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神隠しで異世界に来た私が獣を守るため人間と敵対すると決めるまで  作者: 春と桜
第二章

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「オイラ、ツバキ、スキ!!」

どうもはじめまして春と桜です。

初めての作品なのであたかかく見守って頂けたらなと思っています。よろしくお願いします。


若いエルフたちは何度も的を見ている。


中心。


寸分違わず、真ん中だった。


「あれくらいエルフなら皆できる」


「いや、でも月詠だぞ」


「人間が、あんな引き方を……」


声が小さく飛び交う。


椿は少し困ったように眉を下げた。


「そんなびっくりされると、なんや照れるわぁ」


その横で、里長は静かに椿を見ていた。


立ち方。

呼吸。

離れの静けさ。


どれも洗練されすぎている。


ただ当てる技術ではない。


長い年月、繰り返し積み重ねた者の射だった。


「椿殿は」


里長がゆっくり口を開く。


「かなり長く弓を?」


「物心ついた頃からやねぇ」


椿は月詠をそっと撫でた。


「毎日みたいに引いてたし」


椿は少し懐かしそうに目を細めた。


「朝早う起きて、寒い中ずっと引いたりねぇ」


「そこまでして?」


「好きやったから」


その答えは、妙に静かだった。


技術を誇る感じがない。


ただ、本当に好きだったのだと分かる声。


その時。


月詠が、小さく鳴った。


ピシ……と、弦が震える。


椿が目を丸くする。


「……ん?」


ふわり、と風が巻いた。


精霊たちが弓の周囲をくるくる回っている。


まるで喜んでいるみたいに。


マフィが目を細めた。


「月詠が……懐いてる」


「弓って懐くもんなん?」


「普通はありません」


里長ですら少し驚いた顔をしていた。


「この弓は使い手を選びます。魔力の流れに敏感で、拒絶された者は弦すらまともに引けない」


「へぇ」


椿は弓を見下ろす。


それから、ふっと笑った。


「気ぃ難しい子やと思ったけど、案外素直なんかもしれへんねぇ」


その瞬間。


パァン!!


弦がひとりでに鳴った。


周囲のエルフたちが一斉に息を呑む。


「……っ!?」


「月詠が応えた……!」



「え、うちなんかした?」


「完全に、気に入られています」


マフィの声が少し上擦っている。


「ありえない……」


スクナが腕を組んだまま鼻で笑った。


「お前、そういうのばっかだな」


「どういうの?」


「意味分かんねぇやつに好かれる」


「言い方ひどない?」


そのやり取りに、周囲から小さな笑いが漏れる。


先ほどまで張っていた空気が、少しずつ解け始めていた。


里長は静かに目を閉じ、それから訓練場の奥へ視線を向ける。


「なら、次へ進みましょう」


その声で、空気がまた引き締まった。


訓練場の奥。


魔法陣が淡く光り始める。


木で作られた小さな円盤が、宙へ浮かび上がった。


「動的射撃訓練です」


マフィが静かに言う。


「風、速度、軌道変化。全てを読む必要があります」


円盤が、突然加速した。


木々の間を縫うように、不規則に飛び回る。


若いエルフたちが息を呑む。



椿は静かに円盤を見ていた。


ただ、視線だけがゆっくり軌道を追っている。


呼吸が静かに落ちる。


その姿を見て、スクナが小さく呟いた。


「……また空気変わったな」


弓を持った瞬間だけ違う。


森の空気すら張り詰めるような感覚があった。


椿が弦を引く。


精霊たちまで息を潜めたみたいに静かだった。


次の瞬間。

矢が、風を裂いた。


空中の円盤が真っ二つに割れる。


さらにその後ろを飛んでいた二枚目まで、まとめて射抜いた。


誰も動けない。


割れた木片だけが、ぱらぱらと地面へ落ちていく。


椿はそこでようやく小さく首を傾げた。


「……あれ、二枚目も当たってしもた」



訓練場が静まり返る。


割れた木片だけが、乾いた音を立てて地面を転がった。


「……二枚」


「嘘だろ」


「月詠で、あの速度を……?」


若いエルフたちが呆然と呟く。


椿は弓を持ったまま、困ったように眉を下げた。


「そんな驚かんでも……」


「驚きます」


マフィが即答する。


「今のは普通ではありません」


視線は椿ではなく、弓の周囲へ向いていた。


ふわり、と小さな光が揺れる。


精霊たちが、まるで戯れるみたいに月詠の周囲を漂っていた。


里長が静かに目を細める。


「……やはり」


椿が首を傾げる。


「なんかわかったん?」


「以前、話しましたね」


里長の声は落ち着いていた。


「迷い人は、魔力を持たない」


椿は小さく頷く。


「せやねぇ」


「ですが、その代わりに外の魔力を取り込み、自分の力として扱う性質を持つ」


風が静かに吹き抜ける。


精霊たちが、椿の近くで嬉しそうに揺れた。


「あなたの場合、それが精霊なのでしょう」


マフィが目を見開く。


「精霊から直接、力を?」


「恐らくな」


椿は月詠を見下ろした。


「……うち、昔からよう分からんもん見えてたんよねぇ」


ぽつりと零す。


「神社でも、夜道でも、森でも」


小さい頃からだった。


誰もいない場所に、気配がいる。


視線がある。


風の音に混じって、声みたいなものが聞こえる時もあった。


怖いと思ったことは、あまりない。


むしろ。


向こうの方が、ずっと前から椿を知っていたみたいだった。


「霊感、みたいなもんやと思ってたんやけど」


その瞬間。


ふわり、と風が椿の髪を撫でる。


精霊たちが、まるで返事をするみたいに近寄った。


里長が静かに頷く。


「精霊もまた、霊的存在の一種です」


「……なるほどねぇ」


椿は少しだけ笑った。


「せやから懐かれとるんかな」


その時。


パァン、と弦が小さく鳴った。


誰も触れていない。


周囲がざわつく。


「月詠が……」


「鳴いた?」


椿が目を丸くする。


「え、なに?」


もう一度。


ピシ、と弓が震える。


それはどこか、拗ねた子どもみたいな音だった。


椿がそっと弓へ触れる。


すると。


ふわり、と風が撫で返した。


その瞬間。


『……ツ、バキ』


幼い声だった。


頭の奥へ直接響くみたいな、不思議な声。


椿の動きが止まる。


「……いま、喋らはった?」


周囲は静まり返っている。


どうやら聞こえているのは椿だけらしい。


月詠が、嬉しそうに小さく震えていた。


『オイラ、ツバキ、スキ!!』


椿がぱちぱちと目を瞬かせる。


それから、ふっと笑った。


「ふふっ、かわいらし」

書き溜めはありますが、暫くは様子を見ながら1日1話から2話を目安に投稿しようと思っています!


活動報告で見ていてくださった方は知っているかもしれませんが、ついに新しい仲間が登場しました!

ちょこちょこ活動報告にて裏話公開しています!ぜひご覧ください!


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