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暁の女帝〜狛犬と異世界革命〜  作者: 春と桜
第一章 新たなる世界編

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12/112

不穏な気配

どうもはじめまして春と桜です。

初めての作品なのであたかかく見守って頂けたらなと思っています。よろしくお願いします。


嵐の前の静けさということで今回少し長めです。

 椿は袋を机の上へ置いた。


 中から取り出したのは森で仕留めた魔物の素材だった。牙や爪、魔石の欠片まで種類は多い。どれも傷が少なく保存状態も良かった。店主の男は無言で品を手に取り、一つひとつ確認していく。


「……ほう、銀貨三枚だ」


 椿は机の上に置かれた爪を指先で摘み上げた。窓から差し込む光へ透かし、ゆっくりと角度を変える。品物を見ているようでいて、見ているのは男の反応だった。値踏みされているのはこちらも同じである。


「えらい控えめなお値段やね」

「そんなもんだ。素人が持ち込む品はな」

「なるほど」


 椿は小さく頷いた後、何気ない調子で続けた。


「他の商人さんにも見てもろたんやけど、この倍は出してくれはりましたよ?」

「……どこだ」

「さあ? よう分からんまま売るんも惜しゅうて、色々見てもろただけやけど」


 もちろん嘘だった。だが男の指はぴたりと止まる。椿はそれ以上何も言わず、ただ静かに待った。焦る必要はない。焦った方が負けるのは交渉でも同じだった。


「……数も質も妙だな。普通はこうはならん……スタンピードでもなきゃな」


 男は小さく舌打ちしながら素材を見直した。先ほどまでのぞんざいな目つきは消えている。椿は机に肘をつきながら、その変化を眺めていた。


「……銀貨五枚」

「それやったら、やめとくわ」

「待て」

「ええもんやったら手放すんももったいないやろ」


 椿は袋へ手を伸ばした。本当に帰るつもりだったからこそ迷いがない。その仕草に男の眉がわずかに動く。しばらく沈黙が続いた後、男は深く息を吐いた。


「……銀貨十枚」

「それでも、さっきのお話には届いてへんね」

「……金貨一枚と銀貨三枚」

「もう少しだけ、よう見てくれはったら」

「……金貨二枚と銅貨二十。それ以上は出せん」

「よろしいわ」


 男が呆れたように顔をしかめる。椿は差し出された金を受け取ると、袋の中へしまい込んだ。硬貨同士が触れ合う音が小さく鳴る。思っていた以上の金額だったが、それを表に出すほど素直でもない。


「最初からそのくらいで見てくれはったら、話早かったのに」

「……」

「おおきに。また来ます」


 店を出ると、昼の光が通りへ溢れていた。背後で扉が閉まる音を聞きながら椿は一つ息を吐く。隣ではスクナがどこか呆れたような顔をしていた。途中から結果が見えていたのだろう。


「……最初から分かってたな」

「だいたいは、ね」


 石畳の通りを歩きながら周囲を眺める。人通りは多く、露店の呼び込みも賑やかだった。初めて訪れた街だが活気は十分だった。椿は目についた服屋へ足を向ける。

 店主の女はよく笑う人だった。値段交渉を始めた椿に最初は驚いていたが、途中から完全に楽しんでいる。最終的には腹を抱えて笑い出す始末だった。


「いやぁ! お姉ちゃん値切り上手だね!こんなに楽しい時間は久しぶりだよ!」


 スクナが選んだのは黒を基調とした上下だった。飾り気はないが動きやすそうで、本人の雰囲気にもよく合っている。赤い髪との相性も悪くない。


「……あら」

「なんだ」

「思ったよりだいぶええやないの」


 店主まで大きく頷く。


「男前だねぇ」


 スクナは返事をしなかった。だが耳がわずかに赤くなっている。椿はそれを見て笑いを堪えながら代金を支払った。


 店を出る頃には太陽が西へ傾いていた。石畳には長い影が伸び始めている。途中で露店から簡単な地図を買う。粗末な紙だったが道しるべには十分だった。


「そんなもん信用するな」

「全部信じる気はあらへんよ。目安になれば十分やし」


 その後立ち寄った食堂は旅人で賑わっていた。焼いた肉の匂いが漂い、空腹を刺激する。注文した料理は想像以上に量が多く、テーブルいっぱいに並べられた。スクナは無言のまま勢いよく食べ始める。


「慌てたら喉に詰まりますよ」

「平気だ」

「……っ、うっ」

「ほら」


 椿は苦笑しながら背を撫でる。スクナは顔を赤くして水を飲み干した。向かいでは白い獣が羨ましそうに皿を見つめている。その様子に椿は思わず肩を揺らした。


「全く、そんなに急がんでも、ご飯は逃げませんよ」


 食事を終えて店を出ると空は茜色に染まり始めていた。街の灯りも一つずつ点き始め、人々はそれぞれ帰路につく。穏やかな夕暮れだったが、椿の胸にだけ小さな違和感が残っていた。


 何度か感じる視線がある。


 振り返っても誰もいない。だが気のせいで片付けるには回数が多すぎた。昼頃から同じ感覚が続いている。


「……付けられてる。何人かいるな」

「複数やね。昼間から丁寧に距離を置いてついて来てはってたけど」


 白い獣が低く唸る。椿はその頭を軽く撫でて落ち着かせた。まだ動く気配はない。だからこそ不気味だった。


「大丈夫。今はまだ来えへんよ」


 宿へ戻ると真っ先に部屋を確認した。窓、鍵、扉。どれも問題はない。それでも胸騒ぎだけが消えない。静かな部屋の中で椿はしばらく考え込み、やがて顔を上げた。


「夜更けに街を出るよ」


 その一言で空気が変わる。スクナは驚かなかった。ただ真っ直ぐ椿を見る。互いに同じ結論へ辿り着いていたのだろう。


「……追われるぞ」

「追われる前に消えるんやよ」

「夜の森は危ねぇ」

「知ってる。せやけど、ここにおるよりはましやろ」「……分かった」


 夜が深まるにつれ街は静けさを増していく。窓の外に見えていた灯りも少しずつ減り、人々の気配も遠ざかっていった。十分な時間を置いてから椿たちは部屋を出る。


 廊下には誰もいない。


 揺れる灯りだけが壁へ影を映している。足音を殺して宿を抜けると、夜風が頬を撫でた。昼間感じていた視線はどこにもない。


「……ほんまに夜逃げやねぇ」


 小さく呟きながら歩き出す。


 西側の崩れた城壁を越えると、街の灯りは一気に遠ざかった。目の前には森の闇だけが広がっている。静かなはずなのに、胸騒ぎだけが消えない。まるで何かが待ち構えているように、夜の森は不気味な沈黙を保っていた。

毎日20時更新です!


どうですか?みなさん楽しんでくれてますか??

初めての投稿なので不安がいっぱいですが、楽しんでいただけてると信じています笑


次回から戦闘シーン続きます!お楽しみに!


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― 新着の感想 ―
交渉上手ですね〜。 (・∀・) 髪の色や街の様子が、説明ではなくさり気ない描写で、自然に盛り込まれているのがとても良いです。 (*´ω`*) 謎の視線ですけど、犯人が気になるところ。 椿のストーカ…
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