魔物との遭遇
どうもはじめまして春と桜です。
初めての作品なのであたかかく見守って頂けたらなと思っています。よろしくお願いします。
森は、静かではなかった。
木々の隙間を吹き抜ける風の音。枝を踏む気配。遠くで響く獣の唸り声。森全体が、生き物の気配で満ちている。木漏れ日は差しているのに薄暗く、空気はじっとり重たい。まるで森そのものが、余所者を警戒しているみたいやった。
椿は歩みを止めない。
草を踏む音さえ静かだった。呼吸を落とし、重心を低く保つ。いつ何が飛び出してきても動けるように。隣ではコマもぴたりと歩幅を合わせ、白い毛並みを淡く揺らしている。
「……歓迎はされてへんみたいやねぇ」
「わふ」
小さく返事するみたいにコマが鳴いた、その時だった。
ガサッ――!!
右手の茂みが大きく揺れ、黒い影が飛び出した。
灰色の皮膚。異様に長い腕。裂けた口から濁った唾液を垂らした、人型の魔物。獣臭い息が生温く広がる。
椿はそれを見て、ほんの少し眉を寄せた。
「……まあ。ずいぶん不細工なお顔やこと」
「ギィィァァァッ!!」
奇声と共に魔物が飛びかかる。
だが椿は半歩ずれただけだった。
爪が鼻先を掠め、空を切る。その瞬間、椿の指先が魔物の腕へ触れた。力の向きを逸らされ、巨体が大きく前へ泳ぐ。
無防備になった喉元へ、短剣が深々と沈んだ。
ぶしゅ、と黒い血が飛び散り、椿は返り血を避けるように一歩下がった。
「血まで汚いんやねぇ。難儀な生き物やこと」
ギィッ!!
頭上で枝が軋む。
さらに二体。
「上や」
その声と同時、コマが地面を蹴った。
「ガゥッ!!」
白い影が宙を裂く。真正面から魔物へ食らいつき、そのまま喉笛を噛み千切った。鮮血が舞い、重たい身体が地面へ落ちる。
もう一体が椿へ迫った。
腐臭。唸り声。振り下ろされる腕。
椿は下がらない。
むしろ前へ踏み込んだ。
腰を落とし、身体を捻る。爪が着物の袖を紙一重で掠めた。そのまま懐へ滑り込み、短剣が閃く。
脇腹。
喉。
返す刃で、最後に目を裂いた。
「ギャアァァァッ!!」
絶叫しながら魔物が暴れる。
椿は静かに距離を取った。
「山ん中で大声出したら、ご近所迷惑やよ」
魔物は血を撒き散らしながら崩れ落ち、そのまま動かなくなった。
風は鳴り続けている。遠くで獣が吠え、葉がざわめき、森は絶えず音を孕んでいた。まるで次の獲物を待っているみたいに。
椿は短く息を吐く。
「……ほんま、次から次やねぇ。休ませる気ぃ、まるであらへん」
「ぐるる……」
低く唸りながらコマが戻ってくる。白い毛並みには、ほとんど血がついていなかった。
椿はその姿を見て、ほんの少しだけ目を細める。
「近いのは任せても良さそうやね。うちより躊躇いあらへんやないの」
「わふっ!」
得意げに胸を張るコマへ、椿はくすりと笑った。
「頼もしいこと。そない得意げな顔されたら、甘やかしてまうわ」
その後も、森は牙を剥き続けた。
左から気配。
椿は反射みたいに身体を沈める。頭上を何かが掠めた瞬間、コマが白い影になって駆けた。
「ガゥッ!!」
ギャンッ!?
木陰へ潜んでいた小型の魔物が、喉を裂かれて転がる。
だが終わらない。今度は前方から来た。
低い唸り声と共に、四足の獣型が飛び出してきた。毛の抜け落ちた黒い身体。異様に長い牙。腐った肉みたいな臭い。
三体。
椿は静かに矢を抜く。
動作は、呼吸みたいに自然だった。
弦が鳴る。
一射。
最前の一体、その目を貫いた。
「ギャッ!?」
倒れるより先に二射目。
黒い血が噴き出す。
残る一体が距離を詰めた。
椿は弓を捨てない。
そのまま前へ踏み込む。
牙が迫る。紙一重で躱し、弓の下端を顎へ叩き込んだ。骨が鳴り、体勢が崩れる。
その瞬間、短剣が閃いた。
一閃。
首筋が裂け、魔物が地面へ転がる。
椿は付着した血を軽く払った。
「数だけは立派やねぇ。中身はだいぶん残念やけど」
その横で、コマがぺろりと口元を舐める。
「……そっちはずいぶん手慣れてはること。前からよう噛みついてたん?」
「わふぅ!」
褒められていると分かっているみたいだった。
椿はふっと笑う。
「ふふ、ええ子。そない可愛い顔して血まみれなん、なかなか迫力あるよ」
風が吹く。
木々の密度が、少しずつ薄くなっていく。差し込む光が増えていた。
椿は目を細める。
「……出口かしら。やっと森抜けられそうやねぇ」
「わふっ」
コマも前を向き、小さく鳴く。
そのまま歩みを進め、やがて最後の木々を抜けた瞬間。
視界が、一気に開けた。
「――……」
椿は静かに足を止める。
森の外。
その先には、石壁に囲まれた大きな街が広がっていた。
1〜3話改稿しました!よければそちらもご覧ください!
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