コマとスクナ
どうもはじめまして春と桜です。
初めての作品なのであたかかく見守って頂けたらなと思っています。よろしくお願いします。
コマは軽く尾を振って立ち上がる。さっきまでの弱々しさはもうない。
コマがためらいなく飛び込むと水が跳ねる。
次々と魚を追い込み、岸へ弾くように放っていった。
スクナはそれを黙々と拾った。
「……おい、ちょっと待て」
そう言いながらも作業する手は止まらない。
コマはさらに一匹を捕まえその場でかじりついた。
「……食うのかよ」
もう一匹ついでのように口をつける。
スクナは小さく息を吐いた。
気にせず袋に魚を詰めていく。
コマは満足した様子でこちらを一度見てから、最後の一匹も平らげた。
「……まったく。落ち着いて食え」
コマは気にした様子もなく、尾を揺らした。
「……もういいか」
十分な量を収穫してから洞窟へ戻った。
椿はまだ眠っている。
スクナは火に枝を足し魚を並べた。
コマがじっと見ている。
さっき食べたばかりなのに視線は真剣だった。
「……待て」
一応言う。
コマは座る。
けれど、わずかに距離を詰める。
「……待てって言ってんだろ」
ぴたりと止まる。
それでも視線は外さない。
焼けた魚を一匹渡すが一瞬で消えた。
もう一匹。
それもすぐに消える。
三匹目を渡したところで、コマは満足したようにその場で丸くなった。
ほどなくして、静かな寝息が聞こえる。
スクナはわずかに肩の力を抜いた。
椿のそばに戻り額の布を替えた。
さっきより少しだけ熱が落ち着いている。
「……あとでいいか」
果物には手をつけない。
起きてからでいいだろう。
スクナはそのまま座り込む。
壁にもたれて、椿を見る。
隣ではコマが、さっきまでの騒がしさが嘘みたいに静かに眠っている。
洞窟の中は、夜になると一層静かだった。
火は小さくなり、赤い灯りだけが揺れている。
外の気配は遠くここだけが切り離されたような感覚。
スクナは目を閉じて壁にもたれていた。
どれだけ時間が過ぎたか分からない頃ふと、違和感に気づく。
呼吸の音。
椿のそれが、少しだけ落ち着いている。
視線を落とすと、顔色がわずかに戻っていた。
「……」
そのとき、コマが動いた。
ゆっくりと体を起こし、椿のそばへ寄った。
鼻先でそっと触れる。
それから、傷口のあたりに顔を寄せた。
淡い光がもう一度だけ椿を包んだ。
今度は昨日よりもほんの少しだけ強い。
長くは続かないがそれでも、十分だった。
椿の呼吸が明らかに安定する。
「……そういう力か」
コマは満足したようにその場に座り、そのまま体を丸めた。
もう限界らしい。すぐに寝息が混じる。
スクナはゆっくりと息を吐いた。
ただ、そのまま夜が過ぎていった。
洞窟の入口から柔らかい光が差し込んだ。
椿のまぶたがゆっくり開き、視界が揺れて少しずつ定まっていく。
「……朝、か」
かすれた声。
スクナがすぐに顔を向ける。
「起きたか」
椿はゆっくりと起き上がろうとして、少しだけ眉を寄せる。
「……あかんね、まだ重たい」
「せやけど、昨日よりはだいぶマシやよ」
軽く息を吐いて体を起こした。
傷に触れたが血は止まっていた。
「……ほんま、よう止めてくれはったわ」
視線がコマへ向く。
丸まって寝ている白い塊。
椿は少しだけ目を細めた。
「ええ子やね」
その声に反応するように、コマが耳をぴくりと動かす。
「……ぐぅ」
一発。
朝から元気だった。
椿が思わず笑う。
スクナは呆れたように息を吐く。
「起きた瞬間それかよ」
コマはむくりと起き上がり、そのまま椿の方へ寄る。
鼻先を押しつける。
椿はその頭を撫でた。
「ありがとうな」
コマは満足そうに目を細める。
スクナはそれを見て、少しだけ視線を逸らした。
「……動けるか」
「歩くくらいなら」
「ならここを出る」
椿は少しだけ目を細め頷いた。
「追手が完全に切れてる保証はねぇ」
「せやね」
椿はゆっくり立ち上がったが、少しふらついていた。
スクナは一瞬だけ手を出しかけて——止めた。
椿は気づいていないふりをして、軽く笑う。
コマがその間に外へ向かう。
もう準備はできている、という顔。
スクナは短く息を吐いた。
「……行くぞ」
⸻
森の中は朝でも薄暗かった。
木々が密に重なり光を遮っている。
椿は周囲を見ながら歩く。
「……こっちで合ってる?」
「方角は間違ってねぇ」
スクナが答える。
「隣国は西だ」
椿は空を見上げる。枝の隙間から見えるわずかな光。
「……ほんまに?」
「なんだ」
「なんやろ、この感じ」
足を止める。
コマが低く吠えた。
スクナが言った。
「……気づいたか」
椿は周囲をゆっくり見渡す。
「同じとこ、回ってへん?」
沈黙。
それが答えだった。
空気が、わずかに歪む。
「……迷い込んだな」
スクナが低く言う。
椿は少しだけ口元を上げた。
「……おもしろいことになってきたやん」
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