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神隠しで異世界に来た私が獣を守るため人間と敵対すると決めるまで  作者: 春と桜
第一章

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17/24

エルフの里

どうもはじめまして春と桜です。

初めての作品なのであたかかく見守って頂けたらなと思っています。よろしくお願いします。

「……笑ってる場合か」


「焦っても出られへんやろ」


コマが低く唸りその先で淡い光がふっと浮かんだ。


スクナが目を細める。


「……なんだ」


「なんやろね、でも悪い感じはせえへんね」


光がゆっくり奥へ動き少し進んで止まり、またこちらへ向く。


「ついて来いって顔してはる」


「罠かもしれねぇぞ」


「かもしれへんね」


あっさり返して椿が歩き出す。


スクナは小さく舌打ちして後ろにつき、コマが先に進み森の空気ががらりと変わる、さっきまでの重さが抜けて音が近くなる。


「……なんだこれ」


「通されたんやろね」


光が消えると同時に気配が立ち、椿が足を止めた。


「……おるね」


木々の間から姿が現れる、長い耳に弓を構えた者たち。


「囲まれてる」


「せやね」


椿は動かない、その前にコマが一歩出る。


空気が揺れる。


「……白の……」


小さな声が漏れる。


一人が前に出て視線をコマに向けたまま口を開く。


「……その方とはどこで出会った」


椿は少し首を傾げる。


「気ぃついたら一緒におったんよ」


視線が椿へ移る。


「お前、名は」


「一宮 椿」


ほんの小さく。


「……迷い人か」


椿の目がわずかに細まるが何も言わない。



「さっきの光はお前らか」


「そうだ、精霊だ」


エルフはもう一度コマを見る、その視線はさっきより柔らかい。


「……その方が選んだなら、問題はないのだろう」


「助けてもろたみたいやね」


「来い」

 


「……信用できるのか」


椿はコマを見る、もう前を歩いている。


「コマが行く気やしね」


スクナは一瞬だけ黙ってから息を吐く。


「……分かった」


三人はそのまま森の奥へ進んだ。



森を抜けた先で、空気がすっとほどけた。湿った土に、どこか甘い匂いが混じる。葉のあいだから落ちる光がやさしくて、風が通るたびに小さな光がゆれた。


森に抱かれるように、ひとつの里があった。枝が屋根になって、根が床になって、蔦が重なって壁になる。人の手で作ったというより、森がそのまま形を変えたみたいな場所。


「……綺麗なところやねえ」

椿が少しだけ息を緩めて言った。


「……里だな」

スクナはまだ警戒している様子だった。


「そうだ」


前を行くエルフの声に重なるように、気配が増えていく。枝の上、木の影、音もなく人があらわれる。じっと見られているのに、刺すようなものはない。


視線は、自然とコマへ集まる。


コマは一歩前に出て、ちょこんと座り直し、尻尾がふわりと揺れた。


「……人気者やねコマ」


誰かが息を呑み言った。

「……白き守り」


静かに、頭を垂れた。

ひとり、またひとりと同じように。


「……なんだこの反応」


「嫌われてへんのは、ええことや」


やさしく返しながら、椿はコマの頭を撫でるた。

少し誇らしげに胸を張っていた。


しばらくして大きな木の根元に通された。

光が煌めいて、風が抜ける夏の木陰のような心地の良い場所。


「ここでいい。休め」


「ありがとうございます」


そのまま、椿は腰を下ろす。

ようやく肩の力が抜けた。


「……一宮椿と言ったな。迷い人か」


「そう呼ばれてるんやね、うちみたいなんは」


声は穏やかだが、どこか距離を保っていた。


「迷い人は珍しい。千年ほど生きているが、実際に目にしたのは初めてだ」


「千年……」


「エルフは長命だ。人とは時の流れが違う」


「ほな、ようやく会えた珍しいもんやね」


ふわりと笑った。



「……その方が傍に置く者に、悪しき者はいない」


静かな断言がすっと落ちる。



「そない言われたら、ちゃんとしてへんとあかんね」


やさしい声が芯だけ残した。


そのとき、


「……ぐぅぅぅ」


コマの腹が遠慮なく鳴り、一瞬だけ空気がゆるんだ。


「ふふ、ほんまに正直ものやなあ」


コマは何事もない顔で座り直す。

尻尾だけがちょっと揺れている。


「食事を用意しよう」


「ありがとうございます」


コマはすでにそちらを見ている。


「……また食べるのか」


スクナの瞳は呆れを含んでいた。


「ええことやん、うちはすきよ、いっぱい食べる人」


椿は木に背を預け目を閉じた。


「……少し、休ませてもらいます」


「寝てろ」


不器用な優しさを含んだ声だった。



コマは隣で丸くなりながら、これから来るごはんの気配を待っている。

森の奥で、小さな光がまたひとつ揺れた。



————


しばらくして、木の間から香ばしい匂いが流れてきた。

焼けた魚の匂いに、やさしい甘さが混じる。

匂いに釣られ、椿が目を開けた。


コマはもう起きている。尾がふわふわ揺れて、視線はまっすぐそっちへ向いていた。


運ばれてきた皿には魚と果実と、葉で包まれた温かいものが並ぶ。


「いただきます」


椿は静かに手を合わせるみたいにして、ひとくち。


「……やさしい味やね」


その横ではコマが既に食べ始めていた。


みるみるうちにコマの中へ吸い込まれていく姿を見て、まるで掃除機のようだと椿は笑った。


「……おい」


「それ、ツバキの分——」


「ちょ、待てコマ、それ全部いく気か!」


コマは気にしていない。次にいく。


「……おい、残せ。分かるだろ」


スクナはじり、と皿を寄せる。


コマもじり、と寄った。


ちょっとした攻防。


椿がくすっと笑う。


「ええよ、食べ」


「よくねぇだろ」


すぐ返す。


「お前、ほとんど食ってねぇ」


「これから食べるよ」


やわらかく言う。


コマはぴたりと止まって、椿を見る。


「……ええよ?」


嬉しそうに尻尾を振って食べた。


「……ほんとに分かってんのか、こいつ」



「分かってるよ。なあコマ?」


椿が軽く撫でる。


コマは満足そうに尾を揺らした。


スクナは一瞬だけ黙って、それから自分の皿を押しやった。


少し長くなってしまうので本日は3話投稿です!

2話目は18時投稿です!


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