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暁の女帝〜狛犬と異世界革命〜  作者: 春と桜
第二章 エルフの里編

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26/81

卓越した力

どうもはじめまして春と桜です。

初めての作品なのであたかかく見守って頂けたらなと思っています。よろしくお願いします。

 

 月詠が、ぱき、と嬉しそうに鳴った。


 白銀の弓身を伝うように風が流れ、周囲を漂っていた精霊たちも楽しげに揺れる。訓練場に集まっていたエルフたちは困惑した顔でその様子を見つめていた。弓が鳴いたのは誰の目にも明らかだったが、それ以上に気になるのは椿の反応だった。まるで古い友人と再会したかのように自然に笑っている。


「……何があったんですか」

「んー? なんやろねぇ。この子、うちのこと気に入ってくれたみたいやわ」

「意味が分かりません」


 マフィは真顔のまま月詠を見つめる。だが椿の頭の奥には、別の声が響いていた。弓を握る手から伝わってくる感情は驚くほど素直で、子どもそのものだった。椿の肩が小さく震える。


『オイラ、ツバキ、スキ!』


「……ふふっ」

「なんで笑ってるんだ」

「内緒」

「気持ち悪ぃ笑い方してんな」

「失礼やわ」


 ぱぁん、と月詠が軽やかに鳴った。里長は静かに目を細め、その様子を興味深そうに見つめている。若いエルフたちもざわめきを隠せなかった。


「やはり、意思がありますね」

「珍しいん?」

「古い精霊木から作られた武具には、ごく稀に宿ることがあります」

「では、本当に……」

「ええ。月詠は彼女を認めたのでしょう」


 その言葉が落ちた瞬間、訓練場の空気が少し変わった。月詠は里の宝でありながら、誰も扱えなかった弓だ。戦士も魔導士も挑戦したが、最後には皆諦めた。その弓が突然現れた迷い人へ懐いている。その事実は、彼らの価値観を静かに揺さぶっていた。


 椿はそんな視線に気付かないまま月詠を見下ろす。不思議だった。初めて触れたはずなのに、ずっと昔から手に馴染んでいた気がする。


『ツバキ、モット!』

「ん?」

『モット、ウツ!』

「……まだやるん?」

『ヤル!!』


 ぱぁん!


 元気いっぱいの返事に、椿は思わず吹き出した。まだ遊び足りない子どもを相手にしている気分だった。マフィはそんな椿を見てますます理解できない顔をしている。スクナは呆れたように額を押さえた。


「この子、もっと撃ちたいんやって」

「……は?」

「とうとう弓と会話し始めたか」

「前から変なもんとはよう喋ってたんよ」

「さらっと怖ぇこと言うな」


 椿はくすくす笑いながら再び月詠を構えた。すると訓練場を漂っていた精霊たちが一斉に集まり始める。火の光、水の雫、風の粒。色とりどりの小さな輝きが白銀の弓身を流れ、まるで月詠へ祝福を捧げているような光景だった。


「……っ」

「精霊が、弓に……」

 マフィが息を呑む。


 椿は静かに弦へ指を掛ける。

『ツバキ、イケ!!』


 ぱぁん!


 その瞬間、風が矢へ絡みついた。淡い緑の光が尾を引き、矢羽の周囲で渦を巻く。矢は轟音と共に空を裂き、訓練場全体へ突風を巻き起こした。


 轟ッ!!


 木々が大きくしなり、枝葉が激しく揺れる。空を飛び回っていた的は一瞬で吹き飛び、そのまま砕け散った。さらに後方に配置されていた的までも巻き込み、木片の嵐となって宙へ舞い上がる。遅れてエルフたちの髪が揺れた。


「……なんか、えらいことならへんかった?」

「無詠唱で属性付与……?」

「精霊が勝手に魔力を?」

「ありえない……」

「普通、精霊魔法は契約が必要だぞ」

「しかもあの威力……」


 誰もすぐには動けなかった。砕けた木片だけが乾いた音を立てながら地面へ降り注ぐ。マフィは完全に固まり、若いエルフたちは信じられないものを見る目をしていた。そんな中でスクナだけが大きく息を吐く。


「お前、本当にめちゃくちゃだな」

『オイラ、ツヨイ!!』


 月詠が誇らしげに鳴る。


 椿は吹き出しそうになるのを堪えながら弓身を撫でた。撫でられた月詠はますます嬉しそうに震えている。精霊たちまで一緒になってくるくる回り始めた。


「ふふっ、せやねぇ。月詠は強い子や」


 ぱぁん!


 嬉しそうな音が響く。


「すげぇ!」

「もう一回見たい!」

「風のやつ!!」


 子どもたちが一斉に駆け寄ってきた。ついさっきまで遠巻きに眺めていたのに、今は完全に興味津々だった。椿の周りへ集まり、月詠を見上げながら目を輝かせている。無邪気な好奇心に満ちた視線だった。


「ふふ、元気やねぇ」

「その弓、重くないの!?」

「触ってもいい!?」

「こら! 勝手に近づかないでください!」


 マフィが慌てて制止する。


 だが月詠は嫌がるどころか、ぱき、と楽しそうに鳴った。子どもたちに囲まれて得意になっているのが伝わってくる。椿の肩がぴくりと揺れた。


『オイラ、ニンキモノ!!』


「……ふふっ」

「なんで笑ったんですか」

「なんでもあらへんよぉ」


『オイラ、エライ!!』


 ぱぁん!


 とうとう椿は吹き出した。


 肩を震わせながら笑う椿を見て、周囲もつられて笑い始める。マフィだけが納得いかない顔で立ち尽くしていた。そんな反応すら面白くて、訓練場の空気はどんどん柔らかくなっていく。


「ちょ、ちょっと待ってぇ……ふふっ」

「だから何なんですかさっきから!」

「内緒や」

「絶対ろくでもないこと言ってますよね!?」


 周囲から笑い声が漏れ、子どもたちも楽しそうに笑った。月詠まで調子に乗ったようにぱきぱき鳴っていた。


「なんかその弓、嬉しそう!」

「分かる!」

「音がめっちゃ楽しそう!」

 すると弓が小さく震える。


『ツバキ、スキ!』

「……はいはい」


 そっと撫でると、月詠は満足そうに鳴った。その様子を見ていた若いエルフたちも、いつの間にか警戒を忘れていた。驚きは残っている。だがそこに敵意はない。


「あの月詠がなぁ……」

「里長にしか触らせなかったのに」

「人間相手にあんな懐くとか意味分からん……」


 けれど声に混じるのは感心ばかりだった。

 椿は周囲を見回し、少し困ったように笑う。


「なんや、皆さん急に優しゅうなったねぇ」

「いや、あれ見せられたら気になりますって」

「普通にすごすぎますし」

「そんな大したことあらへんよぉ」

「あります」

「めちゃくちゃあります」

 椿は肩を揺らして笑った。


 その笑いにつられるように、訓練場には穏やかな笑い声が広がっていった。

本日も2話投稿です!


二話投稿の日は一話目の投稿が不規則な時間になっていますので、ブックマークをして頂けたらスムーズに読めるかと思います!

あ、ブックマークのおねだりではないですよ?

誓って違いますからね??


冗談はさておき、毎日投稿は20時となっていますので引き続きよろしくお願いします!


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