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第3章 祭りの準備とすれ違い

夏の蝉しぐれが響く七月。

商店街は恒例の「夏祭り」に向けてざわついていた。

屋台の位置決め、提灯の取り付け、イベントの打ち合わせ――その中心に、なぜか蛮鶴挟と尾ニ切米の二人がいた。


「で、今年は“ハンバーガー×おにぎり”のコラボ屋台を出すってわけか」

挟は腕を組み、汗をぬぐいながらため息をつく。


「そう。だから、どうやって合わせるか考えないとね」

米はスケッチブックを広げ、いくつかの案を書き出していた。


1.ライスバーガー風

2.ハンバーガーセットにおにぎりを追加

3.おにぎりの具をバーガーに挟む


「……なんか微妙じゃねぇか?」

挟が眉をしかめると、米はむっとした顔を向けた。


「文句ばっかり!じゃあ挟くんは何かアイデアあるの?」

「そ、そりゃ……」

言葉に詰まる挟。料理は得意でも、発想は得意じゃない。


「やっぱりね」米はぷいっと顔をそらした。

その仕草に、挟の胸がちくりと痛む。



準備の日々は、想像以上に忙しかった。

放課後は仕込みの試作。休日は宣伝のポスター作り。

最初は笑い合っていた二人も、だんだんと意見の食い違いが増えていく。


「もっと豪快な肉を使おうぜ! 夏祭りなんだし!」

「でも、食べやすさも大事だよ。お祭りでナイフとフォークなんて面倒でしょ」


「宣伝は派手なチラシでガツンと!」

「そんなの印刷代がかかりすぎるよ! 予算考えて!」


些細なことが積もり、顔を合わせるたびに衝突した。



ある夜。

店の前で並んだ提灯の灯りを眺めながら、挟は深いため息をついた。


(……なんでこうなるんだよ。米と一緒なら、楽しいと思ってたのに)


背後から声がした。

「挟くん、まだ残ってたんだ」


振り返ると、浴衣姿の米が立っていた。

試着中らしく、帯を少し気にしながら。


その姿に思わず言葉を失う挟。

けれど胸の奥のもやもやは消えず、つい口をついて出た。


「なぁ……俺たち、本当に組んで正解だったのか?」


米の笑顔が、一瞬だけ揺らいだ。


第3章(後半) 大ゲンカと仲直りのきっかけ


挟の言葉に、米は目を丸くした。

「……どういう意味?」


「だってさ、ぜんぜん意見合わねぇし。俺もイライラするし……。お前だってそうだろ?」


米は唇をきゅっと結び、しばらく黙っていた。

その沈黙が、挟にはたまらなく苦しかった。


やがて米が口を開く。

「……挟くんは、最初から全部自分の力でできるって思ってるでしょ。だから、私の意見なんて軽く見てるんだよ」


「そ、そんなこと……!」


「ある!」米の声が夜空に響いた。

「小さい頃は、なんでも“米と一緒じゃなきゃダメだ”って言ってくれたのに。今は、私の話なんて聞いてない!」


胸に鋭く突き刺さる言葉だった。

思わず挟は反論しようとしたが、言葉が出てこない。

図星だったからだ。


沈黙。

二人の間に、蝉の声だけが響いた。


「……もういい」米は浴衣の裾を翻し、踵を返した。

提灯の灯りの向こうへ小さな背中が消えていく。

それを呼び止める声が、挟の喉の奥に引っかかったまま出てこなかった。



翌日から、準備は別々に進めることになった。

ポスターは米が一人で描き、試作品は挟が一人で作る。

効率は上がったはずなのに、心はひどく空っぽだった。


(……これで本当にいいのか?)


答えを出せないまま、祭り前日を迎えてしまう。



前夜、商店街の広場ではリハーサルが行われていた。

そんな中、偶然耳に入った言葉が、挟の心を大きく揺さぶる。


「尾ニ切さん、ひとりで準備大変そうだなぁ。……もしかして、蛮鶴くんと仲悪くなったのか?」


「えっ、そうなの? 仲良さそうだったのに」


――胸がざわついた。

周囲の噂話に、米が困ったように笑っているのが見える。


(俺は……何やってんだ)



その夜。

挟は米の家の前に立っていた。

手には、大きな包み――「二人で考えていた試作バーガーの完成品」。


呼び鈴を押すと、驚いた顔の米が出てきた。

「……挟くん?」


「悪かった。俺、カッコつけて、お前の意見ちゃんと聞いてなかった」

そう言って包みを差し出す。

「これ……お前のアイデアもぜんぶ入れたやつだ。食べてみてくれ」


米は包みを受け取り、しばらく見つめたあと――小さく笑った。

「……ほんと、素直になるの遅いんだから」


ふっと肩の力が抜けた。

その笑顔を見た瞬間、挟は「あぁ、やっぱり一緒じゃなきゃダメだ」と心の底から思った。


二人はようやく、また並んで歩き出す。

明日の祭りに向けて――。

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