無自覚な想い
どうもはじめまして春と桜です。
初めての作品なのであたかかく見守って頂けたらなと思っています。よろしくお願いします。
椿は小さく頷く。
火の音が、静かに揺れている。
椿は少しだけ考えるように視線を泳がせて、ふと思い出したみたいに口を開く。
「……そうや」
いつもの調子椿が聞いた。
「スクナって、どんな魔法使わはるの?」
視線がやわらかく向く。
「髪、綺麗な緋色やし……やっぱり火、とかやろか」
何気ない一言。
それだけのはずなのに、空気が少しだけ止まった。
ほんの一瞬の間。
「……使えねぇよ」
さっきまでと違う、少しだけ固い声。
椿はそれ以上踏み込まない。
「そうなんやね」
その沈黙を、そのままにしておく。
そこへ、エルフが口を開いた。
「獣人は、本来魔法との親和性が高い種族だ」
「理屈より先に、感覚で扱う」
スクナは何も言わない。
「耳と尾は、そのための器官でもある」
火が、小さくはぜた。
「魔力を受け取り、巡らせ、外へ流す」
「それを失えば、扱えなくなるのは当然だ」
言葉が容赦なく落ちた。
スクナの指がわずかに強く握られる。
「……分かってる」
何かを堪えるような声だった。
それでもエルフは止めない。
「流れを断たれた状態では、どれだけ感覚が優れていても意味はない」
「……だから使えねぇって言ってんだろ」
わずかに苛立ちが混じる。
「事実だ」
静かに返す。
「現状、お前は魔法を扱えない」
空気が、重く沈む。
「……だが」
「獣人の中には、覚醒する個体もいる」
聞き覚えのある言葉にスクナの目がわずかに動く。
先日の戦闘を思い出していた。
「失われた感覚を補い、別の形で魔力と繋がる例も確認されている」
「極めて稀だがな」
それだけ言って、口を閉じる。
火の音だけがやけに響いていた。
「……綺麗な色やもんね」
「似合わんまま終わるには、もったいないわ」
火が、小さく揺れた。
「今夜はここを使え」
エルフに案内された先は、木の幹をそのままくり抜いたような家だった。扉をくぐると、やわらかな木の香りが広がる。長い時間をかけて落ち着いた匂いで、どこか安心する。
床も壁もほんのり温かく、灯りは小さな光の粒が浮かんで静かに揺れていた。
「……ええ匂いやねえ」
椿が静かに息を吸う。
「落ち着くわ」
奥には厚みのある布団が敷かれていた。指で押すと、ふわりと沈む。
「……これ、気持ちよさそう」
「この里の湯も使っていい」
エルフが淡々と続ける。
「森の奥にある。疲れはそこで落とせ」
「……ええの?」
「客人だ」
それだけ言って、静かに去っていった。
椿が立ち上がる。
「ほな、お言葉に甘えて行こかな」
「……俺も行く」
「護衛だ。一人で行かせるわけにはいかねぇ」
椿は一瞬だけ目を丸くして、ふっと笑う。
「……過保護やねえ」
「違ぇよ」
湯場は森の中にひらけた静かな場所だった。石に囲まれた湯から、やわらかく湯気が立ちのぼる。見上げると、木々の隙間から星がこぼれていた。
「……綺麗やね」
椿がそっと呟く。
スクナは背を向けて少し離れる。
「……ここで見張ってる」
「ありがとうね」
やわらかい声が返る。
湯に浸かると、じんわりと力が抜けていく。
「……あったか」
水面に星が揺れる。
静かな時間。
その外で。
スクナはじっと立っていた。視線は森。音と気配に集中する。
そのとき、背後で草が揺れる。
「……誰だ」
反射で振り向く。
ぴょこ、と白い影。
コマだった。
一直線に湯の方へ走る。
「おい、待て」
体が先に動く。
踏み出した足が、石の縁で滑る。
「……っ」
バランスが崩れる。
同時に、椿もコマへ手を伸ばしていた。
ぶつかる。
そのまま、後ろから抱きとめる形で水が跳ねた。
距離が、一気に近い。
「……」
目のやり場に困る。
視線が落ちる。
脇腹の、薄く残る傷跡。
「……悪い」
言った瞬間、すぐに離れた。
触れていた時間なんて、ほんの一瞬だったが妙に心臓がうるさい。
頑張って顔を逸らしているスクナを見てやわらかく笑った。
「大丈夫やよ」
そのままコマを見た。
「コマ、あかんよ。毛あるし、みんなも使う場所やから。」
やさしく言いながら、抱き上げた。
コマは満足そうに尻尾を揺らす。
スクナは何も言わない。
ただ、少しだけ鼓動が乱れていた。
「……外で待ってる」
それだけ言って、すぐに出た。
⸻
外に出たスクナは、コマを抱えたまま固まっていた。
「……なんだ、今の」
頭に残るのは、さっきの一瞬。
距離。
温度。
傷。
「……」
分からない。
コマが腕の中でもぞっと動く。
「……お前はじっとしてろ」
そのまま、ずっと立ったまま見張り続けた。
⸻
部屋に戻ると、椿は布団に沈む。
「……ふかふかやね」
コマがぴたりと寄る。
「……あったか」
撫でる手に、コマが目を細める。
少し遅れて湯を済ませたスクナが戻る。
無言で座るが明らかに落ち着きがない。
椿がちらりと見る。
「……どうしたん?」
「別に」
即答だったが顔をずっと背けている。
椿はほんの少しだけ目を細めて、ふっと笑う。
そのまま何も言わない。
「先寝るね」
「……ああ」
椿はそのまま目を閉じる。
寄り添うようにコマも丸くなった。
⸻
スクナはしばらく動かなかった。
「……くそ」
小さく吐く。
それ以上考えるのをやめた。
「……寝よ」
無理やり目を閉じる。
考えない。
考えない。
そうやって押し込めてやがて、静かに意識が落ちていった。
森の夜は、やさしく包み込むみたいに静かだった。
こちらで第一章完結とさせていただきたいと思います!
第二章からは修行から里襲来編と続きますので引き続き応援よろしくお願いします!
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