覚醒の兆し
どうもはじめまして春と桜です。
初めての作品なのであたかかく見守って頂けたらなと思っています。よろしくお願いします。
「……くそッ!」
脇腹から滲む血が広がっていく。服の端を噛んで裂き、右手だけで布を押し当てた。片手ではやりづらい。それでも力を込めて押さえ続ける。布はすぐに赤く染まり、指の隙間から血が溢れていった。
「止まれ、止まれよ……」
その時、足元で小さく気配が揺れた。視線を落とすとコマが足を引きずりながら近付いてくる。自分も傷が深いくせにそれでもこちらへ来ようとしていた。
「……無理に動くな」
だがコマは止まらなかった。ふらりと身体が揺れる。倒れかけた瞬間、スクナは咄嗟に身体を寄せて受け止めた。その拍子に頬をぺろりと舐められる。
「……?」
「くぅん」
遅れて頬のヒリつきが消えていることに気付いた。コマはじっとこちらを見上げている。その視線はすぐに椿へ向いた。何を言いたいのか、言葉より先に理解してしまう。
「……」
コマは腕の中から身をよじる。スクナは舌打ちしながらも椿の傍へ下ろした。コマはふらつきながら近付き、そのまま傷口へ顔を寄せる。淡い光が滲んだ。強くはない。けれど澄んだ水のような静かな光だった。完全には塞がらない。それでも流れていた血は少しずつ止まっていく。
「……おい」
やがて光は消えた。コマの身体が力を失ったように崩れ落ちる。スクナは慌てて片腕で支えた。その時だった。妙に場違いな音が響く。
「……ぐぅぅ……」
一瞬だけ森の緊張が消えた。コマの腹が盛大に鳴っている。スクナは呆然と見下ろした。こんな状況で腹が鳴るやつがいるのかと思った。
「……なんだそれ」
思わず漏れた言葉だった。だが考えている余裕はない。椿の血は止まった。なら、ここにいる理由はない。
スクナはコマを咥え、椿を背負った。片腕と身体だけで無理やり支える。疲労で足が震えていた。それでも離すつもりはなかった。森の奥へ踏み込み再び走り出す。
「っ……!」
枝を踏む音が消え代わりに背後の空気が重くなった。追ってきている。しかも一人や二人ではない。足を止めた時には既に近くまで来ていた。
スクナは椿を木の根元へ下ろした。コマもその横へ寄せる。短剣を抜いて刃を確かめた。欠けている。それでもまだ使えそうだ。右手だけで握り直し重心を落とした。肺は焼けるように痛く、身体中が悲鳴を上げている。
草を掻き分ける音が四つ響いた。
(四人くらいか)
「逃げ切れると思ったか」
「観念しろ」
「大人しく渡せば楽に死なせてやるぞ」
現れた男たちの目は獲物を追う獣そのものだった。数は減っているが残った連中は強い。ここで仕留めるつもりで来ているのが分かる。囲み方にも無駄がなかった。
「……思ってねぇよ」
前後左右囲まれている。逃げ道はない。ここを抜かれたら終わりだ。
「殺せ」
左の男が踏み込んだ。切り上げ方に癖がある。スクナは半身で避け身体を滑らせるように動き、そのまま懐へ潜り込んだ。
喉から血が弾けた。
男は声も出せないまま崩れる。倒れる音より先に次の気配が迫った。正面からの突きを短剣で流し軌道を逸らす。そのまま内側へ踏み込み、脇下へ刃を押し込んだ。
「がっ……!」
男が崩れる。だが終わりではない。後ろから気配が迫る。振り向くより先に身体を回した。斜め後ろからの斬撃が肩を掠め血が流れた。
「チッ……!」
下がれば終わる。だから前へ出た。残る二人のうち一人が低い姿勢で滑り込んでくる。構えが違う。無駄がない。かなりの手練れだ。
横薙ぎがきてなんとか受け止めたが、腕が痺れるほど重い。
追い詰めるような連撃が止まらない。削り取るための剣だ。だが、スクナは下がらなかった。頬を裂かれても構わない。今は間合いの中だ。
「っらぁ!」
短剣を逆手に持ち替え喉を狙う。だが弾かれ硬い衝撃が返ってくる。嫌な感触だった。さらに一歩踏み込み胴を狙うがかわされた。返しの斬撃を避けきれない。
腹が裂け熱が広がった。遅れて痛みが来る。
その瞬間パキン、と乾いた音が響いて短剣が折れた。
「……ッ!」
致命的な一瞬だった。男の剣が振り下ろされる。スクナは身を捻って直撃だけは避けたが衝撃で身体が吹き飛びそのまま地面へ叩き付けられた。
肺が空気を拒み視界が揺れる。身体が言うことを聞かない。
「くそッ……」
それでも目だけは動いた。視界の端に椿がいる。コマがいる。ここを抜かせるわけにはいかない。そんなことを考えている自分に思わず笑いそうになる。
「女と白いのだけで十分だ」
「コイツは殺す」
男が近付いてくる。剣を振り上げる動きが妙にゆっくり見えた。終わるのか。ここで。
初めてだった。失いたくないと思ったのは。守りたいと思ったのは。それなのに何もできない。
余りにも弱い。無力だ。
そんな自分に反吐が出る。
霞む視界の中、奪われ続けた記憶が蘇る。自由も誇りも居場所も全部失った。それでも最後に浮かんだのは椿の笑顔だった。
「……もう」
喉の奥から声が漏れる。
「もう二度と……」
胸の奥が焼ける。頭の中で大きな音が鳴り何かが噛み合った。
「失わねぇ」
血の味が広がり息が焼ける。それでも立ち上がる。
「壊されてたまるか」
身体の奥で何かが目を覚ます。
「もう誰にも……」
世界が軋み血が沸騰する。
「奪わせねぇ!!」
身体の奥で何かが噛み合った音がした。
――ギフト発生条件を満たしました。
――第一段階認証。
――覚醒を承認します。
書き溜めはありますが、暫くは様子を見ながら1日1話から2話を目安に投稿しようと思っています!
スクナさん頑張ってますね!!戦闘シーン引き続き続きます!
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