第3章 祭りの準備とすれ違い
夏の蝉しぐれが響く七月。
商店街は恒例の「夏祭り」に向けてざわついていた。
屋台の位置決め、提灯の取り付け、イベントの打ち合わせ――その中心に、なぜか蛮鶴挟と尾ニ切米の二人がいた。
「で、今年は“ハンバーガー×おにぎり”のコラボ屋台を出すってわけか」
挟は腕を組み、汗をぬぐいながらため息をつく。
「そう。だから、どうやって合わせるか考えないとね」
米はスケッチブックを広げ、いくつかの案を書き出していた。
1.ライスバーガー風
2.ハンバーガーセットにおにぎりを追加
3.おにぎりの具をバーガーに挟む
「……なんか微妙じゃねぇか?」
挟が眉をしかめると、米はむっとした顔を向けた。
「文句ばっかり!じゃあ挟くんは何かアイデアあるの?」
「そ、そりゃ……」
言葉に詰まる挟。料理は得意でも、発想は得意じゃない。
「やっぱりね」米はぷいっと顔をそらした。
その仕草に、挟の胸がちくりと痛む。
*
準備の日々は、想像以上に忙しかった。
放課後は仕込みの試作。休日は宣伝のポスター作り。
最初は笑い合っていた二人も、だんだんと意見の食い違いが増えていく。
「もっと豪快な肉を使おうぜ! 夏祭りなんだし!」
「でも、食べやすさも大事だよ。お祭りでナイフとフォークなんて面倒でしょ」
「宣伝は派手なチラシでガツンと!」
「そんなの印刷代がかかりすぎるよ! 予算考えて!」
些細なことが積もり、顔を合わせるたびに衝突した。
*
ある夜。
店の前で並んだ提灯の灯りを眺めながら、挟は深いため息をついた。
(……なんでこうなるんだよ。米と一緒なら、楽しいと思ってたのに)
背後から声がした。
「挟くん、まだ残ってたんだ」
振り返ると、浴衣姿の米が立っていた。
試着中らしく、帯を少し気にしながら。
その姿に思わず言葉を失う挟。
けれど胸の奥のもやもやは消えず、つい口をついて出た。
「なぁ……俺たち、本当に組んで正解だったのか?」
米の笑顔が、一瞬だけ揺らいだ。
第3章(後半) 大ゲンカと仲直りのきっかけ
挟の言葉に、米は目を丸くした。
「……どういう意味?」
「だってさ、ぜんぜん意見合わねぇし。俺もイライラするし……。お前だってそうだろ?」
米は唇をきゅっと結び、しばらく黙っていた。
その沈黙が、挟にはたまらなく苦しかった。
やがて米が口を開く。
「……挟くんは、最初から全部自分の力でできるって思ってるでしょ。だから、私の意見なんて軽く見てるんだよ」
「そ、そんなこと……!」
「ある!」米の声が夜空に響いた。
「小さい頃は、なんでも“米と一緒じゃなきゃダメだ”って言ってくれたのに。今は、私の話なんて聞いてない!」
胸に鋭く突き刺さる言葉だった。
思わず挟は反論しようとしたが、言葉が出てこない。
図星だったからだ。
沈黙。
二人の間に、蝉の声だけが響いた。
「……もういい」米は浴衣の裾を翻し、踵を返した。
提灯の灯りの向こうへ小さな背中が消えていく。
それを呼び止める声が、挟の喉の奥に引っかかったまま出てこなかった。
*
翌日から、準備は別々に進めることになった。
ポスターは米が一人で描き、試作品は挟が一人で作る。
効率は上がったはずなのに、心はひどく空っぽだった。
(……これで本当にいいのか?)
答えを出せないまま、祭り前日を迎えてしまう。
*
前夜、商店街の広場ではリハーサルが行われていた。
そんな中、偶然耳に入った言葉が、挟の心を大きく揺さぶる。
「尾ニ切さん、ひとりで準備大変そうだなぁ。……もしかして、蛮鶴くんと仲悪くなったのか?」
「えっ、そうなの? 仲良さそうだったのに」
――胸がざわついた。
周囲の噂話に、米が困ったように笑っているのが見える。
(俺は……何やってんだ)
*
その夜。
挟は米の家の前に立っていた。
手には、大きな包み――「二人で考えていた試作バーガーの完成品」。
呼び鈴を押すと、驚いた顔の米が出てきた。
「……挟くん?」
「悪かった。俺、カッコつけて、お前の意見ちゃんと聞いてなかった」
そう言って包みを差し出す。
「これ……お前のアイデアもぜんぶ入れたやつだ。食べてみてくれ」
米は包みを受け取り、しばらく見つめたあと――小さく笑った。
「……ほんと、素直になるの遅いんだから」
ふっと肩の力が抜けた。
その笑顔を見た瞬間、挟は「あぁ、やっぱり一緒じゃなきゃダメだ」と心の底から思った。
二人はようやく、また並んで歩き出す。
明日の祭りに向けて――。




