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暁の女帝〜狛犬と異世界革命〜  作者: 春と桜
第二章 エルフの里編

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領主、逆鱗に触れる

どうもはじめまして春と桜です。

初めての作品なのであたかかく見守って頂けたらなと思っています。よろしくお願いします。

 

 荒れ狂っていた精霊たちが、一斉に静まった。


 森を埋め尽くいていた怒号も、暴風も、どこか遠くへ消えていく。折れた木々の間を吹き抜ける風だけが低く唸り、張り詰めた空気が肌を刺した。まるで世界そのものが息を潜めているようだった。誰もが無意識に言葉を失う。


 スクナの足が止まる。


「……ッ」


 背筋が粟立った。本能が警鐘を鳴らしている。


 やばい。


 椿が、本気で怒っている。


 領主もそれを感じ取ったのだろう。ゆっくりと椿へ視線を向ける。

 血に濡れた着物を風が揺らし、乱れた黒髪が静かに流れる。その周囲へ森中の魔力が吸い寄せられていた。目には見えないはずの力が渦となって集まり、空気そのものを軋ませている。月詠は白銀の光を宿し、夜の森を淡く照らしていた。


「……なんだ、その力は」


 椿は答えない。ただ領主を見ていた。

 感情すら凍り付いたようなその視線を受けた瞬間、領主の喉がひくりと動く。

 今まで感じたことのない恐怖が、少しずつ胸の奥へ染み込んでいた。


「……あんた」


 月詠が静かに持ち上げ白銀の刃先が領主へ向いた。

 それだけなのに、兵たちの顔から血の気が引いていく。


 誰もが漸く理解した。ここにいてはいけない。

 これは自分たちが関わっていい戦いではない。


「地獄の底で、後悔しはったらええわ」


 恐ろしいほどの殺気が込められた声が静かに森中へ響いた。

 領主の顔から余裕が消える。

 椿の周囲で膨れ上がる魔力は、異常、その一言に尽きる程の圧で、空は重く沈み、木々は風もないのに震えている。生き残った兵たちはじりじりと後退り始めた。誰も命令など聞いていない。


「ひっ……」


 誰かの掠れた悲鳴が漏れ、轟音と共に暴風が吹き荒れた。


 兵たちの身体がまとめて吹き飛び、地面が裂け、木々が悲鳴を上げた。土砂が舞い上がり、森そのものが震える。椿はその中心で静かに月詠を引いた。


「舐めるなァァァ!!」


 領主が絶叫する。空一面へ巨大な魔法陣が展開された。膨大な魔力が奔流となって押し寄せる。森を消し飛ばしかねない一撃だった。


 だが。


 椿はただ月詠を振るう。たったそれだけで白銀の軌跡が夜空を走った。

 次の瞬間、押し寄せていた魔力が真っ二つに裂けた。破壊の奔流はそのまま空の彼方へ吹き飛び、夜空に巨大な亀裂みたいな光の道だけが残る。領主の目が見開かれた。


「な……」

「随分、騒がしいこと」


 領主は咄嗟に障壁を張る。


 だが遅い。即座に月詠が叩き込まれる。

 衝撃だけで地面が沈み、蜘蛛の巣みたいな亀裂が森中へ走った。


 障壁が軋み、そして砕け散った。


「ありえん……!」

「何がありえへんの?」


 領主が押し負けていた。

 スクナは血塗れのまま口元を歪める。


「はっ……ざまぁみろ」


 黒刀を肩へ担ぎながら笑う。

 その表情は誇らしげで当然だと言わんばかりだった。


「負けやしねぇよ」

「……」

「ツバキは、クソ強ぇから」


 砕け散った障壁の向こう。

 いつの間にか月詠は白銀の短刀へ姿を変えていた。

 刃先が領主の喉元へ突き付けられている。


 皮膚が裂け、赤い血が一筋流れた。

 領主の身体が震える。初めてだった。自分が狩られる側へ回る感覚は。


「格の違い、見せてくれはるんやなかったん?」


 ぞっとするほど綺麗に椿は笑っていた。

 領主は何も言えない。


 喉が動く。呼吸すら苦しい。

 あと少し押し込まれれば終わる。

 それを誰より理解していたのは領主自身だった。


「ど、どうした……殺さないのか……」

「そんな簡単に終わらせたら、つまらへんやろ?」


 背筋が凍る。助かったと思った次の瞬間だった。

 鮮血が舞い、領主の両脚が膝下から斬り飛ばされた。


 絶叫が森へ響く。


 土を掻きながらのたうち回る姿は、さっきまでの威厳など欠片もなかった。


「他人傷つけるんは平気なくせに、自分は嫌なんやねぇ」


 領主は兵たちへ手を伸ばす。

 助けを求めて命令を飛ばすが、誰も動かなかった。

 兵たちは恐怖で顔を青くしながら後退るだけだ。


「塵扱いした相手に見捨てられる気分はどうだ?」


 楽しそうに笑うスクナの声が落ちて領主の顔が歪む。腕だけで地面を掻きながら必死に逃げようとした。その姿はあまりにも惨めで、滑稽であった。


 椿はゆっくり近付いて行く。歩みを進める度に領主の身体が震えた。


「怖い?」


 優しい声だった。だからこそ恐ろしい。


 領主は涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにしながら首を振る。

 だが椿は静かに見下ろしていた。今まで何人がそうしたのだろう。何人が同じように助けを求めたのだろう。


 白銀の短刀が胸へ沈む。わざと心臓を外して、絶望だけを刻み込むように。椿は耳元へ顔を寄せた。


 そして静かに囁く。


「地獄で、よう思い出し」

書き溜めはありますが、暫くは様子を見ながら1日1話から2話を目安に投稿しようと思っています!


毎日20時更新です!


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