ツバキの守りたいものはコマが守るの
どうもはじめまして春と桜です。
初めての作品なのであたかかく見守って頂けたらなと思っています。よろしくお願いします。
黒髪が揺れ、血の匂いが広がった。領主は数秒黙ったあと、ふ、と笑う。
けれど先ほどまでの愉悦とは違い、笑みの奥へ、じわじわと熱を孕んだ苛立ちが滲んでいた。
「……なるほど傷をつけられたのは久しぶりだ」
「光栄やわぁ」
「だが、余計に気が変わった」
領主の目が粘つくように椿をなぞる。
「やはりお前は手元へ置くべきだ。壊すには惜しい」
椿の眉がぴくりと動いた。
「ほんま、よう喋らはる」
次の瞬間椿の姿が掻き消えた。
轟ッ!!
風が爆ぜて領主が咄嗟に後方へ飛んだ直後、さっきまで立っていた空間ごと斬り裂かれた。
地面が深く抉れ、後方の兵たちまでまとめて吹き飛び悲鳴が上がった。
その中を、椿はさらに踏み込んだ。
着物姿とは思えない速度で距離を詰め、そのまま月詠を振り抜く。
ギィィィンッ!!
黒い障壁が軋み、火花みたいに魔力が散った。領主の顔から、完全に笑みが消えた。
「……あまり図に乗るなよ」
低く呟いた瞬間、黒い魔力が膨れ上がった。
漆黒の炎が森を呑み込み、熱風が吹き荒れ、兵たちですら悲鳴を上げて後退した。
「焼け死ね」
黒炎が椿を包み込む。兵たちが歓声を上げた。
「やったぞ!!」
だが、炎の中で、風が渦巻き黒炎が裂けた。
「まさか…、いや、ありえない!!」
月詠を構えたまま、椿が静かに立っていた。
その周囲だけ、風が壁のように炎を弾いている。
椿は小さく首を傾げる。
「……ぬるい炎やわぁ」
空気が凍りつき領主の眉が、わずかに動いた。
月詠が閃き白銀の斬撃が黒炎ごと空を裂いた。
轟ッ!!!!
領主が障壁を展開する。衝突した衝撃で周囲の地面が弾け飛んだ。
障壁が、ぎしり、と軋み、領主の表情が酷く歪んだその瞬間、横から兵たちが雪崩れ込んできた。
「領主様を守れぇぇぇ!!」
大量の殺意が椿へ向かい始めた。だが、それをスクナは許さない。
「邪魔だっつってんだろ」
黒い斬撃が横薙ぎに走った。兵たちの身体がまとめて吹き飛ぶ。
血塗れのまま、黒刀を肩へ担いで笑っている。
足元には兵の死体が積み上がり、まだ黒い血が流れていた。
「タイマンの邪魔してんじゃねぇよ雑魚共」
領主の目が細くなり、スクナをギロリと睨みつけた。
「随分と暴れるな、奴隷」
「誰が奴隷だ」
スクナが吐き捨てるように言った。
「今の俺は、あいつの騎士だ」
その言葉に。椿の目が、ほんの少しだけ見開かれた。
スクナは気づかない。ただ黒刀を領主へ向ける。
「テメェは俺がぶっ殺す」
領主が、ふ、と笑ったがもう先ほどみたいな余裕はない。
「面白い」
ゆっくり両手を広げる。
「獣も、女も、揃って牙を剥くか」
空が、低く鳴り、ゴロゴロ、と重い雷鳴が響く。
黒雲が渦を巻いている。領主の背後で、さらに巨大な魔法陣が展開されていた。
轟音と共に、視界を焼き潰すほどの白光が黒雲の奥で暴れ狂う。空気そのものが震え、兵たちですら顔色を失って思わず足を止めた。
「あれは……」
「領主様がご乱心だ!!皆の者引けぇ!!!」
空一面へ広がる巨大な魔法陣が、幾重にも重なった黒い紋様で空を侵食していく。
スクナの顔色が変わった。本能が告げている。
あれはまずい。まともに落ちれば、この森ごと消し飛ぶ。
「ツバキ!!」
地面を蹴り、黒刀を握ったまま椿の元へ駆け出す。
その背後で、領主は愉悦に満ちた顔のまま両腕を広げていた。
「誇るといい。貴様らは今、人間の到達点を目にしている」
雷光が、ばちばちと空を走る。領主のその目は完全に酔っていた。力に。支配に。そして、己自身に。
「恐怖しろ。跪け。そして理解しろ。貴様ら獣やエルフとは、格が違うのだと!!」
「領主様!!」
後方の兵が青ざめた顔で叫ぶ。
「それでは俺たちまで――」
「黙れ塵に価値などない」
領主は笑った。
刹那
空から、巨大な雷槍が落ちた。
轟ッッッッ!!!!
世界が白く染まり音が遅れて追いかけてきた。
森が吹き飛び、地面が砕け、衝撃だけで兵たちの身体が宙を舞う。エルフたちの悲鳴が響き、結界が激しく軋んだ。コマの小さな身体がびくりと震える。
「っ……ぁ……!」
ゴホッ
口から血が溢れ出している。白銀の髪が乱れ、小さな肩が震えていた。それでも、両手だけは決して下げない。神聖な白銀の結界が、雷槍を真正面から受け止めていた。
世界が揺れる。
それでも――砕けない。
「耐えた……!」
「結界が……!」
「耐えたぞ!!!」
エルフたちが目を見開き歓声をあげた。
コマは荒い息を繰り返しながら、それでも必死に前を向いていた。涙で滲んだ瞳が、まっすぐ椿を見つめている。
「ツバキの守りたいものは…コマが、守るの……!」
その声は幼いが誰よりも力強かった。
領主の笑みが、わずかに歪む。
「……素晴らしい」
うっとりした声だった。
「壊れそうになりながら、まだ抗うか」
その瞬間、空気が変わり風が止んだ。
書き溜めはありますが、暫くは様子を見ながら1日1話から2話を目安に投稿しようと思っています!
毎日20時更新です!
ブックマーク 評価 応援よろしくお願いします!




