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暁の女帝〜狛犬と異世界革命〜  作者: 春と桜
第一章 新たなる世界編

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18/112

コマとスクナ

どうもはじめまして春と桜です。

初めての作品なのであたかかく見守って頂けたらなと思っています。よろしくお願いします。

 

 コマは軽く尾を振ると、何の躊躇いもなく川へ飛び込んだ。


 盛大な水飛沫が上がり、浅瀬にいた魚たちが一斉に散る。白い身体は水の中を滑るように駆け回り、逃げ惑う魚を器用に追い込んでは岸へ弾き飛ばしていく。銀色の魚が次々と草の上へ転がり、スクナは黙ったままそれを拾い集めて袋へ放り込んだ。川辺には魚の跳ねる音とコマが水を掻く音だけが響いている。


「……おい」

「少しは加減しろ」


 声を掛けてもコマは気にした様子もない。ようやく一匹捕まえたかと思えば、その場で豪快に齧りつき始める。どうやら本当に腹が減っていたらしい。一匹食べ終える前に次の魚へ飛び付き、夢中になって平らげていく姿に、スクナは呆れたような息を漏らした。


「……食うのかよ」

「まぁ、食うか」


 結局そのまま数匹を平らげたコマは満足そうに尾を揺らした。スクナはそれ以上何も言わず作業を続ける。椿もいるし、保存できる分も欲しい。十分な量が集まったところで袋の口を縛り、二人は洞窟へ戻った。


 洞窟の中は相変わらず静かだった。火は消えかけており、奥では椿が眠ったまま動かない。顔色は昨日より良くなっているように見えるが、目を覚ます気配はまだなかった。スクナは焚き火へ枝を足し、魚を串へ刺して並べていく。


「待て」

「まだだ」


 コマが焼けていく魚をじっと見つめている。ついさっきまで食べていたはずなのに、その目は真剣そのものだった。尾だけが期待に満ちた様子で揺れている。スクナは苦笑混じりに魚をひっくり返した。


「待てって言ってんだろ」

「少しくらい我慢しろ」


 焼き上がった魚を一匹渡せば一瞬で消えた。二匹目も同じだった。三匹目を食べ終えた頃になってようやく満足したらしく、コマはその場で丸くなり、そのまま寝息を立て始める。あまりにも切り替えが早く、スクナは思わず小さく息を吐いた。


 洞窟の中は再び静寂に包まれた。火の弾ける音だけが小さく響き、外の森の気配は遠い。スクナは椿の傍へ移動すると、額の布を取り替えて様子を確かめる。熱は昨日よりも確実に下がっていた。


「……あと少しか」


 返事はない。


 当然だと分かっていても言葉が漏れる。椿が眠っているだけで妙に静かだった。隣ではコマが無防備な寝顔を晒している。昨日まで命のやり取りをしていたとは思えないほど穏やかな時間が流れていた。


 夜は静かに更けていく。火は小さくなり、赤い灯りだけが揺れていた。スクナは壁へ背を預けながら目を閉じる。完全に眠るつもりはない。ただ少しだけ身体を休めるつもりだった。


 どれくらい時間が経ったのか分からない。


 ふと気配を感じて目を開くと、コマがゆっくりと身体を起こしていた。眠そうに目を細めながら椿の傍へ近付き、鼻先で頬を軽くつつく。それから傷口へ顔を寄せると、淡い光が静かに溢れ出した。


「……」


 昨日よりも少しだけ強い光だった。


 長くは続かない。それでも十分だった。椿の呼吸が目に見えて落ち着き、苦しそうだった表情も和らいでいく。スクナは黙ったままそれを見つめていた。


「そういう力か」


 コマは満足したように小さく鼻を鳴らすと、その場で再び丸くなる。限界だったらしい。すぐに寝息が聞こえ始め、スクナはゆっくりと息を吐いた。そのまま洞窟には静かな夜だけが残った。


 翌朝。


 洞窟の入口から差し込む柔らかな光が椿の顔を照らしていた。まぶたがわずかに震え、ゆっくりと目が開く。ぼやけていた視界が少しずつ形を取り戻し、天井や焚き火の跡が映り始めた。


「……朝、やろか」


「起きたか」


 スクナがすぐに顔を向ける。


 椿は身体を起こそうとして少し眉を寄せた。まだ重たい。けれど昨日とは比べものにならないほど楽だった。脇腹へ触れると血は止まっている。


「まだちょっと重たいですけど」

「昨日よりはだいぶマシやねぇ」


「そうか」


 短い返事だった。


 それでも肩の力が抜けたのが分かる。椿の視線は自然とコマへ向いた。白い毛玉は丸くなったまま眠っている。


「ええ子やねぇ」


 その言葉に反応したのか、耳がぴくりと動いた。


 ぐぅぅぅぅ。


 盛大な腹の音が洞窟へ響く。


「ふふっ」

「起きた瞬間それかよ」


 コマは何も悪くないと言いたげな顔で立ち上がると、そのまま椿へ突進した。鼻先を押し付けるように擦り寄り、椿は笑いながら頭を撫でる。


「ありがとうな」


 コマは満足そうに目を細めた。


 その様子を見ていたスクナは少しだけ視線を逸らす。なんとなく居心地が悪かった。理由は自分でも分からない。


「……動けるか」


「歩くくらいなら大丈夫やよ」


「なら出るぞ」


 追手が諦めた保証はない。ここへ留まる理由もない。コマもすでに入口の方を向いて待っていた。準備はできていると言いたげだった。


「せやね」


 椿はゆっくり立ち上がる。


 一瞬だけ身体が揺れる。スクナの手が反射的に伸びかけた。だが途中で止まる。椿はそれに気付いていたが、何も言わず小さく笑った。


「ほな、行きましょか」


 森の中は朝だというのに薄暗かった。高く伸びた木々が空を覆い、光のほとんどを遮っている。湿った土の匂いが鼻を掠め、どこか息苦しい。三人はしばらく無言で森を進んだ。


「……なぁ」


「なんだ」


 椿が足を止める。


 視線の先には曲がった大木があった。根元には割れた岩。その形に見覚えがある。ついさっき通ったばかりの気がした。


「この木」

「さっきも見ませんでした?」


 スクナも周囲を見回す。


 コマが低く唸った。


 嫌な予感がする。


「……おい」

「うん」

「同じとこ回ってるな」


 沈黙が落ちる。


 森が妙に静かだった。風が吹き、木々がざわりと揺れる。けれどその音さえどこか不自然に感じる。


「……迷い込んだか」


 スクナが低く呟く。


 椿は周囲を見渡したあと、不意に口元を緩めた。困っているはずなのに、どこか楽しそうだった。


「ふふ」


「笑い事か」


「だって」


 椿は森の奥へ視線を向ける。


 空気がわずかに歪んで見えた。普通の森ではない。何かが隠れている。そんな気配があった。


「おもしろなってきましたやん」


 その瞬間、森の奥で何かが笑ったような気がした。

お待たせいたしました!本日から投稿再開です!

そして、次週から第二章へ突入します!

応援よろしくお願いします!


引き続き毎日20時更新です!


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― 新着の感想 ―
コマは食いしん坊ですな〜。 (・∀・) でも、椿の治療に力を使っていたみたいだし、カロリーもたくさん必要だったんでしょう! ヾ(・ω・*)ノ 復活した椿とコマの微笑ましいやり取り。それをスクナが少…
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