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暁の女帝〜狛犬と異世界革命〜  作者: 春と桜
第四章 革命編

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襲撃

どうもはじめまして春と桜です。

あたかかく見守って頂けたらなと思っています。よろしくお願いします。

 

 三頭の馬は、休むことなく東へ駆け続けた。馬には悪いと思いながらも、椿は一度も手綱を緩めなかった。街道を進むにつれて景色は少しずつ変わり、緑の多かった道には乾いた土が目立つようになっていく。傾き始めた陽が長い影を地面へ落とし、三人の影もまた、馬の蹄に合わせて伸び縮みしていた。転移を阻んだ理由も、ヤタガラスで何が起きているのかも分からない。それでも、胸の奥にまとわりつく嫌な感覚だけは、時間が経つほど強くなっていた。


「……止まって」


 椿が手綱を引くと、三頭の馬が速度を落とした。街道の脇へ視線を向ければ、土の上に無数の足跡が残っている。数える気にもならないほどの数だった。しかも、その足跡は街道を横切ったところで消えることなく、東へ向かって延々と続いている。椿は馬から降りると、その一つへ近づいて膝を折った。足跡は深く、ほとんど同じ間隔で並んでいた。


「……これ、何人くらいいるんやろ」


 スクナも馬を降り、周囲を見回した。地面には乱れた跡がほとんどない。走った者の足跡も、立ち止まった跡も、争った形跡も見当たらない。ただ、同じ方向へ向かって歩いた跡だけが、街道の先まで続いている。ルシフェルは少し離れた場所に残る別の足跡へ目を向け、そのまま東の方角へ視線を上げた。椿も同じ方向を見る。胸の奥にあった嫌な感覚が、形を持ち始めていた。


「……軍隊みたいやね」


「そう見えるな」


 スクナの返事は短かった。椿はもう一度足跡を見たあと、すぐに馬へ戻った。何者がここを通ったのかは分からない。どこから来て、何を目的に東へ向かったのかも分からない。それでも、この数の人間がこれほど整然と同じ方向へ進んでいることには、偶然では片付けられないものを感じた。椿は手綱を握り直し、東へ顔を向ける。


「……急ご」


 三人は再び馬を走らせた。蹄が街道を叩き、乾いた土が後方へ流れていく。陽はさらに低くなり、空には淡い橙色が広がっていた。道の先に見覚えのある山並みが現れる頃には、椿の心臓は走る馬の鼓動とは別の速さで鳴っていた。あの山の向こうに、ヤタガラス帝国がある。


 やがて、城壁が見えた。


 椿は反射的に手綱を引いた。遠くに見えるはずの帝国の姿は、いつものものとは大きく違っていた。城壁の周囲には異様なほど巨大な蔦が幾重にも絡み合い、地面から空へ伸びた無数の蔓が互いを覆いながら、帝国全体を包み込むような巨大なドームを形作っている。その表面は深い緑に覆われ、ところどころに赤や紫の花が不気味な色を添えていた。外からでは、その向こうにある街の姿がほとんど見えない。


「……なに、あれ」


 椿の声が掠れた。スクナも馬を止め、目の前の光景を黙って見つめている。ルシフェルの視線も、巨大な蔦のドームから離れなかった。風に揺れるたび、蔦同士が擦れ合って低い音を響かせる。遠くから聞こえてくるのは、風の音だけではなかった。


 爆発音が響いた。


 ドームの外側で火柱が上がる。赤い炎が夕暮れの空を照らし、黒い煙がゆっくりと広がっていく。少し離れた場所でも火の手が上がり、人々が逃げ惑っていた。兵士たちが武器を手に走り、倒れた者を抱えて安全な場所へ運ぼうとしている。ヤタガラス帝国の周囲は、すでに戦場と化していた。


「……ヤタガラスが、襲われてる」


 椿は呟いた。声を上げたことで、目の前の光景が現実として胸へ落ちてくる。帰還を阻まれたことも、街道に残されていた無数の足跡も、今なら一つの出来事として繋がって見えた。誰かが東へ向かっていた。そして、その先にはヤタガラス帝国がある。椿は手綱を握る手に力を込めた。


「……急がな」


 その瞬間、少し離れた場所で悲鳴が上がった。椿が顔を向けると、逃げていた男の足元から太い蔓が飛び出した。蔓は男の身体へ絡みつき、そのまま地面から引きずり上げる。男が必死に抵抗する中、すぐ近くで咲いていた巨大な花がゆっくりと開いた。赤黒い花弁の中心には鋭い牙のようなものが幾重にも並び、蔓に捕らえられた男がその中へ引き寄せられていく。


「やめろぉぉぉ!」


 悲鳴が響き、男の身体が花の奥へ消えた。花弁が大きく閉じ、赤黒い汁がその隙間から地面へ滴り落ちる。別の場所でも蔓が人間へ絡みつき、巨大な花が次々と開いていた。逃げる人々の叫び声と兵士たちの怒号が重なり、炎に照らされた街道の先は、現実とは思えない光景へ変わっていた。


「……なんや、これ……」


 椿の顔から血の気が引いていく。目の前にあるのは、ただの襲撃ではなかった。ヤタガラス帝国そのものが、正体の分からない植物によって包囲されている。城壁の向こうには何があるのか、帝国内にいる人々がどうなっているのか、ここからでは何も見えない。分かるのは、外にいる人間でさえ命を奪われているということだけだった。


 椿は東の空を見つめた。


 帰らなければならない。


 その思いが、恐怖よりも強く胸を満たしていく。椿は手綱を握り直し、馬の首をヤタガラス帝国へ向けた。スクナとルシフェルも、すぐにその横へ並ぶ。


「行こ。ヤタガラスへ戻るで」


「ああ」


「分かった」


 三人の声が重なった。


 次の瞬間、三頭の馬が一斉に駆け出した。燃え上がる帝国を正面に捉え、椿たちは炎と黒煙の向こうへ向かっていく。帰還を阻んだ何者かがいる。帝国を覆う異形の蔦がある。無数の人々が逃げ惑う中、椿たちはそのすべてが待ち受けるヤタガラス帝国へ、真っ直ぐに駆け込んでいった。

新連載!【メデューサの子孫】を始めました!

よければそちらもご覧ください!


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