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暁の女帝〜狛犬と異世界革命〜  作者: 春と桜
第二章 エルフの里編

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「オイラ、ツバキ、スキ!!」

どうもはじめまして春と桜です。

初めての作品なのであたかかく見守って頂けたらなと思っています。よろしくお願いします。

 

 若いエルフたちは何度も的を見ていた。中心へ突き立った矢は微動だにせず、風に揺れる羽根だけが小さく震えている。誰もが月詠と椿を見比べていた。信じられないという顔だったが、その視線にはもう疑いより驚きの方が強かった。


「あれくらいなら上級の戦士でもできる」

「だが月詠だぞ」

「人間が、あんな引き方を……」


 ざわめきが広がる中、椿は困ったように眉を下げる。褒められているのか驚かれているのか分からず、どこか照れくさそうだった。その横で里長だけは静かに椿を見つめている。立ち方も呼吸も、矢を放った後の残心も、美しいほど無駄がなかった。


「そんなびっくりされると照れるわぁ」

「椿殿は、かなり長く弓を?」

「物心ついた頃からやねぇ。毎日みたいに引いてたし、朝早う起きて寒い中ずっと練習してたこともあったわ」

「そこまでして?」

「好きやったからやろねぇ」


 その答えは驚くほど静かだった。技術を誇る響きはなく、ただ好きなものを好きだと言うだけの声だった。だからこそ里長は目を細める。長く続けた者だけが持つ深みが、その一言に滲んでいた。


 その時だった。


 ぴしり、と小さな音が響く。


 月詠の弦がひとりでに震えた。


「……ん?」


 ふわりと風が舞う。赤や青や緑の光が現れ、精霊たちが月詠の周囲を楽しそうに飛び始めた。まるで眠っていた何かが目を覚ましたような光景だった。マフィですら思わず息を呑む。


「月詠が……懐いてる」

「弓って懐くもんなん?」

「普通はありません。この弓は使い手を選びます。拒絶された者は弦すら満足に引けません」


 椿は月詠を見下ろす。細く美しい弓だった。どこか気難しそうな雰囲気があると思っていたが、今は精霊たちに囲まれながら機嫌良さそうに見える。思わず口元が緩んだ。


「気ぃ難しい子や思てたけど、案外素直なんかもしれへんねぇ」


 その瞬間だった。


 パァンッ、と乾いた音が訓練場へ響く。


 誰も触れていないのに、月詠が大きく鳴った。


 若いエルフたちが一斉に息を呑む。


「月詠が応えた……!」

「ありえない……」

「え、うちなんかした?」

「完全に気に入られています」


 マフィの声は少し上擦っていた。周囲の動揺とは裏腹に、椿だけが状況を理解していない。そんな様子を見てスクナが鼻で笑う。


「お前、そういうのばっかだな」

「どういうの?」

「意味分かんねぇやつに好かれる」

「言い方ひどない?」


 思わず周囲から小さな笑いが漏れた。張り詰めていた空気が少しだけ和らぐ。だが里長は静かに前を向き、再び訓練場へ視線を向けた。


「なら、次へ進みましょう」


 魔法陣が淡く光る。訓練場の奥で木製の円盤が浮かび上がり、不規則な軌道で飛び始めた。風を切りながら森の木々の間を縫うように駆ける。若いエルフたちでさえ息を呑む速度だった。


「動的射撃訓練です。風、速度、軌道変化、その全てを読む必要があります」


 椿は何も答えない。ただ静かに円盤を見つめていた。視線だけが軌道を追い、呼吸だけがゆっくり落ち着いていく。その姿を見た瞬間、スクナは小さく目を細めた。


「……また空気変わったな」


 弓を持った瞬間だけ違う。


 柔らかな空気が消え、森そのものが静まり返るような感覚があった。


 椿がゆっくり弦を引く。


 精霊たちでさえ息を潜めたように静かだった。


 次の瞬間。


 矢が風を裂く。


 空中の円盤が真っ二つに割れ、その後ろを飛んでいた二枚目までまとめて射抜いた。


 木片だけがぱらぱらと地面へ落ちる。


「……あれ、二枚目も当たってしもた」


 訓練場が静まり返った。誰もすぐには言葉を発せない。割れた木片だけが乾いた音を立てながら転がっていく。やがて呆然とした声が漏れた。


「……二枚?」

「嘘だろ」

「月詠で、あの速度を……?」


 椿は困ったように笑う。だがマフィは真顔だった。視線は椿ではなく、月詠の周囲で揺れる精霊たちへ向いている。里長もまた静かに頷いた。


「……やはり」

「なんかわかったん?」

「以前話しましたね。迷い人は魔力を持たない代わりに、外の魔力を取り込み力に変えると」

「せやねぇ」

「あなたの場合、それが精霊なのでしょう」


 風が優しく吹き抜ける。精霊たちが嬉しそうに椿の周囲を漂った。その様子はまるで、ずっと前から彼女を知っていたかのようだった。


「……うち、昔からよう分からんもん見えてたんよねぇ。神社でも森でも夜道でも、誰もおらんはずやのに気配だけおって」

「霊感ですか」

「そう思てたんやけどなぁ」


 小さい頃からだった。風の向こうに誰かがいる気がする。誰もいない場所で見られている気がする。けれど不思議と怖いと思ったことはなかった。むしろ懐かしい感覚だった。


「精霊もまた霊的存在の一種です」

「……なるほどねぇ。せやから懐かれとるんかな」


 その時だった。


 ぴしり。


 月詠が再び震えた。


 今度は先ほどよりも強く。


 椿がそっと弓へ触れる。


 風が返事をするように頬を撫でた。


『……ツ、バキ』


 幼い声が頭の奥へ直接響くような、不思議な声。

 椿の動きが止まる。


「……いま、喋らはった?」


 周囲は静かなままだった。どうやら聞こえているのは自分だけらしい。月詠は嬉しそうに小さく震えている。


『オイラ、ツバキ、スキ』

 椿はぱちぱちと瞬きを繰り返し、それからふっと微笑んだ。


「ふふっ、かわいらし」

書き溜めはありますが、暫くは様子を見ながら1日1話から2話を目安に投稿しようと思っています!


活動報告で見ていてくださった方は知っているかもしれませんが、ついに新しい仲間が登場しました!

ちょこちょこ活動報告にて裏話公開しています!ぜひご覧ください!


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