悔しげに歪む。

 伸ばしかけた手が、力なく地面へ落ちた。

 椿は静かに目を伏せる。



「……次は、生まれる場所を間違えへんことやね」



 白銀の刃が、一閃した。

 魔導士の身体がゆっくり崩れ落ち、そのまま動かなくなる。

 静まり返った森の中、白銀の雨だけが優しく降り続いていた。

書き溜めはありますが、暫くは様子を見ながら1日1話から2話を目安に投稿しようと思っています!


毎日20時更新です!


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