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いずれ最強の女、白い狛犬と獣人たちの味方をしていたら世界に喧嘩を売ることになりました  作者: 春と桜
第二章

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その弓の名は月詠

どうもはじめまして春と桜です。

初めての作品なのであたかかく見守って頂けたらなと思っています。よろしくお願いします。


「遅いです」


マフィの木刀が真っ直ぐ振り下ろされる。


椿は半歩だけ引いた。

真正面から受けない。流れるように身をずらし、そのまま相手の手首へそっと触れた。

力の向きだけを静かに逸らされ、マフィの体勢が崩れる。


「……っ」



椿は追撃せず、小刀を指先でくるりと回した。

黒髪がさらりと肩を滑り落ちる。


「真正面からぶつかるん、あんまり得意やないんよね」


マフィはすぐ距離を取り直した。


目つきが変わる。


「今の動き、何か武術をされていたのですか?」


「武術いうほど立派なもんやないよぉ」


「合気道って言いはるの。まぁ、初心者に毛ぇ生えたくらいしか使えへんけど」


「……今のが初心者の動きなんですか」


「うちは弓の方が本職やしねぇ」


肩をすくめる仕草まで、どこか品がある。


汗で少し張りついた髪を、椿は指先で耳へかけた。

白い首筋が覗く。


その何気ない動きだけで、周囲にいた若いエルフたちが一斉に視線を逸らした。


綺麗だった。


ただ整っているだけじゃない。

ふわりと笑うたび、空気ごと攫っていくような美しさがある。


マフィは一瞬、言葉を忘れた。


だが、次の瞬間には薄い刃みたいな気配が覗く。


美しいが、油断すると危ない。


そんな女だった。


マフィは小さく息を吐く。


「不思議な動きです」


「うちの国やと、そこそこ有名なんやけどねぇ」


「……あなたの国、怖いですね」


椿はくすっと笑った。


「そうやろか」


その声はやわらかい。


「うちの国、優しい人の方が多い国やったんよ」


どこか懐かしむように少しだけ目を細めた。


「困ってる人見たら放っとけへん人、ぎょうさんいてはったし」



風がふわりと黒髪を揺らす。


その横顔だけ、少し遠くを見ていた。


マフィはしばらく黙っていたが、やがて静かに口を開く。


「……あなた、弓を本職と言っていましたね」


「そやよ」


椿は小刀をくるりと回して納めた。


「うち、ほんまはあっちの方が得意なんよねぇ」


視線の先には、訓練場の奥に並ぶ弓の的。


エルフたちは日常的に弓を使う種族だ。

子どもですら短弓を扱う。

だからこそ、その空気が少し変わった。


若いエルフたちが視線を向ける。


「人間が?」


「弓を?」


「しかもあの細腕で?」


そんな声が小さく漏れる。


椿は苦笑した。


「なんや、めっちゃ疑われてへん?」


「当然です」


マフィは真顔だった。


「エルフの弓術は、一朝一夕で身につくものではありません」


「ほな、使ってみてもええ?」


その一言で、周囲が静かになる。


里長は椿をしばらく見つめ、それから静かに頷いた。


「構いません」


マフィが近くの弓を持ってこようとした、その時だった。


「……違う」


里長が止める。


訓練場の奥へ歩いていく。


木々の影に立て掛けられていた一本の弓を、静かに持ち上げた。


長い。


流れるような曲線を描いた、美しい弓だった。


白木に白銀の装飾。

細いのに、張り詰めた空気がある。


若いエルフたちがざわめいた。


「里長、それ」


「月詠じゃ……」


マフィですら目を見開いている。


「じゃじゃ馬な弓で、里でも扱える者はいないのに…」


里長は何も言わず、椿へ差し出した。


「試してみなさい」


椿は弓を受け取る。


その瞬間。


空気が変わった。


ふわり、と風が椿の周囲を巡る。


精霊たちが静かに集まり始める。


まるで、その姿を見守るみたいに。


「……綺麗な弓やねぇ」


椿がそっと弦へ触れた。


その手つきはあまりにも自然だ。


握り方。

重心。

立ち姿。


何気ない所作の一つ一つに無駄がない。


ざわついていたエルフたちが、少しずつ黙っていく。


マフィの目がわずかに見開かれた。


並の使い手じゃない


椿は静かに息を吸った。


片足を引く。


背筋が伸びる。


その瞬間空気が張り詰めた。


さっきまで柔らかく笑っていた女とは別人みたいだった。


黒髪が風に揺れる。


指先が静かに弦を引いた。


深く。


なめらかに。


まるで弓そのものと呼吸を合わせているみたいに。


エルフの戦士たちが息を呑む。


美しかった。


技術だけじゃない。


研ぎ澄まされた所作そのものが、完成されている。


里長が小さく目を細めた。


「……なるほど」


椿が矢を放つ。


音はほとんど鳴らなかった。


次の瞬間。


遥か奥の的、その中心を正確に射抜く。


風が遅れて吹き抜けた。


静寂。


誰も声を出せなかった。


的の中心で、矢だけが小さく震えている。


マフィが呆然と呟く。


「……嘘」


椿はきょとんとして振り返った。


「え、あかんかった?」


その言葉で、ようやく周囲がざわめき始める。


「今の距離を……?」


「しかも、あの弓で……」


「人間が……?」


スクナですら目を細めていた。


「……なんだそれ」


椿は少し困ったように笑う。


「うち、弓だけは昔からよう褒められてたんよねぇ」


その周囲で、精霊たちが嬉しそうに揺れていた。



ざわめきは、なかなか収まらなかった。

本日も2話投稿です!


二話目は20時更新です!


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