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いずれ最強の女、白い狛犬と獣人たちの味方をしていたら世界に喧嘩を売ることになりました  作者: 春と桜
第一章

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銀貨八枚の価値

どうもはじめまして春と桜です。

初めての作品なのであたかかく見守って頂けたらなと思っています。よろしくお願いします。


森を抜けた先にあったのは、小規模ながら整えられた街だった。


石畳は均され、建物の外壁も手入れが行き届いていて、人の手がしっかり入っている、そんな印象だった。


けれど——


人の気配だけが、どこか歪だった。


行き交う人々はいる。だが、誰も笑っていない。視線は交わらず、足早にすれ違うだけ。声も少ない。どこか、息を潜めるような空気。


街の入口には簡素な門と、見張りの男が二人。


椿が近づくと、そのうちの一人が一瞬だけ顔を上げた。


視線が止まる。


黒髪、白い肌、整った顔立ち。見慣れぬ装束。


そして、その隣にいる白い獣。


男はわずかに眉を動かしたが——すぐに目を逸らした。


関わるべきではない。


そう判断したのが分かる。


もう一人も同じだった。


声をかけることも、止めることもない。


ただ見なかったことにするように、椿を通した。


椿は足を止めず、そのまま街へ踏み入る。


「……よう整った街やこと」


やわらかい声音。褒めているようで、その実は薄い。


視線が集まる。


目を引くのは、姿かたちだけやない。


立ち方、視線、纏う空気そのものが、この場の人間とは違っていた。


だが、その視線に含まれているのは好奇心ではない。


値踏み。


椿はそれを一瞬で見抜く。


「……あまり、お行儀のええ見方やないね」


小さく零すが、表情は崩さない。


隣を歩くコマにも、当然視線が集まっていた。


白い毛並みは目立ちすぎる。足を止めて見る者もいる。その目は、珍しさではなく——欲。


椿はふと、先ほどの男たちの言葉を思い出す。


——白い個体ほど高く売れる。


「……なるほど」


小さく、納得するように呟いた。


その中に、別の気配が混じった。


金属が擦れる音。


ゆっくりと引かれる足音。


椿の視線が、そちらへ流れる。


——鎖。


首に巻かれた鉄輪。そこから伸びる鎖の先にいたのは、一人の獣人だった。


人の形をしている。


だが、耳と尾がある。


整った顔立ち。だが頬はこけ、肌は荒れている。服は粗末で、体にはいくつもの傷が残っていた。


美しいはずの造りが、扱いの粗さで台無しになっている。


男は俯いたまま歩かされている。


鎖を引いているのは、人間の男。


無造作に引く。


体勢が崩れる。


それでも止まることは許されない。


周囲の人間は、それを見ても何も言わない。


ただ、当たり前のように通り過ぎていく。


椿の足が、ほんのわずかに止まる。


一瞬。


それだけ。


次の瞬間には、何事もなかったかのように歩き出していた。


だが。


その瞳だけが、静かに冷えていた。



少し進むと、空気が変わる。


整った石畳。行き交う人々。露店の並び。どれも一見すれば穏やかで、どこにでもある街の風景。


整っているようで歪んでいる。


椿はゆっくりと視線を巡らせる。


道の端に、膝をついたまま動かない獣人。首には鎖。繋がれた先では、何食わぬ顔で男たちが談笑している。


別の場所では、痩せた獣人が荷を運ばされている。


誰も気に留めない。


「……そういうことやね」


小さく呟く。


コマが低く唸る。


椿はその頭を軽く撫でた。


「分かってる。うちも、同じ気分や」


そのまま歩を進める。


視線が集まる。


値踏みするような目。欲を隠そうともしない目。関わらないように逸らされる目。


椿はただ静かに歩く。


やがて、人だかりが見えた。


乾いた音が響く。


「立てよ、この役立たずが!!」


鞭が振り下ろされる。


人垣の隙間から見えたのは、一人の獣人であろう男。


耳も尾もなく姿はほとんど人と変わらない。整った顔立ち。左腕は肘から先がなく、片目も潰れている。


それでも、倒れたまま顔を上げていた。


「逃がしただと?俺の商品を……!」


男の怒声が飛ぶ。


「商品に手ぇ出して、ただの奴隷が何様のつもりだ!!言え!!どこへ逃した!!」


蹴りが入る。


身体が転がる。


それでも、男は何も言わない。


ただ、歯を食いしばっている。


「いい根性してるじゃねえか。じゃあ見せしめだ!!」


剣が抜かれる。


鈍く光る刃が、ゆっくりと持ち上がる。


周囲がざわめく。


誰も止めない。


歓声まで聞こえた。


そのまま振り下ろされようとした、その瞬間。


「……えらい賑やかやこと」


空気が静まり返った。


刃が止まる。

場違いなその発言に男が振り返る。



「なんだお前」


椿はにこりと微笑んだ。


「少し、目に入ってしもたもので」


視線を獣人へ落とす。


「その方、売り物でいらっしゃるの?」



男の顔に、にやりとした笑みが浮かぶ。


「お、なんだ。買う気か?」


「ええ、まあ」


椿は首を傾げる。


「ただ、その扱いでは価値も下がってしまいますやろ」


周囲がざわつく。


男の眉がひくりと動く。


「……何様だ?」


微笑みはそのままに椿はゆっくりと視線を上げる。


「名乗るほどのものでもありませんけど」


一拍置いて


「遠い国の者、とだけ」


言葉は柔らかかった。けれど、含みは重い。


男の目が細くなる。


「……で、いくら出す」


椿は袋を軽く持ち上げた。


「適正なお値段で、お願いしたいところやけど」


商人に一歩近づき

声を少し落とした。


「……あまり無茶を言わはると、うちも困りますの」


「国の名前、出してしもてもよろしいの?」


空気が張り詰める。


ハッタリも良いところだが、男は気付かない。


男が舌打ちする。


「……ちっ、分かったよ。持ってけ」


「銀貨八枚だ」


椿は即座に数えて投げた。


「おおきに」


鎖が外された獣人の男はその場に崩れ落ちた。


椿は迷いなくしゃがみ視線を合わせる。


「……動ける?」

獣人は何も言わない。


ただ、椿を睨む。


警戒と敵意が混じった目。


椿は少しだけ困ったように笑う。


「そんな目ぇで見んでも、取って食いやしませんよ」


一瞬の沈黙。

やがて、低く掠れた声が返る。


「……なんのつもりだ」


「気まぐれ、やろか」


軽く言って立ち上がる。


「ほら、行きますよ」


背を向ける。


信じるかどうかは任せる、そんな歩き方だった。


数秒遅れて、足音がひとつ増えた。


椿は振り返らない。

ただ、ほんのわずかに口元を緩めた。



次回は感動回…になる予定!

24日20:00に出します!お楽しみに!


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