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冬の煮付けね、春の煮こごりさ①

 寒さも花粉症も過ぎて、青葉若葉が目立つ季節。初夏に鯛を見ると、爽やかに紅い鱗の初々しさに、思わず目を奪われます。そろそろ、初夏の鯛の季節がやってきたのでしょう。


 切り身も刺身も良いのですが、やはり、鯛のあらを見ると、つい手に取ってしまう。真っ二つにさばいたお頭に、尾ひれの根元の肉などがついていると、最高です。


 醤油とお酒、砂糖を入れて甘辛く、ショウガとゴボウで煮込んで、煮物を作りたくなります。


 鱗を落とす必要もないですし、簡単です。煮汁にはたっぷり鯛の脂が染み込むので、寒鰤(かんぶり)よろしく大根をごろごろ入れても、いい味を出します。


 小骨は多いものの、白くてふっくらした身をたっぷり隠し持っている鯛のあらは、何度食べても飽きません。


 どれがいいかな。

 売り場で切り身を手にとってためすすがめつしていると、久しく会わなかった友人にまた、声をかけられたりします。


「ちかげどの、お久しゅうござる。長尾虎千代です」

「え、虎ちゃん。スーパーの売り場になんでいるの?」

「いえ、どうもちかげどのが最近、出番を作ってくれませぬので」


 後の上杉謙信だが、今は17歳の女の子。それが拙作『戦国恋うる君の唄』ヒロインの長尾虎千代である。


「ほほう、これが『すうぱあ』と言う現代の市ですな。魚はいちいち切り身にして売ってくれているのですか?」

「うん、お刺身も作ってくれるんだよ。虎ちゃんの時代にはないもんね」


 虎ちゃんは、越後の戦国武将にして五百年前のお姫様だ。藍の地に鮮やかな白い夏椿を染めた小袖を涼しげに着ているが、やっぱり武骨な二刀を差した姿はスーパーの売り場では物々しい。


「鯛ですか。出陣の折りには祝いにつきものではござるが」

「虎ちゃんが口にするのは、塩鯛が多いかな」


 めで(たい)などと言われるこの魚は、武家の慶事にうってつけだが、儀式として使うためか、いわゆる保存がきく塩もの(干物)が多い。


 越後の太守である虎ちゃんも、出陣の儀式や、戦勝のお祝いで箸をつけたりはするだろうが、現代のわたしたちほどには味わえていない、と言うのが実情だろう。


「よし、じゃあ今夜は虎ちゃんのために、鯛尽くしだ」

「ええっ、それは嬉しゅうござるが。何か、祝うことでもおありで?」

「現代の日本人は食べたいときに、食べたいものを食べるんだよ。ま、ついてきなって」


 戦国のお姫様は思った以上に、慎ましい。これは食べさせがいがあるぞ。












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