第6章 三角関係とすれ違い――恋と夢の選択
蓮からの誘いは、米の心に小さな波紋を広げ続けていた。
「世界に広める……かぁ」
夜、おにぎり屋のカウンターで仕込みをしながら、米はぽつりと呟いた。
両親は嬉しそうに「それもいいじゃない」と背中を押すが、米の胸は重たい。
一方、挟も眠れぬ夜を過ごしていた。
「俺じゃ、米の夢を叶えるのに力が足りないのかもしれない」
ハンバーガー屋の厨房で包丁を握る手に、力が入りすぎてしまう。
*
数日後、蓮の店「グローバル・フード・カフェ」がオープンした。
華やかな外観、異国情緒あふれるメニュー、SNSに映える内装――。
オープン初日から若者が長蛇の列を作り、商店街の話題を独占した。
「すごい人だかりだな……」
挟と米は少し離れた場所からその光景を眺める。
そんな二人に気づいた蓮が、余裕の笑みで手を振る。
「来てくれたんだな。どうだ? 一緒にこの舞台で挑戦してみないか、米」
「……」
米は返事を飲み込んだ。挟の視線を感じながらも、胸の奥で迷いが渦巻いていた。
「蓮さんのお誘いはすごくありがたいです。でも、私は――」
言いかけた瞬間、挟が割って入る。
「彼女は俺と一緒にやるって決めてるんだ!」
だが、その言葉に米は驚いたように振り返った。
「挟くん……私、まだ何も決めてないよ」
その一言は、挟の心に鋭く突き刺さった。
信じていたはずの絆に、初めて小さなひびが入った瞬間だった。
*
その夜。
「挟くんのことは大事。でも、私だって夢を追いたいの」
米はそう告げると、振り返らずに自宅の暖簾をくぐった。
残された挟は、ただ立ち尽くすしかなかった。
心に広がるのは、不安と焦り、そしてどうしようもない寂しさ。
「……俺、本当に米を守れてるのか?」
商店街の夜風が、彼の独り言をさらっていった。




