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暁の女帝〜狛犬と異世界革命〜  作者: 春と桜
第四章 革命編

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カザンと暗黒の騎士

どうもはじめまして春と桜です。

あたかかく見守って頂けたらなと思っています。よろしくお願いします。

 


 拳を振り抜くと、目の前の亡者が大きく吹き飛んだ。黒い鎧が石畳を削りながら転がり、瓦礫の山へ突っ込んでいく。オレはそいつがどうなったかなんざ確かめる気もなく、次の敵へ身体を向けた。見渡せば、炎に照らされた帝都の通りを黒い亡者どもが埋め尽くしてやがる。世界樹の蔦が大地を走り、敵を絡め取っては動きを止めているが、それでも数が減ったようには見えねぇ。


「ガハハッ! いくら来たって同じだ! まとめてぶっ飛ばしてやるよ!」


 真正面から振り下ろされた剣をかわし、懐へ潜り込む。拳を叩き込めば、鎧がひしゃげて身体が浮いた。そいつを蹴り飛ばした勢いのまま、横から迫ってきた別の亡者へ身体を回し、肘を叩き込む。耳元で金属が弾け、黒い兜が石畳へ転がった。息をつく暇もねぇほど敵が押し寄せてきやがるが、こういう戦場は嫌いじゃねぇ。殴れば殴るほど身体が熱くなって、まだまだ暴れ足りねぇと思っちまう。


 だからこそ、その音を聞いたとき、オレは足を止めた。


 頭上から、地鳴りみてぇな轟音が近づいてくる。


 何だ。


 そう思って空を見上げた。


 夜空の一角が、まるで黒い水面みてぇに大きく歪んでいた。その中心から、巨大な影が落ちてくる。尋常じゃねぇ速さだ。あんなもんが地面へ落ちりゃ……。考えるより先に、オレはその場から飛び退いた。


 次の瞬間、大地が揺れた。


 ドォォォォォォン!!!!


 凄まじい衝撃が駆け抜け、砕けた石畳が宙へ舞い上がる。土煙が視界を覆い、オレは腕で顔を庇いながら踏みとどまった。耳の奥で轟音が鳴り続ける中、煙の向こうから低い足音が響いてくる。ズン、と一歩。さらに、ズン、ともう一歩。妙に重てぇ。姿が見えねぇってのに、肌を撫でるような圧だけが、じわじわと身体へ食い込んできやがる。


 やがて煙が晴れ、その姿が現れた。


 漆黒の鎧を纏った騎士だった。


 全身を覆う甲冑は月明かりさえ呑み込むほど黒く、その手には巨大な大剣が握られている。刃の先が石畳へ触れるたび、鋭い音を立てて火花が散った。兜に覆われた顔から表情は見えねぇ。ただ、そこに立っているだけで、さっきまで戦場に満ちていた騒音が遠く感じるほどの存在感があった。


 オレは拳を握った。


 身体の奥から、妙な熱が込み上げてくる。


 こいつは、違ぇ。


 今まで相手にしてきた亡者どもなんざ、こいつと比べりゃ話にならねぇ。目の前に立っているだけで、身体が勝手に動きたがってやがる。こんな化け物と真正面からぶつかれるなんざ、滅多にあることじゃねぇ。


「……ガハハ」


 思わず笑いが漏れた。


「いいじゃねぇか。お前、相当強ぇんだろ?」


 黒騎士は答えない。ただ、大剣をゆっくりと持ち上げた。それを見た瞬間、オレは笑みを深くした。


「だったら、遠慮なんざいらねぇ。来いよ」


 黒騎士の大剣が、ゆっくりと肩口へ引かれた。その動きを見た瞬間、オレは地面を蹴っていた。真正面から叩き潰すつもりで踏み込んだ身体へ、漆黒の刃が唸りを上げて迫ってくる。あまりに速ぇ。さっきまで相手にしていた亡者どもとは比べものにならねぇ一撃が、夜気を切り裂きながらオレの身体を両断しようと振り下ろされやがった。


「おもしれぇッ!!」


 身体を捻った瞬間、刃が胸元を掠めた。鎧の一部が弾け飛び、熱いものが胸を走る。だが、オレは止まらねぇ。そのまま刃の内側へ身体を滑り込ませ、がら空きになった懐へ拳を叩き込んだ。確かな手応えが拳を伝い、黒騎士の巨体がわずかに揺れる。


 だが、次の瞬間には黒騎士の膝が跳ね上がってきやがった。


 咄嗟に腕を差し込んだが、衝撃までは殺しきれねぇ。身体が浮き、そのまま後ろへ弾き飛ばされる。背中から石畳へ叩きつけられ、肺から息が吐き出されたが、転がった勢いを利用して身体を起こした。口の端に溜まった血を乱暴に拭い、オレは目の前の黒騎士を睨みつける。


「……へぇ。殴られるだけじゃ終わらねぇってか」


 立ち上がった瞬間、黒騎士が踏み込んできた。大剣が横薙ぎに走り、オレは身を低くしてその下を抜ける。背後で石畳が大きく弾ける音を聞きながら振り返れば、黒騎士はすでに次の構えへ移っていた。あの図体で、あの剣を振り回して、それでいて隙がねぇ。力任せに押してくるだけの化け物なんざ腐るほど見てきたが、こいつは違う。


 なら、こっちも真正面から叩き潰すまでだ。


 オレは再び駆けた。大剣が迫るたびに身体を捻り、刃が通り過ぎた場所へ潜り込んで拳を叩き込む。黒騎士も黙って食らうような野郎じゃねぇ。拳が届くたびに肩や肘が飛んできて、そのたびにオレの身体が弾かれる。それでも離れねぇ。離れた瞬間、この野郎の間合いに飲まれる気がした。


「だったら、こっちから離れなきゃいいだけだろォッ!」


 拳を振り抜く。


 黒騎士が大剣の腹で受け止める。


 弾かれた拳を引くより早く、反対の拳を叩き込む。


 それも受けられる。


 なら、もう一発。


 オレの拳が黒い鎧を打ち、黒騎士の剣がオレの肩を打つ。互いに一歩も退かねぇまま、轟音だけが何度も夜の帝都へ叩きつけられていく。腕が痺れようが、肩が裂けようが、そんなもんは今のオレにはどうでもよかった。目の前の野郎をぶち抜く、そのためだけに身体を動かしているうちに、不思議とさっきまで重かった大剣の動きが少しずつ近く感じられ始めていた。


「……ガハハッ!」


 まただ。


 今の一撃、見えた。


 オレは拳を握り直す。


「そういうことかよ……!」


 何がどうしたなんざ、頭で考えたわけじゃねぇ。ただ、さっきまでなら間に合わなかったはずの刃へ、今なら届く。身体の奥で何かが弾けたような感覚とともに、オレは地面を蹴った。


 黒騎士の大剣が、頭上から落ちてきた。オレは踏み込んだまま身体を沈め、刃の軌道へ自分から潜り込む。頬を掠めた風が皮膚を裂き、次の瞬間には拳が黒い胸当てへ深々と食い込んでいた。鈍い衝撃が腕を駆け抜け、鎧がひしゃげる。だが、黒騎士は倒れねぇ。巨体をわずかに揺らしただけで踏みとどまり、地面へ突き立てた大剣を引き抜いた。


「ガハハッ! まだ立ってやがるか! そうでなくっちゃ面白くねぇ!」


 オレは拳を握り直した。息は荒い。肩から流れた血が腕を伝い、指先へ落ちていく。それでも妙に身体が軽かった。さっきまでなら届かなかった場所へ拳が届く。避けられなかった刃を、今は紙一重で抜ける。殴り合えば殴り合うほど、身体の奥で何かが研ぎ澄まされていく。理屈なんざ知ったこっちゃねぇ。ただ、もっと速く、もっと強くと身体が勝手に求めてやがる。


 黒騎士が動いた。


 今までとは違う。


 大地を踏み砕くほどの一歩で距離を潰し、黒剣を振り上げる。その姿を見た瞬間、オレの背筋をぞくりと悪寒が走った。来る。そう思ったときには、もう身体が動いていた。


「……へぇ」


 口元が吊り上がる。


「それが、てめぇの本気かよ」


 黒剣が振り下ろされたと同時にオレは真正面から踏み込んだ。


新連載!【メデューサの子孫】を始めました!

よければそちらもご覧ください!


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